黒目川(くろめがわ) 探訪

 武蔵野台地から発して東久留米市を流れ、落合川と合流して埼玉県内を潤す湧水豊富な新河岸川の支流
第2日目(2011年4月16日)
       神宝大橋(東京都東久留米市・埼玉県新座市 都県境)〜 源流(東京都東久留米市)


 黒目川の2日目である。前回は神宝大橋まで歩いた後、支流の落合川を探索したため、黒目川の上流側は持ち越しになってしまった。今日は、東久留米駅を降りて前回の黒目川最終到達地点である落合川合流地点を目指す。

    

 落合川の北側を東に向かって流れる黒目川も武蔵野台地からの湧水が源流となっているようだ。源流はいったいどんなところだろうか、興味がわく。落合川ほど有名ではないことを考えると地味な湧水なのかもしれない。



  1 東久留米駅                    2 エサやり禁止の看板
   

 合流地点には、いくつかの案内板が立っていた。上の注意看板には、コイや鴨も入れたほうが良いと思う。東京都が立てた下の看板では、黒目川に生息する生物としてなんとニシキゴイが入っていた。

  3黒目川の生物紹介
   

 4 黒目川・落合川案内板


 上の案内板を見ると、所沢街道まで河畔の道が整備されているようだ。橋も多い。

  5 黒目橋から下流を望む               6 黒目橋から上流を望む
   

  7 昭和橋から下流を望む               8 昭和橋から上流を望む
   

 周囲の環境はごく普通の住宅街。水量も落合川と比べると少ない。

  9 神山大橋                     10 神山大橋上流側の河畔
   



  11 平和橋から下流を望む              12 平和橋から上流を望む
   

 対岸に緑の森と大きな桜の木がみえてきた。神社のようだ。

  13 厳島神社                    14 門前大橋
   

 神社の前にあるので、橋の名前も「門前大橋」、ストレートな命名である。

  15 門前大橋から下流を望む             16 門前大橋から上流を望む
   

  17 東久留米市氷川台1丁目付近           18 稲荷橋から上流を望む

   

 西武池袋線を過ぎてさらに上流へ。

  19 西武池袋線                   20 
弁天堀橋から下流を望む
   



  21 下田橋から上流を望む              22 旧河川流路跡
   

 よく見られるように、河川改修により直線化され、残された蛇行跡はここでも公園になっている。人影を見て、エサをもらえると思ったコイがわらわらと集まってきた。もはや、お金持ちの庭にある池と同じ状態である。

  23 新大橋から上流を望む              24 コイの群れ

   

 写真25の護岸跡コンクリートを見ると、以前はかなり蛇行していたようだ。

  25 旧河川の護岸跡                 26 中橋から上流を望む

   

  27 坂本橋から下流を望む              28 落馬橋から上流を望む
   

  29 見事な桜並木                  30 東久留米市野火止1丁目付近
   



 よしきり橋には、猫に関する掲示や張り紙が入り乱れて貼られている。ネコ迷惑派とネコ餌やり派の深刻な対立に、行政が加わって乱戦模様のようだ。コイや鴨の件もそうだが、エサをやるという一番おいしいところだけを楽しんで、結果責任を取らない日本人が多いのは困ったものだ。

     31
 よしきり橋付近の掲示 その1        32 よしきり橋付近の掲示 その2
         

 よしきり橋の上流には大量の流入水があった。見た目の水質は良好であるが、湧き水ではないようだ。排水口の上を見ると写真34のとおり、コーラのビンがたくさん積んである。コカ・コーラ イーストジャパン プロダクツ多摩工場だ。豊富な地下水を求めてこの地に清涼飲料水の工場が出来たのだろうか。竣工は高度成長期の前、昭和38年ということなので、まだ、住宅街ではなかったはずだ。

  33 工場排水                    34 コカコーラ工場
   

 そうすると、この流入水は工場排水ということになる。なぜそう判断できるかというと、水量が多すぎる、周囲の地形が湧水とは考えにくい状況にある、という理由の他に、もうひとつ決め手があった。それは、排水口の下にある四角いブロックの緑色の苔の生え方が、生物処理をした排水特有のものだ、ということだ。これまで数えきれない湧水口や下水処理場の排水口を見てきたが、湧水だとこのような苔、(正確には藻類か?)が生えることはない。活性汚泥処理をした排水は、見た目は綺麗に見えても、有機物やリン・窒素の量が多いので、深緑色の糸状藻類が発生するのである。

 HPでは水をリサイクルしていると書いてあるので、この程度の排水量で済んでいるのかもしれない。しかし、黒目川の水量から見て、この工場排水が、かなり有力な水源になっていることは確かである。と書いたら、何と、コカコーラのHPにはこんな記載があったので抜粋しておく。

 
コカ・コーラ イーストジャパンプロダクツ(株)多摩工場は、都心からも近い住宅地エリアに位置している工場で、さまざまな取り組みによって近隣環境との共生を目指しています。多摩工場では創業以来工場排水を最高レベルで浄化し、黒目川などの河川に放流してきました。湧水河川である黒目川の水量維持は、生態系保全の観点で魚類・鳥類などにとってとても大事なことであり、多摩工場では、東京都や東久留米市と連携し、河川に放流し続けることにより、自然豊かな黒目川の水量維持/生態系保全に貢献しています。

 驚くべきことに、コカコーラ自らが、工場排水が黒目川の水量維持に貢献していると公言しているのである。さすがに外資系らしく、こういう現実を逆手にとったPRが上手い。まあ、この排水口をみれば嘘ではないことがわかる。しかし、これでは、黒目川が湧水豊富な川とは言えないだろう。都市近郊でよく見られる、下水処理水や工場排水がかなりの割合で流入しているごく普通の川である。そもそも生物処理した排水と湧水では、見た目はともかく水質が全く異なる。落合川とは水草の植生が全く違うことからもそれは明らかである。そういう意味では、改めて落合川の素晴らしさが再確認できた。

  35 降馬橋から下流を望む              36 河畔のベンチ
   

 先ほどは落馬橋という名前の橋があったが、今度は降馬橋、このあたりは馬に関する由来の橋が多いようだ。

  37 野菜直売所                   38 本邑橋(ほんむらばし)と水路
   

 写真38は、浸水対策の施設だろうか。このあたりは、湧水が豊富で、川も多いので、逆に大雨の時は浸水しやすい地域である。このため、東京都や東久留米市による、河川と下水道の様々な対策がとられているらしい。役所の計画はここに詳しい。もちろん、それに反対する意見もあるようだ。



 平成橋に着いた。上流側には支流の出水川の合流点がみえる。

  39 平成橋上流側の出水川合流地点          40 都大橋(所沢街道)
   

 そして、ついに所沢街道に到着した。ここで大規模な河川改修と河畔道路の整備が終り、上流側は写真42、43のとおり、昔ながらの暗い都市近郊河川になる。これまで、公共工事に批判的なことも書いてきたが、本音を言えば、やはり、川沿いを楽しく快適に歩けるのは改修後の川であることは事実である。

  41 都大橋から下流を望む              42 都大橋から上流を望む

   

  43 所沢街道から上流を望む             44 東久留米市下里5丁目付近
   

 写真44の所は、暗くなりがちな川に花が彩りを添えて明るい雰囲気だ。
 やがて、黒目川は幹線道路を暗渠で横断し、氷川神社の前で再びその姿を現す。このあたりは、昔ながらの武蔵野を流れる川の面影を残している。

  45 氷川神社前から下流を望む            46 氷川神社前から上流を望む
   

 しかし、氷川神社から上流は、私有地の中を流れていて、近づくことはできない。仕方なく、やや離れた道路を歩く。宮浦橋でやっと黒目川の姿を再びみることが出来た。

  47 氷川神社                    48 宮裏橋から下流を望む
   



 ここまで未整備のまま私有地の中を流れていた黒目川も、ここから上流側は、突然、人工的な公園内を流れる親水施設へと大変身を遂げる。「しんやま親水広場」である。

  49 しんやま親水広場 その1            50 しんやま親水広場 その2
   

 51 しんやま親水広場案内板


  52 しんやま親水広場 その3            53 しんやま親水広場 その4
   

 黒目川の流れによって、この細長い公園は擬似的ではあるが素晴らしい環境を提供する魅力あふれる公園になっている。水の力は偉大だ。それは、親子連れ、子供たちだけでなく、写真56のように大人の語らいの場になっていることからもわかる。自然河川は失われてしまったが、フェンスに囲まれ、暗く汚れたコンクリート水路が蘇った公共事業の成功例ではないだろうか。洪水の防止対策もバッチリのようだ。

  54 しんやま親水広場 その5            55 ふれあい橋
   

  56 ふれあい橋から下流を望む            57 ふれあい橋から上流を望む
   

 いつの時代も子供は川遊びが好きだ。ここなら危険はなく、安心だろう。なぜか女の子が多いようだが楽しそうである。もう一方の川の主役である男の子達はどこに行ったのだろう。

 58 しんやま親水広場 その6





  59 しんやま親水広場 その7            60 さくら橋から上流を望む
   

 男の子達はここにいた。写真58のところでは物足りなかったのだろう。網を持ち川に入る姿は真剣である。ちなみにターゲットはザリガニか小魚かと思って聞いてみたら、オタマジャクシだそうだ。

  61 子供たち                    62 しんやま親水広場上流端
   

 細長く東西にのびている「しんやま親水広場」もここが上流端になる。この先は小学校の敷地の横にデッキが作られ、河畔遊歩道がさらに奥に続く。

  63 しんやま親水広場から柳窪方面へ         64 第十小学校付近 その1
   

  65 第十小学校付近 その2             66 第十小学校付近 その3
   

 ここはコンクリート護岸もなく比較的自然な感じが残っている。川の横に咲く花の彩が心を和ませてくれる。

  67 第十小学校付近 その4             68 十小みらい橋から上流を望む
   

 何気ないが、武蔵野らしさを残した、何故かホッとする小学校の裏手の光景である。

 69 第十みらい橋から下流を望む




  70 さんぼう橋から上流を望む            71 庚申塔と石橋供養塔
   

 河畔遊歩道の整備もここで終る。この先は工事中のようなので、地図で現在地を確認しながら一般道を行くことにする。

  72 石橋供養塔解説板                73 天神橋から下流を望む
  

 石橋供養塔を過ぎて、天神橋に着いた。下流側は、写真73のように林の中を川沿いに遊歩道が続いていて、なかなかイイ感じであるが、工事中で入れない。おそらく、小学校近くのさんぼう橋から続いているのだろう。ほぼ完成しているようなので、もうすぐ通れるようになりそうだ。
 問題は橋の上流側である。写真74のとおり、水の流が完全に途切れている。つまり、現時点での黒目川上流端はこの天神橋ということになる。では、水源はどこなのか。そう思って右岸の橋のすぐ下流側を見ると、小さな四角の穴からかなりの水量で水が流れ込んでいる。写真75だ。このあたりは森で、湧水地帯らしいので、どこからか湧いた水が流れ込んでいるのだろうか。とにかく、この流入水が現在の黒目川源流の水源となっていることは間違いない。

  74 天神橋から上流を望む              75 天神橋脇に流れ込む水流
   

 天神橋上流側の水が途切れるところが、写真77である。特に湧水は見当たらない。残念ながら、ここから上流には、水が流れていないようだ。2011年4月16日14時26分、ついに黒目川の最初の一滴を確認したわけである。

  76 天神橋解説板                  77 天神橋上流側の源流端
  

  78 天神橋から天神社へ               79 天神社前
   

 神社前には僅かな水たまりがあるが、流れはなく、止水状態である。このあたりに湧水があったらしいが、残念ながら今現在は枯れているようだ。

  80 長福橋から下流を望む              81 長福寺裏手の橋から下流を望む
   

 その上流は藪の中を流れているが、やはり水は溜まっているだけである。そして、ついに新青梅街道に着いた。

  82 長福寺裏手の橋から上流を望む          83 新青梅街道
   



 新青梅街道から見た黒目川源流が写真84であるが、残念ながら淀んだ水が溜まっているだけである。道の反対側は、小平霊園だ。

  84 新青梅街道から下流を望む            85 小平霊園内さいかち窪遠景
   

 霊園は広々とした公園のようになっているが、下の案内図の現在地の上の部分が、涙の形をした緑地になっていることがわかる。ここが、一般的に黒目川の源流とされる「さいかち窪」である。しかし、今まで探索してきたとおり、2011年4月16日現在の黒目川源流はもっと下流の天神橋である。もっとも、今は雨が少ない時季で、天神橋より上流でも水が流れた痕跡があることから、季節により湧水量が変化し、源流最上流端が上下しているのだろう。

    86 小平霊園案内図
    

  87 霊園内で遊ぶ若者                88 さいかち窪 その2
   

 さいかち窪周辺は、墓地というにはあまりに広々して明るい雰囲気のため、若者がバギーを乗り入れたりして、半ば公園と化している。女の子がいるので、カッコイイところを見せたいという気持ちは十分理解できるが、仮にも霊園内である。爆音をたてて我が物顔に走りまわるので、そのうち通報されそうな感じだ。
 バギーに轢かれないように注意しながら、さいかち窪の中に入る。林の中が確かに窪地、というよりも水路となりそうな溝といったほうがいいかもしれないが、とにかく奥に続いているようだ。かなり広いが水たまりや湧水は全くない。

  89 さいかち窪 その2               90 さいかち窪 その3
   

 昔の武蔵野の雑木林といった雰囲気の中を進んでいく。窪地の溝があちこちから集まっている。

  91 さいかち窪 その4               92 さいかち窪 その5
   

 最後に辿り着いたのが、写真93の穴である。明らかに人工的なものだが、ここが降雨時のさいかち窪への主な水源となっているようだ。写真94のとおり、中を覗いてみる。
 カメラを入れ、向こう側にかすかな光が見えたその瞬間に、すえたような匂いと共に、ぞっとするような冷たい風が吹いてきた。死者の怨念を感じたような気がして、思わず穴から離れる。そう、ここはかつての源流であるとともに、たくさんの霊が眠る広大な墓場の一角なのである。その地下から吹いてくる風は.....
 後で冷静になって考えれば、今日は気温が高く、地下との気温差があったことがわかるが、その時は心の中を冷たい風が吹きぬけた瞬間だった。

   93 さいかち窪の終末               94 管渠の内部
   

 この管渠はおそらく、墓地内の雨水の排水溝に継っているものだと思われる。かすかな光が見えたり、風が吹いてきたのもそのためだろう。ロマンも怪奇現象もないが、つまり、さいかち窪の主な水源は、墓地内の雨水集合管だということである。このさいかち窪は数年に一度雨がたくさん降ると水がたまり、黒目川の水源となるようだ。もちろん、開発前は常時水のある湧水地帯だった可能性は高いだろう。写真94を見直していただくとわかるが、管渠の4割程度の高さまで泥が付いているのがわかる。この高さが、さいかち窪の最大貯水時の水の高さだと思われる。
 管渠の上は、写真95のとおり舗装道路と墓地が広がっている。道路の端に排水溝があるのがわかる。

  95 さいかち窪外周                 96 さいかち窪の真上にある墓地
   

     

 正門前の銘板によると、小平霊園は都営で昭和23年5月開園とある。思ったよりも古く、戦後すぐだ。太平洋戦争によるたくさんの犠牲者を埋葬する必要があったのかもしれない。戦前のさいかち窪と黒目川源流がどうなっていたのかは今となっては想像するしかない。
 
 2018年8月19日追記
 「過去の源流の姿は想像するしかない」と書いたが、現在、明治時代の地図と現在の地図を簡単に比較できるようになっている(歴史的農業景観閲覧システム)。それによると下図のとおり、明治時代の源流は現在のさいかち窪付近であり、雑木林の中から湧き出ているようなので、源流のさいかち窪付近の雑木林の光景はあまり変わっていないのかもしれない。




  97 小平霊園正門前                 98 小平霊園への参道 その1
   

 小平霊園は小平駅から写真のように美しい参道を歩いてすぐで、今となっては墓地にするのが惜しいほどの贅沢な立地条件である。その道沿いには参道と呼ぶにふさわしい佇まいの店が並んでいる。普通の観光地と違うのは、それらが土産物屋ではなく、石材店や花屋であることだ。

 99 小平霊園への参道 その2


  100 小平駅
   

 小平駅から電車で都心に回帰した。

 さて、黒目川の源流はどこかということについて考えてみよう。探索時に限って言えば、源流はさいかち窪であるという通説は事実ではなく、天神橋の脇で黒目川に流れこむ水であることがわかった。では、この水はどこから来るのだろうか。残念ながらそれらしき水路はなく、現地で確認することはできなかった。しかし、後日、ネット上で検索していると、衝撃の事実が明らかになる。この水流は湧水ではなく、近くにある山崎製パン武蔵野工場からの排水であるというのだ。どうも湧水にしては様子がおかしいと思ったが。
 つまり、さいかち窪が源流だと言われている黒目川の源は、実は湧水ではなく、工場排水だったのだ。途中で合流するコカコーラの工場排水と併せて、黒目川の主な水源は、2つの工場からの排水だというのが今回の調査の結論である。湧水が枯渇してしまった現在、多雨季を除けば、地下水を大量に汲み上げ、常時放流してくれる食品工場の排水が、黒目川の主要かつ安定的な水源として、川の流量を維持しているのである。

 源流の状況は別として、黒目川は、新河岸川から所沢街道までと、しんやま親水広場およびその上流は、よく整備され、武蔵野の風景を堪能できる歩きやすい川だ。また、支流の落合川を含め、武蔵野の湧水の現状を観察でき、貴重な経験であった。

 (本日の歩数:21515歩)

 
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