森 戸 川 探 訪
三浦半島の山中を源流として、美しい渓谷を形成し、葉山の森戸海岸で相模湾に注ぐ、自然豊かな川
◆2009年7月20日
当たり前であるが、地形的に南北に細長い三浦半島には大きな川はない。三浦半島というと美しい海岸ばかりが注目されがちであるが、中央部に深い森があるのは案外知られていない。
その森と森戸海岸の名前に関係があるかどうかはわからないが、今日は、その森から発して
葉山の海岸
に注ぐ森戸川を遡上してみよう。何でも、その源流部には、まだ手つかずの自然が残されているらしい。できれば、森戸川源流と分水嶺を越えて、
東京湾側
に到達したいと思う。つまり、過酷な三浦半島横断である。いままで誰も挑戦しなかった、この一石二鳥の大胆な計画を前にして、幾ばくかの不安と大きな期待に胸は高鳴るばかりである。
いつもの大げさな冗談はこれくらいにして、早速レポートをお届けしたい。
JR逗子駅
で下車して、葉山海岸方面のバスに乗り、森戸海岸で降りる。夏なので、バスは大きな荷物を持った大学生で混み合っている。
1 森戸海岸 2 森戸川河口
森戸海岸は、葉山でも一番有名なビーチである。もう夏休みで賑やかである。しかし、この季節にカメラを持って海岸をうろついていると、通報されかねないので、水着の人たちには近づかないようにして、写真を撮った。
河口は、森戸神社の杜とビーチの間で海へ開けている。真っ赤なみそぎ橋が風景にアクセントをつけている。
3 みそぎ橋 4 みそぎ橋から河口方面を望む
5 海岸近くから森戸橋方面を望む 6 森戸橋
海岸から内陸部に入ると、森戸川は低層マンションやスーパーの間を流れる。
7 森戸橋から下流を望む 8 森戸橋から上流を望む
9 落雁橋から下流を望む 10 亀井戸橋
亀井戸橋は、写真10のようになかなか意匠が凝っている。
11 亀井戸橋から上流を望む 12 木下橋から下流を望む
13 風早橋から上流を望む 14 雰囲気のあるアトリエ
葉山らしい建物も散在している。
15 下小路橋から上流を望む 16 川下橋から上流を望む
蛇行しながら葉山の街を南下してきた川も、長柄の交差点から上流は東から西へ流れるようになる。
17 長柄歩道橋下から下流を望む 18 小さな橋
このあたりから、周囲は田園風景になり、川には青サギも見られるようになった。
19 18の橋から見えた青サギ 20 18の橋から上流を望む
21 御霊神社 22 懐かしいポスト
23 中村橋から上流を望む 24 大山橋から上流を望む
ここからは、両側に緑の山が迫ってきた。喫茶店や石仏など、すっかり山里の雰囲気である。
25 大山付近の喫茶店 26 石仏
27 大山付近 28 黄金橋から上流を望む
ゲートを通り抜けて、いよいよ森戸川沿いにのびるハイキングコースに入る。この道は森戸林道と呼ばれているらしいが車が通れるかどうかは微妙である。
29 森戸林道入り口ゲート 30 名もない小橋
31 源流地域 その1 32 源流地域 その2
33 森戸林道 その1 34 源流地域 その3
川の水はやや緑がかっている。
35 源流地域 その4 36 源流地域 その5
37 森戸林道 その2 38 源流地域 その6
39 源流地域 その7 40 不思議なグループ
川で何かをとっている人たちがいた。自然保護のグループか?と思ったら、その中の一人の女性に話しかけられた。久しぶりに逆ナンパされたのかと思って一瞬喜んだら、残念ながらそうではなかった。東京のグループで、陶芸の材料にする土を探しているらしい。芸術のためとはいえ、こんなに遠くまで、大変だ。よい粘土がとれると良いが......
別の人には「川の調査ですか」と聞かれた。地図を見ながら、カメラであちこち撮影していたので、学術調査だと思われたのだろうか。大学の先生かなにかの専門家だと思われたらしく、森戸川の水質とか動植物について話をふられたので、あわてて「いや〜、そっちは専門ではないんで....」とかなんとかごまかして、先に進む。
まちがっても、「森戸川の最初の一滴を見に来ただけです。」とは言えない。もし、正直に話したら、あまりのくだらなさに、呆れられるに決まっている。
41 岩肌の湧水 42 森戸林道 その3
河岸の岩からは、湧水がしみ出している。
43 源流地域 その8 44 源流地域 その9
写真でお判りのとおり、この源流域は確かに自然に恵まれている。三浦半島にもこんな渓谷があったことに驚いた。
45 源流地域 その10 46 源流地域 その11
47 源流地域 その12 48 県道217号線直下
この渓谷は、台風や大雨で被害を受けているようで、写真50でも斜面が木もろとも崩壊していた。このような現象は災害といえば災害だが、実は、山が水によって浸食されるのは当たり前の話である。海岸の砂浜も、山から土砂が供給されて初めて維持されるのである。災害というのは、あくまで人間から見た一面の見方に過ぎない。
なぜこんな事をくどくどと書くかというと、災害復旧や防災という名目で、行政や土建業者が、とにかく川という川をすべてブロックで固め、山奥だろうが何だろうが堰堤などのコンクリート建造物をやたらと造りたがるからである。
49 林道横の巨大な岩 50 斜面の崩壊
51 森戸林道 その4 52 源流地域 その13
この源流域は、また、野鳥観察の場としても有名らしい。写真53の様な大きなレンズをつけたカメラが、あちこちで三脚の上に乗っている。素人には鳥の姿は見えないが、鳴き声だけはわかる。動画で撮っておいたので、是非お聴きいただきたい。
渓谷の鳥の鳴き声(動画)
53 森戸林道 その5 54 源流地域 その14
55 源流地域 その15 56 源流地域 その16
57 堰堤 58 源流の山
住人もいないこんな小さな川でも、やはり当局は、見逃してくれなかったらしく、大きな堰堤が作られていた。災害対策という名目だろうか。
59 湧水 60 ぬかるんだ林道
61 森戸林道 その6 62 南沢と中沢合流地点
ここで、源流である南沢と中沢が合流する。二子山から流れてくる中沢の方が水量が豊富なようだ。本流は南沢だと思われるので、そちらの道をとる。といっても、メインのハイキングコースからは外れるらしく、ほとんど獣道の状態である。
63 中沢 64 南沢
65 南沢源流 その1 66 南沢源流 その2
水量はだいぶ少なくなってきたが、流れはまだしっかりしている。
67 南沢源流 その3 68 南沢源流 その4
道は、沢と一緒になったり離れたりしながら何とか細々と続いている。谷を見上げると、稜線は割と近くに見えるので、そろそろ水源に近づいてきたようだ。
69 源流への山道 70 源流の谷を見上げる
道は、写真71のように源流の流れを何度か徒渉するので、迷いそうになる。川そのものが道になっているところもあり、一般の人がハイキングに来るようなところではないようだ。 その苦闘の動画が...
ここ
...である。なぜか、ナレーション(独り言ともいう)入りであるが、どうか気にしないでほしい。
71 南沢源流 その5 72 南沢源流 その6
そしてついに、写真72を最後に水が途切れた。その上の73では落ち葉とシダで完全に沢がなくなっている。つまり、写真72が、森戸川の最初の一滴ということになる。源流探索がこれほどのアドベンチャーになるとは予想していなかっただけに達成感は大きい。さらに斜面を詰めると、すぐに峠に出た。
73 南沢源流 その7 74 南中峠
持参した地図が不正確であったため、この南中峠は、相模湾と東京湾の分水嶺だと思っていた。ところが、帰って正確な地図で照合してみると、この峠の向こう側は、先ほど写真62の地点で分岐したもう一つの森戸川源流である中沢の谷であることが判った。その写真が76である。結果的には、両方の源流を探索することができたことになる。
75 南中峠道標 76 中沢源流
さて、ここからは、源流探索から三浦半島横断へと目的を切り替えることになる。中沢から再度山を登って本当の分水嶺の尾根を歩いていると、きれいなユリが咲いていた。
77 道標 78 道端のヤマユリ
そしてついに東京湾側の景色が目に飛び込んできた。この三浦半島の最深部の山は、標高は高くないが、険しさではなかなかのものがある。斜面が急でロープが張ってあるところもあった。トレッキングシューズで来た方が良いところである。
79 横浜横須賀道路を望む 80 きつい斜面
歩道橋のような橋で横横道路を渡る。やっと、人里に帰ってきた気分である。
81 横浜横須賀道路と東京湾 82 横浜横須賀道路を越える
83 乳頭山方面を望む 84 青少年広場 その1
ここは、公園になっているが、人気はない。登ってくるのに大変だからだろう。
85 展望台 86 展望台から長浦湾を望む
展望台からは、東京湾の景色がすばらしい。ランドマークタワーもよく見える。
87 展望台から横須賀湾方面を望む
88 展望台から横浜方面を望む 89 青少年広場 その2
公園の下部は、梅林になっている。管理人さんがいたので地図をもらう。森戸川から来たといったら「珍しいね」といわれた。二子山方面からハイキングする人が多いらしい。それにしても、源流からここまで誰にも会わなかった。
90 梅林への路 91 青少年広場 その3
92 田浦梅林 93 梅林入り口
94 京浜急行線 95 神明社
横須賀線の踏切を渡り、自衛隊基地と田浦駅を通り過ぎ、やっと長浦港に到着した。ついに、三浦半島を横断したのである。しかし、この港はいつ来ても殺風景で寂しいところである。
96 海上自衛隊 第二術科学校 97 長浦港
田浦駅に戻る。駅前には見事に何もない。いや、たった一件だけ、営業しているのかどうか判らない写真98の店があった。ところが、予想に反して、まだ明るいのに、飲み屋さんの中から楽しそうな声がする。自衛隊員行きつけの店だろうか。
98 田浦駅前 99 JR田浦駅
100 田浦駅ホーム
田浦駅のホームは、トンネルに挟まれており、長い編成の列車はトンネルの中に隠れてしまうらしい。
森戸川は、葉山海岸の明るい河口付近と、緑深い上流が対照的な川であった。特に、源流の森は、これまで歩いた川と比べても秀逸である。正直、期待以上であった。十和田湖の奥入瀬渓流のミニチュア版のような深山幽谷の雰囲気が手軽に味わえる、すばらしい源流部である。あまり宣伝されていないが、美しい渓谷、深い緑と鳥の声は、多くの人を魅了するだろう。ただし、中沢と南沢の合流地点より奥にはいる場合は、正確な地図と方位磁石、携帯電話を持参し、それなりの靴を履くことをお奨めする。
今回、三浦半島を徒歩で横断してその距離感を実感することができたのも大きな収穫であった。充実した源流探索と半島横断に満足した一日であった。
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