仙丈ヶ岳 第1日目  標高3033m 登山開始地点標高2030m  

  自分の足で登らない山シリーズ第30弾  南アルプスで最もイージーな初心者でも登れる3000m級の山
 
◆ 2015年8月3日

 このお手軽登山シリーズでも、3000m級の山というと、限られてくる。これまで登った山は、乗鞍岳と木曽駒ヶ岳の2つである。どちらもバスとロープウェイで約2700m地点まで行けるので、あと300m登るだけであり、高山病、すなわち空気の薄さのリスクを除けば、だれでも登れると言っても良いだろう。

 そして、今回はいよいよ南アルプスにチャレンジである。南アルプスは、北アルプスより地味で、日本で2番めに高い北岳を始め、アプローチが難しく、標高も高い山という印象だが、1980年に南アルプススーパー林道が開通してからかなり登りやすくなったらしい。
 今回登る予定の仙丈ヶ岳は、南アルプスの山の中でもなだらかで初心者でも登りやすいと評判の山である。それでもこの林道がなくては、一般人は登れなかっただろう。
 ちなみに反対運動が激しかったこのスーパー林道の名称であるが、元々の目的である森林伐採のためではなく、地域振興、つまり簡単に言うと観光客や登山客の呼び込みのための道路であるから、「スーパー」なんだそうで、この私もその恩恵を預かっている訳である。



 この林道の最高地点であり、山梨、長野両県境でもある北沢峠が登山口だ。ここの標高は、2030mあるので、仙丈ヶ岳まですぐそこである(少なくとも地図の上では...)。ここからなら私でも登れるだろう、というテキトーかつ楽観的な予想で計画をたてたが、登山口から山頂までの標高差は、1000mちょっとあり、これがこのシリーズの趣旨に反するかどうか、ビミョーなところである。実際に初心者でも登れるかどうか、ここは登山のシロートである私が体当たりで、リポートするしかあるまい。

 なんだかよくわからない目的とテンションであるが、ここで我に返って、北沢峠までのアプローチを調べてみる。さすが北沢峠は山奥だけあって行くだけでも結構時間がかかり、日帰りではちょっときつそうなので、現地で一泊することにした。林道には一般車は入れないので、長野県の伊那側または山梨県の広河原からバスで入るしかない。ただし、広河原も一般車通行禁止なので、山梨県側からだと、芦安温泉か奈良田温泉まで車で行ってバスまたはタクシーに乗り換えるか、新宿または甲府からバスで広河原まで行くことになる。
 どれも結構不便であるが、神奈川県から最も便利なのは、車で直接芦安温泉に入る方法だろう。神奈川県南部から芦安温泉まで、2時間半くらいで行けるのだが、これも圏央道が開通したおかげである。

 8月のこの時期は、午前中のバスは、芦安市営駐車場発5時30分と7時55分の2本で、広河原で乗り継いで北沢峠には、それぞれ7時15分と9時25分に着く。ただし、混雑時には臨時便が出るらしい。しかし、今日は平日なので確証はない。

 さすがに、夜中の出発は眠いし、どうせ1泊するのだからと、7時55分のバスに間に合うように、家を5時に出た。バス発車時刻の30分以上前に芦安温泉につくと、「すぐに出発するのか」と聞く、怪しげな人に誘われた。乗り合いタクシーである。急かされたので慌てて靴を履き、携帯を忘れそうになりながら準備をすると、1200円を言われるままに払わされる。たぶんバスと変わらない料金だろう。なぜか、運転手さんと若者の間でお釣りを渡したかどうかでもめていた。幸先が思いやられるが、トイレに行かせてもらって戻ると何故か問題は解決していて、最後の乗客となって9人乗りのワゴン車の助手席に乗り込む。



 芦安から夜叉神峠を越えて、南アルプススーパー林道がつづく。恐ろしいほどの断崖絶壁や、信じられないほど暗くて粗末なトンネルを通るが、よくこんなところに林道を通したと感心するばかりである。1時間ほどタクシーに乗って、8時半前に広河原に到着した。広河原の標高は1520mだ。天気は快晴。

  1 広河原
     



 広河原は北岳の登山口としても有名である。立派な建物があった。9時発の北沢峠行きバスは、ほぼ満員の乗客を乗せて発車する。平日でもこれでは、土日やお盆の期間は大変だろう。

 予定通り、9時25分に標高2030mの北沢峠に到着した。きれいなトイレがある。いよいよ出発である。ここから標高差1000mを登っていくわけだ。天気はよいが、さすがに涼しく、絶好の登山日和である。

  2 北沢峠                      3 北沢峠の仙丈ヶ岳登山口
   

 美しい森のなかを登っていく。すでに標高が高いためか、ブナを中心とした森ではなく、針葉樹が目立つ。

  4 針葉樹が目立つ森林                5 尾根に登る
   



 6 美しい樹林帯

 一合目をすぎて、尾根沿いに歩き2195mのピークを越えて二合目に到着した。ここは北沢峠への巻き道の分岐になっている。

  7 二合目
     

 後ろを振り返ると、白い三角形の高い山が見えた。甲斐駒ヶ岳である。見上げるほど高く、すでに少し雲がかかっている。仙丈ヶ岳はあそこよりも高いのだからなんだか不安になってきた。

 8 樹間から甲斐駒ヶ岳を望む


 二合目の鞍部を越えると、いよいよ本格的な登りになり、高度を上げていく。岩と小石の登山道だが、比較的歩きやすく、危険なところも全くない。ハイキングコースと言っても良いかもしれない気楽な道である。登りではあるが、ゆっくり登ればなんとかなりそうな道である。それにしても、亜高山帯のため植物相が低山と違って、独特の雰囲気である。

 9 高度を上げる



 藪沢大滝ノ頭を目指して登っていく。

  10 四合目                     11 藪沢大滝頭へ
   

 11時16分に五合目である藪沢大滝ノ頭に到着した。北沢峠から1時間30分位かかっている。休憩を入れながらのスローペースだが、ここで体力を温存しておかないと、この先がヤバそうなので意識的にセーブした結果である。ここの標高は、2519mなので、500m登ったことになり、全行程のちょうど半分である。
 今日は、馬の背ヒュッテに泊まる予定なので、体力がなくなったらここを右に入って直接山小屋に行こうと思っていたが、杞憂に終わったので、そのまま頂上を目指す事にする。

  12 藪沢大滝頭分岐                 13 藪沢大滝頭案内板
   

 登山地図によるとこの藪沢大滝ノ頭から少し上で森林限界を越えると書いてある。楽しみである。

  14 樹林帯から森林限界へ              15 六合目
   

 写真14のような大きな石が転がる登山道の周囲の木の高さが、だんだん低くなったな、と思っていると、六合目に到着した。標高約2650mだが、ここで樹木はなくなり、前方には写真16のような、ハイマツの緑の絨毯がどこまでも広がる穏やかな斜面が姿を現した。景色は素晴らしいのだが、六合目ではスズメバチがまとわりついてうるさいので、長居をせずに出発する。天気は残念ながら雲がかかって、青空全開というわけにはいかない。

 16 森林限界を越える




 それほど急な斜面ではないが、やはり空気が薄いので、呼吸が苦しく心拍数も上がりがちで、ペースは上がらない。が、それもこの雄大な斜面をゆっくり楽しめるということである。

 17 ハイマツ林の中を登る


 次の目的地は、標高2855mの小仙丈ヶ岳である。

  18 小仙丈ヶ岳へ その1
     



 19 小仙丈ヶ岳へ その2


 12時26分に、小仙丈ヶ岳に到着した。沢山の人が休憩している。

  20 小仙丈ヶ岳頂上 その1             21 小仙丈ヶ岳頂上 その2
   

 ここで、コンビニおにぎりを食べて、頂上へのエネルギー補給をしよう。水と食料を消費して、ザックが軽くなったところで、12時40分に小仙丈ヶ岳を出発した。

  22 仙丈ヶ岳へ その1
     

 小仙丈ヶ岳から仙丈ヶ岳への登山道の左側には、いかにも高山の景色という感じの、ゆるやかな曲線で構成された地形が広がっている。小仙丈沢カールである。1万年前の氷河期には、ここが白い氷河に覆われていたのだろうか。壮絶な景色だっただろうと想像するしかない。

 23 小仙丈沢カールと仙丈ヶ岳




 24 高山植物


 25 北側から湧き出る霧


 それにしても霧がひどく、頂上からの展望は望めそうにない。ところで、山での霧のことを、よく「ガス」というが、実際には小さな水滴の集まりなので「ガス」というのはあまり適切な言葉ではないな、などとどうでもいいことを考えるのは、やはり、酸素が薄くて頭の働きが鈍っているからだろうか。

 26 小仙丈沢カールの縁を登る登山道


 霧の合間に写真を撮りながら進んでいく。写真26の鞍部に降りる岩場で登ってくる老人を待っていると、声をかけられた。行程を聞かれて、今日は頂上に行ってももう景色は望めないから、途中で右に曲がって仙丈小屋から馬の背へ降りたほうがいいという。確かに、そうしようかと思っていたところだ。明日の午前中は間違いなく晴れるので、明日ご来光を見ながら登った方がいいと勧められた。地元の俺が言うのだから間違いないという。

 27 仙丈ヶ岳へ その1




 小仙丈ヶ岳から先は、多少の上り下りはあるが、それほどの急斜面ではなく、気持ちよく歩ける稜線である。これで天気が良ければ最高だけど。

  28 八合目
     

 動けなくなって道端に寝ている人がいた。高山病だろうか。

 29 仙丈ヶ岳へ その2


 30 仙丈ヶ岳へ その3


 13時28分に、仙丈小屋への分岐に着いた。先ほどの老人の言うことを聞くならば、ここを右へ降りて明日再度頂上を目指すことになる。しかし、標高を見ると2900mを超えていて、頂上まであとたった100mだ。明日、寝不足や体調不良で登れなくなるかもしれない。後悔したくないので、ここは左に進路を取り、頂上を目指すことにした。

  31 仙丈小屋分岐
     

 ちなみに、さすがにここではスニーカーの人はおらず、みんなトレッキングシューズを履いている。しかし、いつも履いているタイオガブーツは、結構重い。無雪期の一般道なら、もう少し軽い靴が良いと思って、今日はセイバーミッドという軽量シューズにしてみた。安いし、これだと車の運転もできるのでなかなか良い。そして、結論から言うと、3000mでもなんの問題もないどころか、軽くて非常に快適である。正直、最近は、普通の山道なら、本格的な登山靴やトレッキングシューズは、重くて大げさすぎるのではないかと思えてきた。



 32 仙丈ヶ岳へ その4


 霧の中の稜線を歩く。

 33 仙丈ヶ岳へその5


 右下の眼下に山小屋が見えた。藪沢カールに建つ仙丈小屋だ。

 34 藪沢カールと仙丈小屋


 腕の高度計がついに3000mを超えた。さすがに息が苦しく、何度も深呼吸をする。3000mの酸素分圧は低地の7割以下である。乗鞍岳に登った時にも見られたが、手のひらと指が紫色になって、ややチアノーゼ気味だ。頭痛も少しあるようだが、まあ、歩けないほどではない。深く息を吐くことと水分補給に努めることを心がけよう。

  35 標高3000mを越える
         

 霧の中で、こんもりした岩のピークの向こうに、人がたくさん建っているシルエットが浮かんだ。たぶんあそこが頂上だろう。もうすぐそこである。

 36 山頂手前のピーク




 37 山頂附近の高山植物 その1


 老夫婦の奥さんに話しかけられた。このようなことはよくあるが、話しかけてくるのはたいてい奥さんである。女性のほうが社交性があるのか、あるいは、男性だとプライドがじゃまをするのかもしれない。それは良いのだが、そのご夫婦は今日は馬の背ヒュッテに泊まるというので、私もです、と答えたが、要するにそこまでの道を教えてくれということらしい。というよりも連れて行って欲しいということかもしれない。スマホを出して教えてあげたが、いくら初心者コースとはいえ、地図もコンパスも持たず、現在位置やルートも把握しないで、こんなところまで来るのはどうなんだろう。濃霧の中でこういう人が道に迷って遭難しますという、お手本のような人たちである。

 38 仙丈ヶ岳山頂直下


 13時57分、3033mの頂上に着いた。何も見えないが、とりあえず無事に目的を果たすことが出来てよかった。ここまでTシャツで登ってきたが、さすがに長袖を着た。展望はないが、思ったより風は強くない。

  39 仙丈ヶ岳山頂標識
     

 天気が悪いので、雷鳥が出てきそうな感じだったが、実際に近くにいた若者が雷鳥があそこにいたと話していた。

 40 山頂附近の高山植物 その2


 41 頂上から小仙丈ヶ岳を望む




 42 藪沢カールと仙丈小屋を見下ろす


 43  山頂を後にする


  44 仙丈小屋                    45 仙丈ヶ岳の水場
   

 14時42分、仙丈小屋についた。藪沢カールの中に建っていて、藪沢の源流が水場になっているようだった。ガイドによると8月は、水が枯れることがあると書いてあるが、今日は結構勢い良く水が出ている。冷たい水を一口飲んだ。



 藪沢カールから続く源流沿いに下って、頂上方向を見上げると、山頂がかろうじて見えた。それにしても、登るのは大変だが、降りるのはあっというまである。明日、もう一度登るとすると、あまり下りたくないのだが、仕方がない。

 46 仙丈小屋を見上げる


  47 フェンス内の高山植物              48 馬の背から藪沢への分岐
   

 15時26分に、馬の背ヒュッテに到着した。丁度良い時間である。

  49 馬の背ヒュッテ
         

 この山小屋は、一泊二食付きで8500円。昨日より空いているとのことで、布団1枚に一人づつだった。暗くなるまで外にいて、16時半にカレーの夕食を食べるとすることがなく、ウダウダしていると、突然の雨音と雷の音が響き渡った。激しい雷雨を窓から眺めるが、こういう時はこんな狭い山小屋でもありがたい。やがて雷雨が収まり、20時に消灯、起床は4時、朝食は4時半から6時半までである。隣の若者のいびきがうるさいのと、空気が薄いせいで、よく眠れなかったが、夜中にトイレにいくときれいな月と星空が出ていて明日の天気は期待できそうである。



 GPSによる本日の歩行経路


 GPSによる今日の高度記録 (本日の歩数:9319歩)


 今日の行程は、前半の標高差500mは森林帯、後半の標高差500mはハイマツの高山帯で、山頂までなんとか登り切ることができた。こうして仙丈ヶ岳の第一日目は無事終わったが、明日の予定は、体調と天気次第で判断することにしよう。地元の老人が話していたとおり、明日は青空がみられるのか。

NEXT◆仙丈ヶ岳第2日目

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