相模国と武蔵国の国境を行く 2    
◆ 2014年9月6日  南万騎が原駅 〜 東戸塚駅  



 相模の国と武蔵の国の国境をたどる放浪の旅の2日目である。前回は、南万騎が原という、広々とした草原で馬に乗って戦う武士を連想させる駅が終着点であったが、今日は、そこからさらに東へ続く国境線を歩くことになる。
 南万騎が原駅に降り立ったのは8時50分だった。

  1 南万騎が原駅前                  2 区境を東へ
   

 区境へ戻って、直線的に区画された道路を東に向かうと、開発されずに残っている昔ながらの地形そのままのこども自然公園である。



  3 こども自然公園入口                4 こども自然公園 その1
   

 かつて騎馬武者が通った国境の道が自然公園内に残されていた。そして、公園内で、相模国側は、泉区から戸塚区に変わる。

  5 こども自然公園 その2              6 武相堺道解説板 その1
   

 そして、緑の広場の横で、なんと武相堺道という石標と解説板を見つけた。国境の証である。横浜市内に残された貴重な緑のせいか、歩く人、走る人は多い。かつてはこの尾根の古道を多くの村人が生活や交易のために歩いたのだろう。南万騎が原駅付近では国境の尾根がすっかり破壊されていたために、これは余計に嬉しい。

  7 武相堺道解説板 その2              8 石標
   



  9 国境のタイワンリス                10 こども自然公園 その3
   

 自然公園のなかに残された貴重な国境の道であるが、今度は住宅でなくゴルフ場開発のために破壊されていた。

  11 こども自然公園 その4             12 ゴルフ場に突き当たる
   

 国境の尾根道は写真12を直進していたはずだが、残念ながらゴルフ場になってしまっている。戸塚カントリーである。お金だけでは会員になれないという、ゴルフをする人なら誰もが憧れる名門コースで、できたのは、昭和33年。戦後から高度成長期に入る前の時代に、この国境の尾根を含む丘陵地帯に目をつけた金儲けの慧眼がいたのであるが、その後、高度成長期の昭和40年代には神奈川県がゴルフ場だらけになり、昭和50年代、当時の長洲知事はついに県内のゴルフ場の開発を禁止する事態になる。そのあともゴルフ場を作り続けたのは土建立県の千葉県で、現在ではたしか日本一ゴルフ場が多いはずである。
 それほどまでにゴルフ場の自然と歴史を破壊する力は凄まじい。もちろん人間の活動そのものが自然を犠牲にするが、ゴルフ場はその面積が広大なために、その破壊のインパクトは桁違いである。しかし、当時は、里山としての利用がなくなった雑木林が富を生むのだから、人間の果てしない欲望の前には武相国境の尾根道の価値など無きに等しいものだったに違いない。

 ちなみに、ゴルフ発祥の地イギリスには、もう森林はほとんど残っていない。すべて、農地と牧草地とゴルフ場と住宅地になってしまったのである。写真で見るイギリスの草原の丘のイメージである牧歌的な風景は、牧畜と産業革命による工業化によって国土の森林を破壊し尽くした、自然破壊の成れの果ての姿なのである。人口が多く早くから文明が開けた中国も森林が殆ど無く、似たような状況である。かくいう日本も、このサイトでも度々紹介してきたように、杉と檜ばかりで原生林は殆ど無いのであるが、それでも樹木そのものがないイギリスに比べればまだましかもしれない。そして、現在は、人の欲望により驚くべきスピードで自然林を破壊している現場は、アマゾンや東南アジアの熱帯雨林にその場所を移している。

 美しい国境の尾根道がゴルフ場により歩けないという鬱憤が、つい筆を過激にしてしまったが、ここは冷静になって、地球環境の問題から、武相国境の話に戻ろう。

  13 こども自然公園 その5             14 こども自然公園 その6
   

 自然公園のなかを迂回するが、ここにはまだその里山の雰囲気が残っていて、少しホッとする。

  15 こども自然公園 その7             16 こども自然公園 その8
   



  17 こども自然公園 その9             18 こども自然公園 その10
   

 江戸時代とそう変わらない里山の雰囲気を残す自然公園を横断すると、車道に出た。この車道を南に向かい、ゴルフ場の中に消えた国境を再び目指そう。

  19 こども自然公園出口               20 戸塚カントリーへ
   



  21 都塚                      22 狸の墓
   

 都塚という場所に着いた。古そうな石標があり、解説の白い柱には「武蔵の国と相模の国の国境 鎌倉の都が一望できた。」と書いてある。狸の墓や小さな神社もある。が、明治の地図を調べても、国境は西側のゴルフ場内にある現在の区境と同じなので、ここではないはずである。おそらく、ゴルフ場の建設とともに、この道路際に移されたのだろう。後で気がついたが、写真7の解説板にもそのような記述がある。こんな歴史的に重要な石標まで動かしてしまうとは、ゴルフ場も罪なものである。

  23 武相堺道石標                  24 社
   



 戸塚カントリーのクラブハウスの前を通り過ぎるが、さすがに駐車場は高級車ばかりであった。
 クラブハウスの先の写真26で戸塚区の標識があるが、ここが国境が道路と合流する地点で、おそらく左側の尾根の上に93.7mの三角点があるはずである。

  25 戸塚カントリー                 26 旭・戸塚区境
   

 しばらく国境/区境は道沿いに並行するが、写真27で道路から左に分かれて、横浜カントリーの中に消えてしまう。ここから再び公道上に国境が現れるのはたった400m東であるが、残念ながらゴルフ場が行く手を阻んでおり、大きく迂回しなければならない。戸塚カントリーから更に北上して南本宿町から横浜カントリーへの道に出るしかないのである。

  27 国境は横浜カントリーの中へ           28 南本宿町を迂回
   

  29 横浜カントリーへ                30 旭・保土ヶ谷区境
   



 国境がゴルフ場から出てくるのが、写真31の辺であるが、直線距離でたった400mの写真27の地点から迂回して約1時間もかかってしまった。そして、国境の武蔵国側は、旭区から保土ヶ谷区に変わる。

  31 横浜カントリー内の国境             32 横浜カントリー
   

 国境を塞いでいるゴルフ場に腹を立てながら、南東に向かって歩く。

  33 横浜カントリー内のトンネル           34 今井インターへ その1
   



  35 今井インターへ その2             36 エバーグリーンテニスクラブ
   

 国境は写真37の地点で道路を右へそれて緑の尾根がその先に続くが、その尾根は深い谷で分断されていた。

  37 国境は右へ                   38 横浜新道今井インター
   

 国境の分水嶺を切り裂いている、深い人工の谷は横浜新道で、写真39の切り通しで尾根の断面が判る。ちょうど今井インターの南西である。

  39 横浜新道の国境尾根の切り通し          40 今井インターから南へ
   



 横浜新道で破壊されすっかり地形が変わってしまった国境尾根は栄養専門学校の辺りで再び高度を取り戻す。そこから横浜新道の向こうの緑の尾根をみると、昔の分水嶺がつながっていたことが想像できる。

  41 横浜栄養専門学校                42 横浜新道南側から国境を望む
   

 やがて人家がなくなり、山賊のでそうな山道になってきた。横浜新道と異なり、東海道線と横須賀線は、切り通しではなくトンネルでこの分水嶺を貫いている。両線で通勤、通学している人にはお馴染みの東京・小田原間で唯一のトンネルである。

  43 横須賀線トンネルへ               44 横須賀線トンネル付近
   

 看板があるので、国境の相模の国側はJRの所有地らしい。トンネル用地だろう。面白いのは境界の柵が枕木とレールでできていることだ。

  45 東海道線トンネル付近              46 枕木とレール
   

 下の地形図を見ればわかるように、東海道線よりも横須賀線の方がトンネルが長い。横須賀線の線路は旧貨物線であるが、現在の貨物線はここからトンネルになったまま北へ分かれていく。



  47 高圧線                     48 品濃谷宿公園バス停へ
   

 やがて下り坂でマンションの横の大きな道路に出る。今日はまだ時間は早いが、迂回する距離が長く歩く気力が削がれたので、ここで国境に別れを告げて、 東戸塚駅へ出ることにしよう。

  49 東戸塚駅へ                   50 東戸塚駅前
   

 11時46分、東戸塚駅に着いた。

 GPSによる本日の歩行経路 (時間:2h58m 距離:12.7km 歩数:21085歩)


 今日の国境の行程は、開発が比較的遅れていた地域だったが、それが災いしてゴルフ場により分断され、通して歩くことが難しいコースだった。それだけにこども自然公園の中に残された国境尾根の古道は貴重だ。次回は、国境をたどる放浪の旅もいよいよ後半戦に入る。

           

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