海岸線をどこまでも西へ
伊豆半島の旅もいよいよ南伊豆から西海岸へ
◆第12日目 (2021年9月20日) 妻良 〜 伊浜
2013年1月2日、神奈川県と静岡県の県境を出発し、海岸線にそって歩き始めたこの企画だが、2015年5月2日に伊豆半島の西海岸にある妻良という集落までたどり着いた。それからこれほど長い休暇をとるとは本人も予想していなかったが、ついに帰ってきた。
それにしても、伊豆半島南西端の海岸線は秘境すぎる。休暇の取得、ルート選定、行程管理、交通機関、宿泊施設の確保、登山に準じた装備、酷使する体のメンテナンスなどいろいろと事前の準備が必要なのだ、という言い訳をさせてほしい。
険しい断崖が連なる伊豆南部にも道路はある。無理すれば東京からでも日帰りもできる距離だ。だから車でスポット的に訪れることは容易な地域かもしれないが、海岸線をつないで歩くとなると、とたんに難易度が高くなる。有名な山を日帰り登山するほうが、ずっと簡単だ。だから、訪れる人もほとんどなく、情報も少なく、歩道は雑草で覆われているのだ。
今日の出発地は西海岸南部の妻良(めら)である。首都圏からは一番行きにくいところであるが、なぜか朝は早くない。下田駅のバスの始発の出発時刻は、10時25分と遅いのである。もっとも午前中のバスは2本しかないが......。
1 熱海駅で伊豆急行に乗り換える 2 伊豆急下田駅バス停
妻良到着は、11時10分、時刻表どおりである。が、日帰りで歩くにはあまりにも出発時間が遅い。
現在地
3 妻良漁港
妻良から国道136号線を北上し、子浦(こうら)を目指す。心配したが、トンネルは歩行者用通路がちゃんとあって助かった。
4 東條トンネル
今日は天候に恵まれて、真っ青な海が眩しいが、まだ9月とあってかなり暑く、日差しに体力を奪われそうだ。
5 国道から海を望む
海は穏やかでまるで湖のようだ。
6 妻良漁港を振り返る
7 子浦集落を望む
トンネルを3つ抜けて、国道から左にそれる。子浦への道である。
8 国道からの分岐
9 子浦海岸
子浦には美しいビーチが広がっていた。集落は、寂れた漁港という感じではなく、なんとなく活気というか、退廃的な雰囲気がある。後でわかったことだが、この子浦は、昔は風待ちの港として賑わったらしく、なんと遊郭まであったそうだ。言われれば、昔の赤線地帯と似た妙な雰囲気があるのも納得である。
10 子浦の集落 11 子浦漁港
ここで、地元のおじいさんに、ここから山越えで伊浦方面へ抜けられるのかきいてみた。大丈夫だそうである。前回のように道が雑草で見えなくなっているようなことはないようだ。実は、9月という時季なので、この点が今回の一番の心配であったのたが、大丈夫そうなので、遊歩道に突入することにしよう。
12 子浦日和山遊歩道案内図
漁港の端に遊歩道の案内板があった。日和山という山を越えて落居口という場所へ出る道である。脇の階段を登っていく。
13 遊歩道案内板 14 子浦日和山遊歩道 その1
15 遊歩道から子浦の海を望む
16 子浦日和山遊歩道 その2 17 三十三観音分岐
階段を登るとすぐに分岐があり、三十三観音への道がある。
18 子浦三十三観音
オーバーハングをした崖に観音様が並んでいる。よく地震で崩れなかったものだ。
江戸時代に三十三箇所のお寺を回ると御利益があるという話が流行ったそうだが、子浦の遊女たちは外に出る事は許されなかっただろう。そこで1箇所に33体の仏像を祀ることによって、同じ御利益をもらおうということらしいが、いったい遊女たちの願いは何だったのだろうか。
19 子浦日和山遊歩道 その3 20 弁財天
展望台への分岐があったのでよってみることにした。
21 展望台分岐 22 展望台へ
湾内が一望できる。直下ではカヌー遊びをする人がいた。深い入り江と澄んだ海、絶好のロケーションである。
23 展望台からの景色
鏡鼻と呼ばれる岬にあるこの展望所であるが、結果論から言うと、寄る必要はなかった。素晴らしい展望は、この先で何箇所も得られるからである。
24 子浦日和山遊歩道その4
次の地蔵鼻という岬にはころばし地蔵という場所があるらしい。なんでも、遊女たちが地蔵をころばす → 海が荒れる → 船乗りが子浦に戻ってくる → 遊女の商売が繁盛する というサイクルを狙ったものらしい。
見てみたいが、かなり下らなければならないので今日は割愛しよう。
25 現在地案内板
26 子浦日和山遊歩道 その5 27 子浦日和山遊歩道 その6
さらに進んでいくと、芝生の広場があった。
28 子浦港と駿河湾を見下ろす
絶景である。江戸時代の船乗りたちは、ここから風と海の状態を見たに違いない。航海で一つ判断を間違えれば命はないのだから。
29 子浦日和山遊歩道 その7
道が芝生になっていて、左に青い海が広がる絶景の快適な道である。
30 子浦日和山遊歩道 その8
振り返っても絶景であった。
31 子浦日和山遊歩道 その9
32 子浦日和山遊歩道 その10
丘の上に立つ何気ない歩道の道標も、海と断崖絶壁を背景にすると、なんだかとてもフォトジェニックに見えるから不思議である。
33 子浦日和山遊歩道 その11
草原の前方にピークが見えた。あそこが日和山の頂上だろうか。
34 子浦日和山遊歩道 その12
35 子浦日和山遊歩道 その13
ピークからの絶景は、写真では伝え切れないのがもどかしい感じである。
36 子浦日和山遊歩道 その14
しかし、時計の高度計を見ると、ここは日和山の頂上ではないようだ。さらに道は登っていく。
37 子浦日和山遊歩道 その15
38 子浦日和山遊歩道 その16
前方に突き出して見えるのは、波勝崎だろうか。
予想に反して、日和山の頂上は、廃墟となったバンガローがある暗い場所であった。そして、12時51分、落居口に到着した。残念ながら峠の茶屋は営業していないようだ。自動販売機もないので、飲み物持参が良さそうである。
39 落居口
40 落居口の遊歩道解説板
41 落居口の地図案内板
落居口からは、つぎの海沿いの集落である落居を目指そう。すこし戻って丸山トンネルを通るのが公式ルートであるが、上と下の地図のように、ここからトンネルの上を通って落居に行く実線ルートが書いてある地図もあったので、まずそちらに行ってみることにした。
42 旧道? 43 雑草に覆われた道
通行禁止になっていることさえわからないほど植物が茂っているが、脇から入ってみると写真42のように車も通れるほどの立派な道路が廃道になっていた。しかし、空き家を過ぎて数十メートル進むと写真43のとおり、完全に自然に帰っていた。廃道になってからかなり時間がたっている感じである。仕方がないので、落居口に戻ってトンネル経由のルートを行くことにする。
44 落居口に戻る 45 丸山トンネル
トンネルは、1977年に開通したようだ。おそらく写真42、43の廃道は、このトンネルができる前に落居へ通じていた旧道ではないかと想像した。
トンネルは歩道がないので危険である。用意しておいた伊豆半島を歩くときに必需品の点滅ライトをつけて歩く。
46 丸山トンネル出口
トンネルの向こうには、海の上を行く橋があり、集落に向かってまっすぐ続いていた。
47 トンネルから落居地区へ
48 海で遊ぶ子どもたち 49 落居の集落
9月だがまだまだ暖かい伊豆では、都会の子どもたちが遊んでいた。海水浴やスノーケリングの穴場なのだろうか。
50 落居海岸
13時20分、落居に到着した。ここは、人気の少ない行き止まりの集落なので、よそ者は目立つ。入っていくとすぐに地元のおじさんに声をかけられた。こちらの意図を伝えるべく、落居から伊浜までの海沿いの道が通れるかどうかを逆に質問する。
地図には点線で伊浜までの道がはっきりと描かれているのだが、等高線がやたらと密なのが気になっていた。崖の中腹を這うように続いているこの道がもし通れないと、もう一度落居口まで引き返さなくてはならないので、大変な時間と体力のロスである。
おじさんの答えは.......Noであった。50年ほど前には、このおじさんが通学に使っていたので通れたらしいが、地震で崩壊したようだ。車の通れる道ができれば、こんな危険な道は放棄されて当然だろう。「とっくに通れなくなっているのに、まだ地図には書いてあるらしいね。」とのお言葉。実害がなければ国土地理院もさすがに放置なのか。
落胆したが、まあ想定内ではある。次に、ここから直接上の国道136号線まで抜ける道があるか、聞いてみた。一応あるらしいが、険しいという。
残念ながら、地図にはこのルートは記載されていない。しかも、地図によると国道の標高は180m以上あるではないか。地図とGPSの支援なしに、急斜面を180m登るのは流石にリスクが高い。ここは、冒険せず、おとなしくトンネルルートを引き返すことにした。急がば回れである。
つまり、落居口から落居までの旧道と、落居から伊浜までの旧道は、すでに消滅しており、今日2度目の敗北である。やはり、旧道は現役のハイキング道として活用されていないと、この地形と地震と旺盛な植物繁茂により、ほぼ通れなくなるようだ。
51 落居口にもどる
国道沿いは廃道とは打って変わって、おしゃれな建物が点在している。歩道はないが、交通量はそれほど多くないので、歩いていても命の危険を感じるほどではない。
52 国道136号線を北へ その1
53 国道136号線を北へ その2
54 国道136号線を北へ その3
55 国道136号線を北へ その4 56 伊浜への分岐交差点
14時36分、ガソリンスタンドのある交差点を左折する。案内板の左折矢印には伊浜と書いてあると思ったが、なぜか何も書いていない。観光客を歓迎していないのだろうか。
思うに、伊浜が行き止まり、つまり車で通り抜けることができない集落だからではないだろうか。抜け道だと思って入ってくる観光客対策である。
この分岐の標高は200m以上ある。ここから海岸まで降らなければならないので、伊浜への道は山肌を縫うように高度を落とし、冗長な経路を描いている。徒歩だと地味に時間がかかる。
57 伊浜へ その1
58 伊浜へ その2
高度が下がって伊浜の集落が見下ろせるようになってきた。
59 伊浜地区を望む
写真60は、落居集落のおじさんが話していた落居からの陸路が合流する地点である。もちろん現在は行き止まりだ。
60 落居からの旧道合流地点 61 伊浜へ向かうバス
なんと、車もめったに通らない寂しい道にバスが走っていた。
62 伊浜漁港と集落
63 伊浜の北側を振り返る
15時22分、伊浜のバス停に着いた。先ほどのバスが停まっている。時刻表を見ると、15時46分発下田行のバスになるようだ。てっきり日帰りは無理だと思ってよく調べもしなかったが、もう1本、16時台のバスも有り、今日の行程であれば日帰りも可能だったことになる。まあ、結果論になるし、今日は民宿でゆっくりとご馳走をいただこうと思っていたので、良しとしよう。
64 伊浜バス停 65 めぐみ荘
今日は集落の中にある民宿、
めぐみ荘
に宿泊である。伊勢海老が解禁になり、刺身でいただいた。豪華な夕食はもちろん美味であるが、老体の身には量が多すぎて、食後が苦しい。ご飯を食べなければよかったと後悔するが、おかずも美味しいのでつい食べすぎてしまった。この民宿の料理は結構有名らしい。
66 夕食
67 民宿から見る駿河湾の夕景
伊浜からの夕焼けを眺めて、明日も晴れると予想した。明日の行程を考えながら眠りにつく。
今日歩いた、子浦日和山遊歩道は、予想に反して、歩きやすい道であった。雑草や危険な場所もなく、拍子抜けしたほどである。スニーカーでも気軽に歩けるハイキングコースだ。なんといっても芝生に覆われた開けた道と真っ青な海、切り立った海岸美は素晴らしく、ぜひ多くの人に訪れてほしい道だ。これが伊豆東海岸にあれば結構賑わっただろうが、伊豆でも最も不便な場所にあり、ハイキングだけを目的に来るというのは、一般的ではないのだろう。
残る懸念材料であった、落居口から落居へのルート、そして落居から伊浜までのルートは、完全に通行不能で、逆に諦めもついた。
そして、このサイトでは珍しく、最後は美食で終わった今日の行程だった。
本日の歩数 21326歩
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