箱根山(中央火口丘)  自分の足で登らない山シリーズ第7弾      
               首都圏に近い国際観光地でもある火山
 
◆ 2012年11月25日

  自分の足で登らない山シリーズも回を重ねていつのまにか7回目となった。今回は、あまり準備する時間もなく、急遽計画したので、地元にしよう。神奈川県の誇るジオパーク箱根である。
 険しい火山が海岸に迫っていたため、京から東国へ至る古くからの旧東海道は、箱根を避けて、北にある足柄峠を越えていた。しかし、富士山の噴火により、箱根を越える新東海道が開かれ、江戸時代には箱根関所が置かれる天下の険となったのはよく知られている。



 古くから温泉地として知られ、明治時代にはすでに外国人御用達の山岳リゾートとして名を馳せていた。首都圏から近く、交通の便も非常に良い。そんなわけで、おそらく、神奈川県の数ある山の中でも最も知名度が高い山ではないだろうか。ただし、ホテルや旅館の値段も高い。なにしろ、宮ノ下の富士屋ホテルの枕詞は、未だにあの「ジョン・レノンも泊まった」である。ちなみに、私は、仕事で中に入ったことはあるが泊まったことはない。と、高級リゾート箱根を前に、貧乏自慢している場合ではない。今日は、箱根の一番高いところに立って、下界を見下ろし、世の中を見返してやるのである。

 ところで、箱根山という山はなく、真ん中にある火山と外輪山からなる全域の総称が箱根山である。このサイトでも、外輪山の西半分は神奈川県一周で歩いたし、水の旅でも中央カルデラから流れ出る早川、外輪山から流れ出す狩川新崎川藤木川などを探訪してきた。しかし、肝心の中央火口丘はまだである。その最高峰は神山であるが、実は長く神奈川県に住んでいながら神山には登ったことはなかった。今回はそれを果たしたい。それも「楽をして...」

  
   
    
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Hakone-map_01.pngより改変

 上で交通の便が良いと書いたが、箱根の場合は半端じゃ無い。なんと、中央火口丘の山頂にロープウェイが直接乗り入れているのである。

  1 箱根園から見た芦ノ湖               2 箱根園の紅葉
   

 小田原駅から西武色の伊豆箱根バスに乗って、箱根園に着いた。青色の箱根登山バスではダメである。ここにもまだ箱根山戦争が影を落としている。戦国時代の北条氏と武田氏の争いではない。戦後の高度成長期に、堤さんの西武と五島さんの東急がメンツをかけて箱根の覇権を争った戦争である。もっとも東急は代理戦争で実際の尖兵は子分の小田急である。鉄道、バス、ロープウェイ、ケーブルカー、遊覧船、ホテル、ゴルフ場、温泉、観光施設とそれぞれの分野で激しい争奪戦が繰り広げられた。戦争がエスカレートして、道路を封鎖してライバル会社のバスを通させないというとんでもないところまでいってしまった。現在は、さすがに仲直りしているらしいが、いまでもバス路線やバス停は別で、共通チケットもない。



 箱根園は、芦ノ湖東岸に面した西武の箱根最大の拠点である。プリンスホテル、コテージ、水族館、遊覧船乗り場、動物園、龍宮殿、ゴルフ場など盛り沢山だ。この箱根園から、中央火口丘の駒ケ岳まで、ロープウェイがのびている。もちろん、経営は西武グルーブだ。

 3 箱根園から駒ケ岳を望む


 箱根園から、中央火口丘の一角を占める駒ケ岳が目の前である。なんと頂上付近は白い。雪だろうか。写真3の景色を見てある山を思い出した。マウントレーニアである。森永の回し者ではないが、たしかに旨い...。いや、そうではなくて本物のマウントレーニアである。もっともシアトルには行ったことがないので、想像でしかないが。ちなみに、写真のとおり、正式名は駒ケ岳ロープウェイではなくて、駒ケ岳ロープウェーである。

 始発が9時10分なので、間に合うバスに乗ってきたのだが、写真を撮ったりコーヒーを飲んでいたら乗り遅れてしまった。このロープウェーは、最近のゴンドラ式のように次から次へと出るタイプではないので、次の出発は9時30分である。片道切符を買う窓口のおねーさんに、どこへ行くのかと聞かれ、神山方面と答える。「山頂は雪が降っており、大涌谷まで3時間かかるので十分気をつけてください」と注意される。軽装で行こうとする人が多いのだろうか。
 列に並んでいると、軽アイゼンを持って来なかったことに気がついた。まさか11月に雪が降るとは想像もしていなかったのである。少し不安になるが、周りを見るとどう見てもアイゼンなど持っていそうにない登山者ばかりなので、まあなんとかなるだろう。全長1800m、7分で一気に標高1356mの駒ケ岳山頂である。芦ノ湖の標高が723mなので、600mの標高を稼いだ。

  4 駒ケ岳ロープウェー                5 山頂駅から見る駒ケ岳山頂
   

 山頂には、本当に雪が積もっていた。麓は紅葉の秋であったが、ここはもう一気に冬である。
 箱根火山は伊豆半島を載せたフィリピン海プレートが日本列島に衝突した地下の隙間から、マグマが噴出したものらしい。その起源は65万年前だが、中央火口丘は最も新しい火山である。駒ケ岳は、2万年前の溶岩ドームだ。

 6 駒ケ岳山頂から芦ノ湖、真鶴半島、初島、相模湾を望む


 真鶴沖の相模湾が光っていた。天気予報は晴れであるが、いつものお約束で山頂からの眺めは雲ひとつない青空というわけではない。このシリーズはすでに7回目になるが、一度も快晴の山頂に立ったことはない。7連敗である。今回、なんとJ2に降格してしまったあのガンバ大阪でさえ、7連敗はなかっただろう。

 7 駒ケ岳山頂から芦ノ湖、伊豆半島、駿河湾を望む




  8 山頂の積雪                    9 箱根元宮へ
   

 10 箱根元宮の解説板


  11 馬降石                   12 馬降石解説板
  

  13 箱根元宮                    14 箱根元宮横の山頂標識
   

 山頂は、広く、一番高いところに神社がある。日本のほとんどの大きな山に山岳信仰があったということは、このシリーズを通して強く感じられるところだ。
 広い山頂には何もないが、ここには昔スケート場があった。子供の頃によく来たものである。とにかく寒かったのを覚えている。それはそうだろう。冬の吹きっ晒しの駒ケ岳山頂である。多分、屋外リンクでは水を撒けば自然に凍ったのではないだろうか。
 今は跡形も無い。そして、なんと駒ケ岳にはもう1本、東側からのケーブルカーがあった。つまり、現在の状況からは信じられないが、東西からロープウェイとケーブルカーが通じ、山頂にはスケートリンクがある一大リゾートだったのである。確かな記憶はないが、スケートリンクもケーブルカーも西武系だったのだろう。

 15 駒ケ岳山頂から箱根外輪山明神ヶ岳と丹沢大山を望む


 16 駒ケ岳山頂から箱根外輪山、足柄平野、大磯丘陵、相模湾、三浦半島を望む


 少し雲が多くて残念である。写真16は、せっかくの地元なので、たまには解説を入れようというわけである。

 17 駒ケ岳山頂から富士山を望む

 頂上を堪能した後、雪原の中を、というのは大げさだが、すっかり白くなった笹原をぬけて、いよいよ神山へむかう。駒ケ岳にも神様がいたが、今度はその名も神の山である。

  18 神山へ その1                 19 神山へ その2
   

 枝に雪がついて綺麗である。まるで樹氷のようだ。見方によっては、樹状珊瑚のようにも見える。ロープウェイのチケット売り場で脅かされたが、子供も歩いているくらいのハイキングコースで、雪も積もっていない。

 20 枝に積もった雪


  21 苔に積もった雪                 22 神山へ その3
   

 アイゼンは必要なかった。むしろ、スパッツのほうが必要だったかもしれない。道はドロドロにぬかるみ、水たまりも多い。しかも、お年寄りの団体バスツアーが先行し、登山道は混んで渋滞している。



  23 神山へ その4                 24 赤い実
   

 大きな声で名前を呼ぶ人がいて騒がしい。先に行くか、戻るかで揉めている。

  25 神山へ その5                 26 神山へ その6
   

 十字路は標高1240mの鞍部である。ここから、雪は消えた。お年寄りの団体バスツアーは、ここで休憩をとってくれたらしく、やっと先行出来る。

  27 十字路 その2                 28 十字路から神山へ
   

 先ほどもめていた団体が休憩していた。バスツアーのグループではなかったらしい。よく見ると6,7人の三世代の家族グループである。どうやら、大涌谷まで行くつもりでロープウェイのチケットも買ったが、嫁さんがごねているらしい。ローカットの靴では、濡れて辛いのだろう。子どもたちもぬかるみに嫌気が差したらしい。
 一方、リーダーはまだ若いおばあちゃんである。山好きらしく、今日の企画も彼女らしい。嫁さんは強硬に駒ケ岳に戻ることを主張している。おばあちゃんはそんな嫁を説得してなんとか神山まで行きたいらしい。嫁さんが「こんなの聞いてないわよ。だいたい、おばあちゃんだけちゃんとした格好じゃない!!」みてみるとたしかにそうである。一人だけ八ヶ岳に行っても通用しそうな装備である。思わず声をあげて笑いそうになるのを堪えた。おばあちゃん以外のメンバーは、普段着に毛が生えた程度の服装や靴だ。しかし、おばあちゃんも必死である。「この前の**の時みたいに下見すればよかったんだけど、まさかこんな道になっているとは思わなかったのよ。もう少しだから、せっかくここまで来たんだから、神山まで登ってみようよ。お願いだから。」
 まあ、普段から山を歩いているおばあちゃんにとっては、大した登山道ではない。だから、家族を連れてきたんだろうが、このひどいぬかるみだけは予想外だったのだろう。大涌谷からのチケットも無駄になってしまうのが惜しいらしい。
 こんな時は、おじいちゃんなり、旦那さんなりが事態を収拾すべくリーダーシップを取るべきだが、この家族の男性陣は、我関せずという感じで黙って事の成り行きを見守っている。それもまた可笑しい。女性の力が強い家風なのだろうか。ただ、どちらの味方をしてもあとで倍返しが来そうなので、黙っているのはサバイバルのための知恵なのかもしれない。



  29 神山を望む                   30 神山へ その7
   

 高度を上げると共に再び雪が現れて綺麗である。

  31 山頂直下                    32 神山山頂 その1
   

 11時25分、標高1438mの神山山頂に着いた。箱根火山のてっぺんである。頂上はそれほど広くはない。ちなみに、写真32の家族は先程もめていた家族ではない。

  33 神山山頂 その2                34 神山山頂 その3
   

 神山は駒ケ岳よりも新しく、7千年前の噴火による溶岩ドームだそうで、かなり新しい。地球・火山の時間スケールでいえば、つい最近である。神山が最後に噴火したのは、なんとたった3100年前である。

 35 神山山頂から富士山を望む


 展望はないが、少しだけ隙間があり、富士山が見えた。例のおばあちゃんのリーダーがいて、「富士山が綺麗でしょう。」を連発している。私の言うことを聞いてここまで登ったかいがあったでしょう、というわけである。しばらくすると、この家族グループは、再び駒ケ岳方面へ戻って行った。これは意外であった。というよりも最悪の選択である。神山から駒ケ岳へ戻るのと、大涌谷へ降りるのを比較すると、距離は同じくらいだが、また急坂を降りて、駒ケ岳山頂へ向けて再び登り返さなくてはならない。しかも多くの観光客が歩いて田んぼ状態になっていることはわかっている。十字路から芦ノ湖へ降りる道もあるが、かなりの距離がある。どう考えても大涌谷に降りるほうが楽なはずだ。ロープウェイのチケットも無駄にならない。
 中途半端な妥協が生んだ悲劇である。やはり、集団を統率するのは難しいものだ。ましてや、遠慮がなく本音やわがままが出やすい家族ではなおさらである。今日は良い人生勉強をさせてもらった。感謝しながら、次の目的地である冠ヶ岳へむかう。

  36 神山山頂 その4                37 冠ヶ岳へ その1
   



  38 白い枝                     39 冠ヶ岳を望む
   

 神山から先は、ぐっと人が少なくなった。やがて冠ヶ岳へ行く枝道の分岐点に着く。

  40 冠ヶ岳へ その2                41 冠ヶ岳へ その3
   

  42 冠ヶ岳分岐                   43 高根神社鳥居
   

  44 高根神社                    45 冠ヶ岳山頂へ
   

 小さな神社を過ぎると、冠ヶ岳山頂である。ここも狭くて展望がない。1409mで、神山より少しだけ低い。

  46 冠ヶ岳山頂                   47 冠ヶ岳標識
   

  48 冠ヶ岳山頂から西を望む             49 早雲山駅方面分岐
   

 今度は、今日の目的地である大涌谷に向かおう。



  50 赤い忘れ物                   51 仙石原と外輪山
   

 しばらく降りていくと、視界がひらけて仙石原と外輪山の広々とした風景が目に飛び込んでくる。

  52  冠ヶ岳を見上げる
  

 下から冠ヶ岳を見上げると断崖でまさに冠に見える。
 冠ヶ岳ができたのは、約3000年前。人類はすでに有史、古代エジプト文明の段階である。決して恐竜が跋扈する太古の昔ではない。冠ヶ岳の溶岩ドームは当時のまま鋭い角度で盛り上がったまま冷えて固まっている。

 53 大涌谷、仙石原、富士山を望む


 左に大涌谷の噴気孔、中央に仙石原高原、その後ろに丸岳などの外輪山、そのさらに奥には富士山、その左には愛鷹山連山が見える絶景である。富士山だけが、少し雲に隠れている。
 このあたりは硫化水素の充満する危険地帯で、ガス警報装置があり、立ち止まることは禁止されている。硫化水素を吸うと瞬時に意識がなくなるため、気づいた時には遅いので、日本でも温泉地などで時々犠牲者が出ている。
 冠ヶ岳といい、大涌谷といい、箱根はまさに活火山であることを思い知らされる。私が生きているうちに次の爆発を見ることが出来る確率も0では無さそうだ。

  54 大涌谷の水蒸気                 55 ススキ野原
   



 大涌谷のターミナルに着いた。大涌谷の爆裂孔がものすごい迫力で迫ってくる。

  56 大涌谷登山道入口                57 大涌谷 その1
   

 58 大涌谷 その2


 水蒸気と硫黄により岩がもろくなるため、地滑りが起きやすいと書いてある。

  59 大涌谷から明神ヶ岳を望む            60 大涌谷延命地蔵尊
   

 まだ時刻は13時である。ここから、どうしようか考えていると、外国人がバス停のオバサンになにか尋ねている。バスの時刻や行き先を聞いているようだが、今日は3連休の最終日でしかも天気が良いため、道路が混んでバスが殆ど動かないらしい。ロープウェイを奨めている。バスでも徒歩でも芦ノ湖方面は避けたほうがよさそうである。
 今日は早めに帰ろう。混んではいるだろうが、ロープウェイケーブルカー登山鉄道ルートが一番確実なようだ。ロープウェイは混んでいるが、桃源台方面より早雲山方面のほうが空いていてたすかった。しかも、ゴンドラは次から次へと来るので、乗り込むまでにそれほど時間はかからなかった。ちなみにこちらはもちろん小田急グループである。今日は両方にお金を落とす事になりバランスがとれた。

  61 大涌谷から冠ヶ岳のシルエット          62 箱根ロープウェイ大涌谷駅
   

  63 ロープウェイから見下ろす大涌谷         64 ロープウェイから明神ヶ岳を望む
   

  65 紅葉                      66 箱根ロープウェイ早雲山駅
   

  67 ロープウェイホイール              68 箱根登山鉄道ケーブル早雲山駅
   

  69  箱根登山鉄道強羅駅
   

 混んではいたが、渋滞もなく、無事強羅駅に着いた。

 GPSによる本日の歩行経路


 GPSによる今日の高度記録


 箱根中央火口丘は、駒ケ岳、神山、冠ヶ岳の三峰からなるが、展望は駒ケ岳がもっとも素晴らしい。そして、その1356mの山頂までは全く自分の足で登る必要がない。究極の山頂で、まさに観光地である。駒ケ岳から神山経由大涌谷のルートは、距離、高低差共にそれほどでもなく危険な箇所もない、ファミリー向けのハイキングルートと言って良いだろう。しかし、今シーズン初めての雪を箱根で見るとは予想外であった。いつも身近にあり、下から眺めていた箱根中央火口丘にやっと登ることができた。

(本日の歩数:14481歩)                        

関連ページ ◆ 箱根外輪山1 (2012年12月11日)
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