東京都一周   笹尾根の終点、奥多摩の秘境三頭山から奥多摩湖を目指す

◆第4日目(2012年4月7日) 三頭山鴨沢

 前回の東京都一周の旅では、2月の雪深い中、笹尾根を踏破し三頭山へ達した。その後、鹿島灘への遠征が忙しく、奥多摩の山々はしばらくご無沙汰していたが、都民の森へのバスも運行し始めたので、いよいよ奥多摩湖へと足跡を延ばすことにした。
   

 天気は、晴れ時々くもりだが、午後2時ころから弱い前線が通り過ぎて、雨か雪が降るところがある、との予報である。

   

 武蔵五日市駅発、都民の森行きの急行バスは、8時22分発である。5分前に駅に着くと、すでに長い列が出来ている。1台では乗り切れないほどの人であるが、幸い、2台目の先頭に近い順番になり、着席することが出来た。お年寄りもいるが、ハイキングや登山の格好をしている老人に席を譲る必要もないので気楽である。

 9時20分にバスは標高1000m の都民の森に着いた。日影にはまだ残雪がある。4月だというのにかなり寒い。

  1 都民の森                     2 残雪
   



  3 登山道入口                     4 鞘口峠へ
   

 早速、前回降りてきた登山道から、鞘口峠へ登る。

  5 鞘口峠                      6 三頭山へ その1
   

 ここから三頭山へ登る人は多い。途中の登山道は凍っていて、かすかな不安を覚える。
 都民の森駐車場でGPSのスイッチを入れたのだが、なぜかまだ衛星を補足しない。天候か地形か、それとも樹木のせいなのか解らないが今日は機嫌が悪いようだ。

  7 三頭山へ その2                 8 アイスバーン
   



  9 見晴らし小屋
  前回はここにもたくさんの雪があった。

 10 三頭山へ その3


 春というにはまだ冷たすぎる風が吹いているが、登山者は春を待ちきれないように頂上を目指している。

  11 三頭山へ その4                12 三頭山西峰 最後の登り
   



 10時50分、あっけなく三頭山西峰に到着した。頂上は写真14のとおり、霜柱がすごくてぬかるんでいた。人は前回ほど多くなく、ベンチも空いている。時間が早いせいだろうか。

  13 三頭山西峰                   14 霜柱
   

 ベンチに座ると、となりに若いカップルがいた。写真13の左端に写っている二人である。二人の座る位置にはまだ距離があり、敬語を使っているところを見ると、まだぎこちない関係。これから、という感じである。男の子が、自慢の最新型ジェットボイルを取り出して、お湯を沸かし始めた。この絵に描いたように健康的なデートがうまくいくよう、心の中で声援を送る。ジェットボイルのように、二人の心が熱くなり、いつしか間にストーブを挟まず寄り添いながら富士山をみる日が来るのかどうか、それはまだ誰にもわからない。

 青空の向こうには、いつものように富士山が構えている。今日は頂上付近に少し雲があるようだ。

 15 三頭山西峰から富士山を望む


 10分ほど休憩してから、ふただび東峰方面に戻る。御堂峠から東峰への道と奥多摩湖方面の道が分岐している。目指すのはもちろん後者だ。

  16 御堂峠から奥多摩湖方面への登山道        17 残雪
   



 奥多摩湖方面の道に入った途端、白く凍りついた北斜面が現れた。念のため、軽アイゼンを持ってきておいてよかった。

  18 アイスバーン その1              19 軽アイゼンを装着
   

  20 アイスバーン その2              21 北面の谷の雪
   

 おっかなびっくりで斜面をトラバースすると、向こうから登山者がやってきた。朝一番で奥多摩湖から登ってきたのだろう。この人も、少し下で軽アイゼンをつけたそうだ。アイゼンが必要な距離はそれほど長くないらしい。こちらも、御堂峠より上は大丈夫ですと教えてあげるとホッとした顔をしていた。すれ違ってから振り返ると、おそるおそる進むこの登山者の後ろ姿がみえた。自分も他人から見たらあの様に見えるのだろうな、と思うとちょっと情けないが、まあ、ゆっくり、安全第一である。しばらく降りて、傾斜が緩くなり雪がなくなってきたので、写真23の倒木に腰掛けて軽アイゼンを外す。チェーンスパイクは着脱が簡単で、こういう状況には持って来いだ。

  22 アイスバーン その3              23 アイスバーン終了
   

 アイゼンを外し、写真24のような、なだらかな都県境の尾根を気分よく降りていくと、ツルっと転んだ。

  24 鶴峠分岐へ                   25 隠れたアイスバーン
   

 落ち葉で隠れてわからなかったが、その下の登山道は見事な氷の板になっていてその凶暴な牙をむいたのである。転んで尻餅をついたところが、写真25で、転んだ拍子に下の氷が顔を出している。比較的平坦な場所なので助かったが、急斜面ならばただでは済まなかっただろう。
 春の奥多摩でさえこうなのだから、強風が吹き荒れるアイスバーンの冬の富士山を登る登山家は私とは別の生物だとしか思えない。



 26 岩の門

 この尾根は、岩の門があったり、植生が自然林であったりなど、なかなか美しい。

  27 鶴峠分岐                    28 入小沢ノ峰へ その1
   

 さて、昭文社の登山地図によると、三頭山から奥多摩湖へ向かう登山道は2つある。ヌカザス山からイヨ山を経由するヌカザス尾根とヌカザス山から左折して三頭橋へ降りるムロクボ尾根である。ヌカザス尾根のほうが一般的なルートらしいが、ムロクボ尾根の方が都県境に近い。一方、地形図を見ると、その他に1302mのピーク、入小沢ノ峰から左折して西へ都県境沿いに進み、玉川右岸から玉川キャンプ場へ降りる破線がある。しかし、登山地図にはこの道は全く記載されていない。地形図の破線は当てにならないので、ネット上で情報を集めると、このルートには確かに「作業道」があるらしい。ということで今回は登山道を外れて、この道を降りてみることにしたい。
 それにしても、このあたりはヌカザスとか、イヨとか、モロクボとか、カタカナの不思議な地名が多い。



 写真29のように、広い尾根を進むと、写真30の分岐点に出た。GPSやPROTREKの高度計によると、まだ入小沢ノ峰の手前のようだが、ネットの情報どおり、確かに作業道の標識がある。ただし、行き先の表示はなくやや不安が残る。
 今日は高度計が実際の高度とすぐずれてしまう気がする。大気の状態が不安定なのだろうか。

  29 入小沢ノ峰へ その2              30 作業道分岐
   

 何の作業道かしらないが、割としっかりした道なので踏み込んでみる。

  31 作業道へ                    32 作業道 その1
   

 しっかりと土留されており、正規の登山道と言っても差し支えない状態である。歩きやすくて快適な道である。ただし、落ち葉や枝が多く、人が入っているという感じではない。ジグザグに斜面を降りていく。

  33 作業道 その2                 34 作業道から続く都県境尾根
   

 写真34の地点で尾根にあるかすかな踏跡からそれて、作業道は左へ降りていく。ここから都県境を南へ外れるのだろう。さらに降りていくと、やや平坦な場所に出た。山野草を盗るなという赤い看板が見える。

  35 山野草の畑?                  36 植林地を抜ける
   



 植林地を抜けるとワサビ田がある。左手に玉川が見えてきた。作業道を通って無事下に降りられることがわかった。

  37 ワサビ田                    38 玉川 その1
   

  39 玉川キャンプ場へ その1            40 玉川 その2
   

 いつの間にか車が通れそうな道幅になり、黄色の作業車でキャンプ場が近いことを知る。

  41 玉川キャンプ場の作業車             42 玉川キャンプ場
   



  43 玉川キャンプ場の橋から小菅川を望む       44 玉川キャンプ場から国道139号線へ
   

 玉川キャンプ場に架かる橋を渡ると、小菅村に通じる国道139号線に出た。入小沢ノ峰手前の分岐からここまで、わかりやすく整備されて何の危険もない道である。なぜ、登山地図に載らないのか不思議なくらいだ。標識を整備すれば立派な登山道になるだろう。作業用だけではもったいない気がする。入小沢ノ峰手前にせっかく立派な標識があるので、「玉川キャンプ場」と書けないものだろうか。キャンプ場やワサビ田の持主の反対があるのかも知れないが。
 さて、都県境より西に出てしまったので、国道139号線を東へ向かい都県境を目指す。小菅川は清流で釣り人の姿が目立つ。

  45 小菅川の渓流釣り                46 つり橋
   



 金風呂という珍しい名前の集落に着いた。綺麗なトイレもある。ここはまだ山梨県だ。

  47 金風呂集落                   48 都県境山梨県側標識
   

 国道139号線の都県境に着いた。さすがに大きな標識がある。

  49 都県境東京都側標識                50 小菅川対岸の都県境尾根
   

 北側の山は写真51のように都県境を挟んではっきりと違いが出ているのが面白い。崖のコンクリート処理は、左の山梨県側はしっかりと構造物を作っているが、東京都側はコンクリート吹き付けでその上から落石防止ネットを張っている。写真52はその上部の山の植生であるが、山梨県側だけが植林されており、対比が明瞭である。ここまで都県境が目に見えて続いているのも珍しい現象である。
 さて、金風呂から大寺山に登って奥多摩湖畔の鴨沢に降りるというルートへ行ってみるかどうか、実は迷っていた。もちろん、登山地図に道はない。金風呂から大寺山までは何とか登れそうであるが、北へ降りる道があるのかどうかが明確ではない。東に向かって奥多摩湖深山橋に降りる道はあるのだが。
 ここで、すでに時間は13時45分、しかも、天気予報が的中して空が暗くなり風も出てきたので、ここは安全策をとり国道139号から深山橋経由で奥多摩湖を目指すことにする。途中であまりの寒さのため、ゴアカッパを着込んだ。

  51 国道139号線側都県境 その1          52 国道139号線側都県境 その2
   



  53 奥多摩湖                    54 三頭橋
   

 14時15分、奥多摩湖に到着した。久々の人里である。

  55 深山橋                     56 深山橋袂の飲食店
   

 深山橋の手前から奥多摩湖湖岸の道を西へ行こうと思ったが、残念ながら写真57のとおり通行止めであった。大寺山はここから登山道がついている。

  57 湖畔遊歩道と大寺山登山道            58 深山橋から奥多摩湖上流側を望む
   

 仕方なく、深山橋を渡るが、強風だけでなく、なんと4月だというのに雪がちらついてきた。冬用のグローブをはめる。冬の装備を用意しておいて助かった。下界では桜が咲いているが、やはり春の山を舐めてはいけないのだ。写真59では、雪のため山の上のほうが白く霞んでいる。

  59 国道411号線から深山橋を振り返る        60 太子堂
   

 太子堂の所で車が停まりバックしてきた。親切な男性に車に乗っていかないかと声をかけていただいた。悪天候の中で国道をとぼとぼ歩く姿に同情してくれたのだろう。しかし、今日は鴨沢まで歩かなくてはならないので、礼を言ってお断りする。



  61 留浦バス停                   62 留浦浮橋
   

 留浦(とずら)についた。2009年10月に多摩川を遡ってから、2年半ぶりに訪れたことになる。懐かしい。寒さのせいだろうか、人はあまりいないようだ。

  63 鴨沢橋遠景                   64 鴨沢橋(都県境)
   

 14時53分、鴨沢橋に着いた。都県境である。ここから奥多摩湖に流れ込む小袖川沿いに、北へ都県境が伸びている。

  65 対岸の都県境尾根を望む             66 都県境東京都側標識
   

  67 都県境山梨県側標識               68 湖望閣
   



 旅館の横に標高を示す石の標識があったので、高度計と比べてみようと近づくと、海抜一千七百三十九と書いてある。標高がそんなに高いはずはないと思ってよく見ると、なんと単位が尺であった。

  69 湖望閣の海抜標識                70 鴨沢バス停
   

 15時ちょうど、本日の目的地である鴨沢バス停に到着した。
 雪が舞い、風が吹いて寒い。下界の真冬並みである。バス停の横にはきれいなトイレと待合所があり助かる。ベンチに座って雪と風を避けながら自販機で買った温かい缶コーヒーを飲んで一息つく。幸い、15時17分の奥多摩駅行のバスがあるようだ。
 
実は、無事予定どおり歩き終えて、安堵感と共にバスを待っているこういう時間が結構幸せだったりする。寒かったり悪天候の場合はなおさらである。こんな中年男の密かなマゾ系の癒しは、とても人には話せないのでここに書いておこう。

  71 雲取山登山道案内板               72 鴨沢バス停待合
   

 登山道の標識があった。次回はいよいよここから雲取山を目指すのである。

  73 待合のマスコット                74 奥多摩駅
   

 奥多摩駅から青梅線に乗ると、鳩ノ巣駅付近でますます雪が多くなってきた。吹雪に近いといっていいかもしれない。

 75 吹雪の鳩ノ巣駅
  やはり天気予報は正確である。 

 GPSによる今日の歩行経路


 GPSによる今日の高度記録


 今日は、最初からGPSの調子が悪かったようだ。特に肝心の入小沢ノ峰から玉川キャンプ場までのルートが実際から大きく外れている。玉川の南を通ったことになっているので、とんでもない軌跡である。現在位置をGPSに頼り切るのも危ないようだ。
 都県境の旅もついに奥多摩湖、すなわち多摩川を越えた。東京都の最西端かつ最高所である雲取山が射程距離に入ってきた。次回は過酷な山登りになるのだろうか。

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