安達太良山  標高1700m 登山開始地点標高1340m     

  自分の足で登らない山シリーズ第26弾  なだらかな山容に見えるが、以外にも荒々しい活火山
 
◆ 2014年9月14日

 今回のお手軽登山は福島県の安達太良山である。智恵子抄で有名な山、程度の認識しかなかったが、調べてみると東北地方で最も登山者が多い、しかも山麓にスキー場がありゴンドラで簡単に登れる山だという。東北地方の山は初めてであるが、チャレンジしてみることにした。ただし、バスをはじめとする公共交通の便は悪く、車で行くしかなさそうである。



 前日の午後に横浜町田ICから東名高速に乗って、首都高から東北道に入ったが、途中で事故渋滞などもあり、郡山に着いたのは19時30分頃だった。ホテルに辿り着いて駐車場から降りると、腰がちょっとヤバイことに気がついた。いつもより少し激しくテニスをやった後、そのまま長時間運転したかららしい。山に登れるかどうか、かすかな不安が頭をよぎるが、まあ明日の朝考えればいいや、と思い、このことはすぐ忘れることにする。

 外で食事をしようと駅の方へ歩いて行くが、どの店がいいのかよくわからないので、路上の居酒屋のお兄さんに話しかけて、行ってみる。若い人も多く、郡山の夜は賑わっていた。しかし、飲んでいて偶然隣りに座った郡山の美女に逆ナンパされて、明日の登山が中止になるような事態は避けなければならない。いや、それよりも、万が一そうなったらはたして腰の具合は大丈夫だろうか。
 などとくだらない妄想をしていた私に、神は罰をくだされた。どこも満員である。しかたなく、すいているカレー屋でカツカレーを食べて、コンビニでビールとつまみを買ってからトボトボとホテルに帰る。しかし、これで腰をゆっくりと休められる、と、まだ負け惜しみを言う惨めな中年男であった。

 翌日、朝食を食べている時には、もう腰のことは忘れていた。高速に乗って二本松ICで降り、あだたら高原スキー場についたのは、8時55分だった。リフトは8時30分から動いているとのことだが、すでに長い列ができている。

  1 あだたら高原スキー場               2 ゴンドラリフト乗り場
   

 下界は晴れていたが、山の天気は曇りだ。ところどころで青空が見える程度である。智恵子の言う本当の空は見えそうにない。
 ゴンドラはあだたらエクスプレスという名前がついており、標高960mから1340mまで、差し引き380mの高度差で、お値段は950円、つまり、高度100mあたりのお値段はちょうど250円である。今度暇な時に各地のロープウェイで100mあたりの価格を比較してみよう。

  3 ゴンドラで山頂駅へ                4 山頂駅
   

 たった6分で着いた山頂駅では準備体操している人が目立つ。



 一応、もらったパンフレットのマップで概要を再確認しておこう。


 9時25分いよいよ出発である。

  5 登山口                      6 木道
   

 最初から木道で傾斜も少なく安全な道である。後ろを歩く男の子を連れたお父さんは、これじゃ登山とはいえないな、などと子どもとお母さんの前で虚勢を張っていた。すぐに展望台の分岐につく。

  7 薬師岳展望台分岐
     

 8 安達太良山遠望


 しばらく歩くと、写真8のように樹間から安達太良山が見えた。なぜ初めて見る山なのに安達太良山とわかったのか。それは、別名乳首山と呼ばれているという、ものすごく覚えやすい予備知識があったからである。現地で見てもまさにその通りの形であった。
 ところどころに休憩に最適な広場があるが、大した登りではないのでノンストップでいく。

  9 仙女平分岐へ                   10 休憩する人たち
   



 10時ちょうどに仙女平分岐を通過する。ここは山麓から続く表登山道と呼ばれている道で、おそらくゴンドラが出来る前は、メインの登山道だったのだろう。

  11 仙女平分岐                   12 安達太良山頂へ その1
   

 右側にはつかの間の晴れ間が広がり、素晴らしい景色が広がっていた。ただ、残念ながら山頂方面は黒い雲に覆われている。

 13 福島市方面を望む


 14 安達太良山頂へ その2

 登っていくに従って、乳首の部分は見えなくなった。しかし、斜面は比較的なだらかでなかなか快適な登山道である。



 15 青空の下の道標


 16 山腹


 17 山腹から福島市方面を望む


  18 ススキ                     19 安達太良山頂へ その3
   

 もともと山頂駅付近の樹木もそれほど高くなかったが、高度を上げるに従ってますます背が低くなり、ハイマツのような植物が多くなる。



 再び山頂、すなわち乳首山の先端が見えた。もう高い樹木はなく、森林限界を超えた感じである。しかし、標高はまだ1600m程度なので、関東・中部地方の山よりもかなり森林限界が低いようだ。もちろん、低温、強風、豪雪などの厳しい気象条件によるものだろう。さすがに東北地方である。ということは、中部地方の山の森林限界が2500mとすると、高山の雰囲気を楽しむのに、900mもお得ということになる。まあ、よくわからない計算ではあるが、裏返せば標高が低くてもそれだけ危険性が高いということでもある。

  20 安達太良山頂へ その4             21 安達太良山頂へ その5
   

 頂上が近くなってきたが、右手には、なだらかな曲線で構成された雄大な素晴らしい景観が用意されていた。若者がこの景色を見て思わず感嘆の声をあげていたほどである。

 22 鉄山を望む


  23 安達太良山頂 その1              24 安達太良山頂 その2
   

 10時38分、頂上直下に着いた。目の前には、山頂の突起、いわゆる乳首の部分があった。さすがに有名な山でしかも登りやすいので人が多い。山頂標識は次から次へとお年寄りの団体の記念撮影で占領され、空く暇もない。しかたがないので、そのまま写真にとって、後で顔を消すことにした。

  25 安達太良山頂 その3              26 安達太良山頂 その4
   

 乳首の部分はクサリを上下するおばさん達のおかげで大渋滞であるが、ようやく本当の山頂に辿り着いた。10時48分である。残念ながら山頂は雲で覆われ展望はない。それどころか、雨まで降ってきた。

  27 安達太良山頂 その5              28 安達太良山頂 その6
   

 下の広場に降りて、少し休憩する。今回、地図ロイドというソフトを山で初めて使ってみたが、なかなか良さそうである。フライトモードにしておくとスマフォの電池の減りも少ないようで余裕である。最悪の時は役立つかもしれない。
 もっとも、ハイキングレベルの山なので、地形図はおろか、山と高原地図さえも持っていない人が殆どで、じゃあ皆さんは何を見ているかというと、下でもらえるパンフレットのイラストマップを見ているのであった。

  29 安達太良山頂と鉄山の標識            30 GPSアプリ
   



 さて、11時5分、水分を補給して出発である。ここから北に続く尾根を歩いてみよう。結構人が歩いているので心強い。そして、何より写真31の光景を見れば、だれでもその足で行ってみたくなるというものである。幸い雨もやんで、青空さえも顔を覗かせている。

 31 牛の背へ

  32 安達太良山頂を振り返る             33 牛の背 その1
   

 安達太良山から北に続くこの尾根は、牛の背と呼ばれている。右手はなだらかなカールのような地形で歩いていても最高に気持ちの良い道である。

 34 峰の辻方面を望む


  35 牛の背 その2
     

 完全に森林限界を越えて、少し赤茶けた尾根道であるが大きな岩もなくとても歩きやすい道である。

 36 牛の背 その3



  37 牛の背 その4                 38 苔?
   

 多分高山植物の宝庫なのだろうが、残念ながら植物の知識がなく、解説はできない。遠くには細長い湖も見えた。

  39 磐梯山方面を望む


 40 牛の背 その5


 この快適な尾根を歩いているのはもうひとつの目的があるのだが、それが左手から少しずつその白く恐ろしげな姿を現しつつあった。

 41 牛の背から沼ノ平噴火口を望む その1


 沼ノ平火口である。安達太良山はなだらかな山容ではあるが、まさしく活火山で、その火口がおそろしい口を開けているのである。



 42 牛の背から沼ノ平噴火口を望む その2


 43 牛の背から沼ノ平噴火口を望む その3


 それにしても、ものすごい火口である。箱根の大涌谷よりもスケールが大きく、しかも不気味である。有史以来何度も爆発しているらしく、明治時代には硫黄を採取している人たちを襲って、死者72名、負傷者10名という大惨事になっている。つい最近の1997年にも火口付近で硫化水素ガスにより4名の方が亡くなっているのだ。濃霧で立入禁止の火口に迷い込んだらしい。森林がない場所では、濃霧と雷は命取りである。この人達もGPSがあったら濃霧で道を失うこともなく、助かったかもしれない。

  44 くろがね小屋方面分岐
     

 左手に白い火口、右手に緑のなだらかな斜面という対照的な光景がみられる牛の背は、やがて鉄山、船明神山、くろがね小屋方面の分岐に到着する。

 45 船明神山方面を望む




 46 牛の背と安達太良山頂を振り返る


 分岐から正面に見える山が鉄山である。なんだか急斜面で恐ろしげな山である。人は少ないが、時間もあることだし思い切って行ってみることにした。登山地図によるとここから20分くらいで行けるらしいが、尾根を見渡すとなんだかとても遠くに見える。

 47 馬の背と鉄山


 この尾根は、今までの牛の背ではなく、馬の背と呼ばれている。下りはやや滑りやすく、事実後ろで男性がドサッと音をたてて転んでいた。大丈夫ですか、と声をかけたが返事はない。きっとシャイで、転んだのが恥ずかしかったのだろう。

 右手には、くろがね小屋の屋根がはっきり見えた。なんでも温泉がある小屋らしい。

 48 くろがね小屋方面を望む


  49 立入禁止注意書
     



 50 馬の背から鉄山を望む


 左側は沼ノ平火口なので当然だが、右手にもロープが張ってあるところをみると、やはり源泉地なので硫化水素が出ているのだろうか。

 51 くろがね小屋を望む


 鉄山が間近に迫ってきた。本当に鉄で出きているような赤黒い、ゴツゴツした山である。それに結構急ではないか。大丈夫だろうか。

 52 馬の背から鉄山へ


 岩場の急斜面に取り付くが、見た目ほどではなく普通に歩ける登山道である。

  53 鉄山へ                     54 鉄山の岩場
   

 写真54の岩場の下にきて「道はついているんですか。」とおじさんに声をかけられた。ここまで急斜面だったが、この岩を見て登るのが恐ろしくなったようだ。「一応道はあるみたいですよ。」と答える。登山地図には特に危険だとい書いてないので、多分迂回路があるはずだ。



 おじさんの心配をよそに登山道は岩場の横を淡々と続いていて危険はなさそうである。

  55 鉄山山頂へ                   56 鉄山山頂直下
   

 登山道は鉄山の西側を回りこんで、山頂に続いていた。11時47分、鉄山山頂に到着である。後からさっきのおじさんが登ってきて、「ちゃんと道があるんですね」と言っていた。後をついてきたらしい。

  57 鉄山山頂                    58 鉄山山頂のガス
   

 山頂はガスで周りはよく見えない。早々に下山し、馬の背に戻る。こちら側からみると沼ノ平の斜面は硫黄で黄色く染まっているのがよくわかる。

 59 沼ノ平の硫黄


 分岐まで戻ってきた。予定ではくろがね小屋方面に降りる予定だったが、この天候と今日の東北道の渋滞の可能性を考えて、来た道を戻ってゴンドラ駅経由の最短路で帰ることにした。
 帰りも安達太良山には結構な人がいたが、それより北に来ない人が多い。せっかくここまで来たのに、牛の背を歩いたり、沼ノ平火口を見ずに帰ってしまうのは実にもったいないものである。

  60 溶岩?                     61  ゴンドラ山頂駅
   

 13時55分に山頂駅に到着した。

  62 山麓のスキー場駐車場
     

 駐車場に戻って、東北道で帰ったが、3連休中日なので渋滞が激しいし、疲れるし、ビールは飲めないし、やはり電車やバスのほうが性に合っている。

 GPSによる本日の歩行経路


 GPSによる今日の高度記録


 安達太良山は、標高は1700m程度で、ゴンドラを使えば1時間ちょっとで登れる山だが、その先の鉄山方面は森林限界を越えており、尾根は快適で景観も高山そのものである。関東甲信越の2500m級の山に匹敵する雄大な景色が広がるが、なんといっても沼ノ平の火口はぜひみておく価値がある光景だと思う。
 その恐ろしい姿はまさに火山そのものであるが、今回はその恩恵である温泉にゆっくり入る時間がなかったのが少し心残りだった。

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