金峰山  標高2599m 登山開始地点標高2360m     
  自分の足で登らない山シリーズ第5弾  雄大な展望と2600mの標高を誇る奥秩父を代表する山
 
◆ 2012年10月5日

  自分の足で登らない山シリーズも、もう5回目となった。予想外に回を重ねている。
 今回訪れる金峰山は、「きんぷさん」とも「きんぽうさん」とも読むらしいが、標高約2600mの奥秩父の主峰である。山梨県と長野県の県境にあるこの山は、奥秩父というそのイメージのとおり、ものすごい山奥にあるのだが、以外に簡単に登れてしまうことは、山好きの人たちにはよく知られているらしい。
 地図を見てみると、この山から数キロ東側を、林道が越えている。大弛峠である。この峠は、標高が2360mもあるのだが、驚いたことに山梨県側は一般車が入れる舗装路になっている。普通、山奥の林道は一般車進入禁止で未舗装であることが多いので、これは奇跡である。
 すでに紹介したように、2702mの乗鞍岳畳平が車で登れる日本で最も標高が高い場所だが、シャトルバスとタクシーしか入れない。一般車が入れる最高地点は、富士スカイラインで2380m、2360mの大弛峠は第2位で、峠では日本一である。これは、金峰山とともに行って見る価値がありそうだ。
 これまで、このシリーズでは、バスとロープウェイで高い場所を目指したが、当然大弛峠までの公共交通機関はないので、今回は初めて車を使うことになった。タクシーでも行けるらしいが、塩山から片道1万円以上かかるらしいので、一人だとちょっとコストがかかり過ぎである。
 今回は、この峠から尾根づたいに数時間歩いて、金峰山を目指そうというわけである。名目上の標高差はたった240mである。



 仕事が立て込んでいたが、ちょっと頑張って休暇を取った。快晴の金曜日だ。5時に自宅を出発し、早朝の中央高速をひた走る。いつも電車を利用することが多いので、たまには、音楽を聴きながら車を走らせるのも気分がいいものだ。我々の世代にとっては懐かしいこの曲がちょうどぴったりの感じである。
 Mt.RAINIERを飲みながら空いている高速を山に向かって快調に飛ばす。余談だが、数年前からはこのコーヒーばかり飲んでいる。最近は似た商品も多いが、売上ナンバーワンだけあってやっぱりこれが一番旨い。

 早朝の談合坂SAでは、雲海が見えた。勝沼ICを降りて、塩山から牧丘町を抜けると、湖があった。牧丘という地名の響きもいい感じである。

  1 中央高速談合坂SA                 2 乙女湖
   

 乙女湖をせき止めている琴川ダムは標高約1500m、多目的ダムとしては日本最高標高に位置している。2008年完成の新しいダムだ。
  3 乙女湖から川上牧丘林道へ                        
   

 なんだか気持ちのよいところである。

 4 第一小分校


 乙女湖を見下ろす場所には、分校があった。教会かペンションと見紛うような、絵になる山の分校である。ドラマのロケにも使えそうだ。
 ちょっと調べてみると、正式名は山梨市立牧丘第一小学校柳平分校。標高1530mで、日本で一番星に近い(標高が高い位置にある)小学校というキャッチフレーズであった。「あった」と過去形になっているのは、2006年に生徒数1人になった後、2007年に休校になったからである。事実上の廃校であろう。しかし、ダムの建設に伴って作られたらしい豪華な校舎はまだ綺麗で、別の目的で使わているのかもしれない。
 結局、人家を見たのはここが最後であった。道は途中から細く曲がりくねって、どんどん山奥に入っていく。

  5 川上牧丘林道入口ゲート               6 大弛峠
   

 所々で舗装が剥がれている道を快調に登って行くと、だんだん高山らしい雰囲気になる。乙女湖からちょうど1時間、ついに駐車場に車が並んでいるのが見えた。大弛峠である。平日の9時前だというのにもう満員で、仕方なくその先の未舗装の道端に路上駐車する。この様子では、休日の朝は大変なことになるだろう。
 山梨県当局もこの賑わいを心得ているらしく、駐車場を大幅に拡張する工事の真最中であった。下の乙女湖とあわせて、登山基地を兼ねた観光地として売りだしていこうとしているようだ。





  7 大弛峠国師ヶ岳登山道入口             8 大弛峠金峰山登山道入口
   

 今日の登山のエネルギー源となる大きなコロッケパンを食べて、トレッキングシューズに履き替え、GPSのスイッチを入れ、準備を整えて出発である。時刻は9時ちょうどだ。車の数から見て、すでに出発している人が多いようだ。今日は、東側の国師ヶ岳方面に行く予定はなく、金峰山の往復だけなので、時間的には余裕である。山頂までは、登山地図の標準時間で2時間30分かかる。

  9 朝日峠へ その1                 10 朝日峠へ その2
   

 登り始めは深い森林の中を標高を上げていく。所々で木立が途切れて展望がある。やがて平坦になり、鞍部が朝日峠である。

  11 朝日峠へ その3                12 朝日峠
   

 朝日峠をすぎると、再び登りになった。道端に標識が落ちていたので覗きこんでみると、字が見えにくくなっているが、二五〇〇米と書いてあるようだ。時計を見ると現在地標高はちゃんと2500mになっている。もっとも、大弛峠でキャリブレーションをしているので正確なのは当たり前だが...

  13 標高2500m標識                 14 高度計表示
   



  15 大ナギへ                    16 大ナギ
   

 森林が途切れると、大きな石が転がる岩場に出た。大ナギと名付けられている。木がないので展望がものすごい。100人中98人はここからの眺めに感嘆の声を上げて、立ち止まるだろう。ここの標高は、2528mだ。はるか雲海の向こうに、富士山がその頭だけを覗かせている。

 17 大ナギから富士山を望む


 18 大ナギから南アルプスを望む


 19 大ナギから国師ヶ岳を望む


 大ナギから標高で50mほど登ると朝日岳だ。10時15分、2581mの標識のある山頂についた。何故か地図では標高2579mとなっている。

  20 朝日岳直下                   21 朝日岳山頂
   

 前方には、点在する紅葉樹が広がるなだらかな山の頂きに付き出した特徴的な岩が見える。金峰山の象徴である、五丈岩だ。

 22 朝日岳から金峰山を望む


 朝日岳から先は急降下して一気に標高を100m以上も下げてしまう。もったいないが仕方ない。



  23 早い紅葉                    24 鉄山へ 
   

 紅葉は始まったばかりだ。鉄山の北側を過ぎると、再び登りがきつくなる。

  25 泥濘んだ登山道                 26 金峰山へ
   

 周囲が少し明るくなってきた。頭上を覆う高い木がいつの間にかなくなって、松が目立つようになってきた。いよいよ、ハイマツ帯まで登って来たようだ。

  27 ハイマツ帯に入る                28 森林限界を越える
   

  29 山頂へ その1
      

 木がないので、青い空と白い岩がひときわ輝いている。



 30 山頂へ その2

 完全に森林限界を超えた天空の別天地が広がっていた。吹く風も心地よい。たった2時間半歩けばこの景色が見られるのだから、大弛峠の駐車場が平日でもいっぱいになるのも頷けるというものだ。奥秩父で森林限界を超えるのは、この金峰山山頂一帯だけらしい。
 青空の向こうに続くなだらかな稜線の延長線上に山頂の岩稜の高まりが見えた。

 31 山頂へ その3


 八ヶ岳の北半分は雲に隠れている。手前の特徴的な岩山は瑞牆山(みずがきやま)である。

 32 山頂手前から八ヶ岳と瑞牆山を望む


 33 山頂付近の高山植物


 ここで、夫婦の会話が聞こえる。奥さんが、「もうここで十分。五丈岩にはいかないわよ。」と繰り返している。旦那さんは山頂まで行きたいようだ。そりゃそうである。目の前にこんな道が続いているのだから、行かないほうがおかしい。しかも、山頂は目の前に見えていて、もう危険な場所は無さそうである。まさか、五丈岩を登る必要もないだろう。「どうしても行きたいのなら、あなた一人でいってらっしゃいよ。」と奥さんは強硬である。過去に痛い目にあっているのだろうか。ここまでかたくなな理由はちょっとわからない。しかし、優しい旦那さんは折れたようだ。「じゃあここで休憩しよう。」という口調に少し残念そうな気持ちがにじむ。

 34 山頂の岩場

 山頂に近づくと、大きな石が積み重なっており、危険というのではないが、非常に歩きにくく、ルートもわかりにくい。ちょうどストックをしまって、手を使って登るといった程度の場所である。花崗岩だと思うが、石と石の間隔が広いので、小柄な女性は苦労しているようだ。

  35 山頂付近の岩場 その1             36 山頂付近の岩場 その2
   

 岩のてっぺんからみると真下に山頂の標識があり、広場の向こう側に五丈岩が見えた。

 37 金峰山山頂


 11時30分、標高2599mの金峰山山頂に到着である。

  38 山頂標識                    39 五丈岩へ
   

 山頂から五丈岩へ行くのも一苦労である。奥さんが先に行く旦那さんに「どこを歩いたらいいかわからないから、先に行かないでよっ」と泣きついていた。先ほど、別の奥さんが、山頂へ行く事を拒否した理由がこれでわかった。

  40 五丈岩前の広場                 41 五丈岩
   

 広場の前には、それを見下ろす神殿のように巨大な四角い岩が鎮座している。五丈岩だ。
 それにしても、山頂になぜこんな巨岩がそびえ立っているのだろうか。不思議とか自然の造形といった感覚を超越している。どう見ても神の造形なのである。この岩を見て、神々の意志、仏様の存在、霊的感覚を感じないほうが不思議である。というわけで、古代から、この金峰山は霊峰として崇められている。岩の下には遺跡があり出土品もあるらしい。

  42 五丈岩側面                   43 気圧の変化
   

 ここで、石に腰を下ろして休憩と昼食の時間だ。2600mの高山なので、当然気圧も低い。非常食のあんドーナツがパンパンに膨れていた。

 44 金峰山山頂から甲府盆地方面を望む


 45 山頂から瑞牆山を望む


 神が下界を見下ろすような展望は写真のとおりの絶景であるが、富士山と八ヶ岳は雲に隠れていた。

 46 山頂から甲武信ヶ岳方面を望む


 12時を過ぎたので、引き返すことにしよう。
  47 朝日岳への急坂                       
  

 帰りは、朝日岳の急登がキツイ。朝日岳で休憩だ。

 48 朝日岳から金峰山を振り返る


 49 朝日岳から甲府盆地を望む


 50 枯れ木の向こうに見える紅葉の始まった国師ヶ岳

  51 大ナギの岩場を下る               52 大弛峠に帰着
   

 途中で、職場から携帯電話に連絡が入ったりしたが、14時30分、無事大弛峠に下山した。実際は、朝日岳を始めとしてアップダウンが結構あり、累積で600m以上の登りがあるので、楽々というほどではなかったが、日本一の標高まで登れる一般車走行可能な林道によって手軽に高山の雰囲気が楽しめるのは、このシリーズの趣旨に叶っているといえるだろう。

 帰りも同じルートで、中央高速経由で相模湖ICに向かう。

 GPSによる本日の歩行経路


 GPSによる今日の高度記録


 紅葉にはまだ少し早かったが、金峰山は奥秩父の主峰としての高山風景と素晴らしい展望、五丈岩をはじめとする巨岩、深い森林を歩く尾根の登山道など素晴らしい要素を持っており、実に楽しい行程だった。このクオリティで車で気軽に日帰りできるとなると、高尾山の次のステップの入門登山コースとして、今後ますます人が多くなりそうである。
 夏の避暑に始まった「自分の足で登らない山シリーズ」の第5弾は、こうして充実した秋の旅として一日を終えた。

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