甲斐駒ケ岳  標高2967m 登山開始地点標高2030m  

  自分の足で登らない山シリーズ第31弾  南アルプス最北端の3000m級の白く輝く名山
 
◆ 2016年8月31日〜9月1日

 昨年の夏は、このお手軽登山シリーズで初めて、南アルプスにチャレンジした。なだらかで初心者でも登りやすいと評判の3000m級の山、仙丈ヶ岳である。
 そのときに、北沢峠を挟んで反対側、朝日が登る方向にそびえ立っていたのが、甲斐駒ケ岳である。仙丈ヶ岳よりも有名なのは、何と言ってもその雄姿が甲府盆地からよく見え、そして山頂付近が白く輝いて見えるという圧倒的な存在感の故だろう。事実、去年、仙丈ヶ岳に登るために北沢峠に行ったときには、甲斐駒ケ岳に登る人もたくさんいた。

 甲府盆地から見えるということは、甲斐駒ケ岳が南アルプスの北端に位置することを意味する。一応その位置を確認しておこう。



 今回、ターゲットをこの甲斐駒ケ岳に決めたのは、標高から言えば仙丈ヶ岳よりも低く、3000mに満たないので、仙丈ヶ岳に登れたなら、この山もイケるだろう、という甘い考えである。しかし、ガイドブックには、仙丈ヶ岳は初心者向けだと書いてあるのに、甲斐駒ケ岳には必ずしもそういう形容がない。高さだけではない、なにかがあるのか、気になるところではある。

 仙丈ヶ岳に登ったときに、夏の南アルプスは日帰りで登ってはいけないことを学んだ。体力的な事もさることながら、早朝に山頂に立たないと、すぐにガスが出て、眺望が望めないからである。さらに午後になると雷鳴が轟くおそろしい天候も経験した。必然的に一泊になる。

 さて、前回と同じように北沢峠に向かうわけであるが、去年は山梨県側の芦安温泉から入り、広河原でバスに乗り継ぐ経路だった。同じ行程では能がないので、今回は、長野県側の伊那市から入るルートにした。関東地方からだと距離的には遠回りだが、北沢峠に向かうバスが直通で乗り換えがないので、所要時間はあまり変わらないようだ。

 伊那市側のバス乗車地点は、仙流荘前である。中央高速を諏訪インターで降りて、茅野市方面に戻り、国道152号線を南下する。高遠をすぎると右手に美和湖という人口湖が見えて来るが、その湖の先を左折すると、仙流荘前である。



 広い駐車場があり、南アルプスの西の玄関口になっている。仙流荘前には12時前に着いた。
 今日は8月の最後の日であるが、台風一過で天気は久しぶりの快晴である。

 1 仙流荘前バス停


 12時10分発のバスに乗ると13時頃には北沢峠についた。乗り換えがないので、山梨県側から入るより楽である。長野県側なので、甲斐駒ケ岳ではなくて、東駒ヶ岳と言っているが、まあ伊那地方の人たち以外にはどうでも良いことなので、混乱の無いようにしてもらいたいものだ。

 2 北沢峠


 時間が余ったので、こもれび山荘でコーヒーを飲んでゆっくりと山小屋に向かう。
 甲斐駒ケ岳は、仙丈ヶ岳と違って山頂付近には山小屋がないので、少し登ったところにある仙水小屋という山小屋を予約した。ここは完全予約制なので、混んでいても安心である。仙水小屋は、仙水峠に向かう途中の標高2130mのところにある。



 北沢峠から広河原方面に林道を少し下ると、仙水峠方面の登山道が分岐し、森の中を進む。

 3 南アルプス市長衛小屋


 14時7分に長衛小屋についた。まだ新しそうな建物である。小屋の反対側には、色とりどりのテントが並んでいた。ここまでならテントを担ぐのも苦にならないだろう。

 4 南アルプス市長衛小屋テント場


 5 竹沢長衛レリーフ


 ここから沢沿いに登っていく。台風のせいか、水量が豊富で湧水が登山道の上を流れている。

 6 仙水小屋への登山道の湧水 


 途中にいくつか無粋な砂防ダムがあるが、そこに溜まった南アルプスの天然水は信じられないほど青く透き通っていた。

 7 美しい南アルプスの天然水


 8 沢を渡る


 9 ロープ




 14時43分に、仙水小屋についた。こもれび山荘や長衛小屋に比べると明らかに古い、が、味があるとも言える。

 10 仙水小屋


 ご主人に案内された別棟の工事現場にあるようなプレハブ小屋が今日寝るところだとわかった。

 ここでは、外のテーブルが唯一のくつろぐ場所である。食事もここでとるらしい。雨の日はどうするんだろうか。
 ここの食事は評判が良いらしく、お刺身付きである。たしかにカレーライスよりは満足感がある。

 11 仙水小屋の夕食


 夕食時に宇多田ヒカルの話題が出ていた。ここにロケに来たらしい。もっとも、山小屋のご主人は宇多田ヒカルの事をよく知らないらしく、藤圭子の娘と言われて「ああ、夢は夜ひらくだな」なんて言っている。それにしても台風が行ってしまって今日から奇跡的に晴れたたから良かったものの、もし天候が悪かったらどうするつもりだったのだろう。本人のスケジュールを押さえるのも大変だろうに。
 そして、出来上がった南アルプスの天然水のCMは素晴らしいし、何と言っても同じ時間に同じ場所で南アルプスを体験できたのは、天候と同じく奇跡である。ちなみに、宇多田ヒカルが登ったのは、甲斐駒ケ岳から仙水峠を挟んで反対側にある、2714mの栗沢山らしい。

        

 夕食後もいる場所がないので、ビールを飲みながら外のテラスで同宿の人たちと話をする。それにしても寒い。8月なのに。腕時計を外して気温を測ってみるとなんと13℃だった。下界はまだまだ暑いのに、これでは避暑というには低すぎる気温である。思わずTシャツの上に予備で持ってきたもののまさか着るとは思わなかったフリースを重ねることになる。結局、この服装で毛布を2枚重ねて寝ることになった。
 
 消灯は7時、起床は3時過ぎらしい。まだ暗いうちに起こされるのは、仙水峠で日の出を拝めるように、という理由だということなので、それに従うことにしよう。 
 隣のおじさんのいびきに悩まされる。耳栓を持ってこなかったことを後悔した。

 朝食は室内である。多分さっきまで布団が並んでいたであろう部屋で、鮭や味付け海苔が並ぶ、まるで旅館のような朝食を食べながら、山小屋のご主人と話をすると昨夜は気温が10℃まで下がったらしい。平地の真冬並みの気温だ。

 支度をして、4時27分に出発する。ヘッドライトを付けて、仙水峠へ向かおう。日の出に間に合うかどうか、微妙な時間である。
 仙水峠に向かう道は勾配がそれほどでもない。途中で石だらけの広い場所を進んで行くなど結構すごい景色が広がっていそうな感じだったが、いかんせん暗くてよくわからなかった。

 岩塊の広がる谷の向こうに、峠がシルエットとなって浮かび上がってきた。なんとか夜明けに間に合ったようだ。

 12 仙水峠へ




 5時2分、仙水峠に到着した。10人ほどの人たちが、太陽が姿を見せるのを待ち構えている。

 13 仙水峠の夜明けと摩利支天

 やがて、朝日が摩利支天を照らして、摩利支天の右側が黄金色に染まり始めた。

14 朝日に浮かび上がる摩利支天


 15 仙水峠


 5時30分、いよいよ仙水峠から登り始める。ここから駒津峰までの標高差約500mの急斜面が最初の関門である。私のような山のシロウトにとっては、ここでいかに体力を温存できるかが勝負だ。

 16 駒津峰へ その1


 登り始めは針葉樹林の森であるが、標高2500mを超えるとだんだん高い木が少なくなって、代わりにハイマツが優勢になってくる。

 17 駒津峰へ その2




 18 栗沢山を望む


 栗沢山が見える。後からわかったことだが、もしかしたらちょうどあの山に宇多田ヒカルがCM撮影のために登っていた時間かもしれない。

19 樹間から摩利支天を望む


 20 駒津峰へ その3


 21 甲斐駒ケ岳を見上げる


 22 鳳凰三山を望む


 木が少なくなり、周囲の山の眺望が素晴らしくなってきた。ちょうど疲れてきたので、写真撮影にかこつけて休憩しながら登っていく。

 23 駒津峰へ その4




 24 駒津峰へ その5


 25 甲斐駒ケ岳と摩利支天


 空は青く広く、駒津峰はすぐそこにあって手が届きそうにみえるのだが、なかなか到着しない。

 26 雄大な空




 27 駒津峰へ その6


 28 登山道から仙丈ヶ岳を望む


 29 登山道から北岳を望む


 30 登山道から富士山と鳳凰三山を望む


 早朝の雲が出る前の周囲の美しい山々を眺めながら登る、苦しくも楽しい、恍惚の時間である。



 7時3分、標高2752mの駒津峰へ到着である。大休止だ。仙水峠から1時間半かかっている。

 31 駒津峰


 ここで初めて尾根の西側の鋸岳が見えた。

 32 駒津峰から鋸岳を望む


 これから登る甲斐駒ケ岳はその山容といい、白く輝く山肌といい、神々しいほどの圧倒的存在感である。それに、仙丈ヶ岳と違って、結構厳しそうなルートに見える。ちょっとビビっている自分がいた。

 33 駒津峰から甲斐駒ケ岳を見上げる


 予想どおり、痩せた尾根と険しい岩場と急なアップダウンが続き、神経をつかうのでますます体力を消耗する。岩の上に体を引き上げるのは、かなりの体力を使う。それに、よく考えると、すでに標高2700mを超えているので、酸素濃度から言っても当然苦しいわけである。

 34 甲斐駒ケ岳へ向かう岩場


 35 頂上と大きな一枚岩




 36 頂上へ続く尾根


 この岩場を目の当たりにして、ここが初心者ルートとして紹介されない理由がわかった。事実、仙丈ヶ岳と違って、今日は子供を一人も見ていない。

 37 尾根の岩場


 38 尾根から見上げる甲斐駒ケ岳


 振り返ってみると結構下っているので、もったいない気がする。帰りがつらそうだ。

 39 駒津峰からの登山道を振り返る




 40 六方石


 41 六方石付近の巨岩の中を進む


 大きな岩が並ぶ地点を通過する。六方石というらしい。地図では標高約2700mだ。ここからあと300m登れば良いことになる。

 42 ハイマツ


 43 ハイマツの中を進む




 岩場の尾根を四苦八苦しながら進み、7時50分に直登ルートとトラバースルートの分岐点に到着した。ここはシロウトらしく迷わず右のトラバースルートを進むことにする。

 44 直登ルートと通常ルートの分岐


 一般ルートとは言え、結構厳しい岩場が続く。

 45 摩利支天分岐へ その1


 46 摩利支天分岐へ その2


 47 摩利支天分岐へ その3


 植物は消えて、完全に花崗岩の岩が広がる世界になる。登山道がわかりにくく、変な方向に登るグループもいる。赤い札を見失わないように進んでいく。違う惑星にいるような不思議な感覚である。

 48 摩利支天分岐へ その4




 8時18分、摩利支天への登山道の分岐点に到着した。行ってみるかどうか迷ったが、とりあえず残りの体力と雲が出やすくなる時間を考えて甲斐駒ケ岳を優先することにした。

 49 摩利支天分岐


 50 摩利支天への登山道


 51 摩利支天分岐から頂上へ


 52 頂上へ その1


 見た目よりもかなり厳しい灰色の花崗岩との格闘が続く。

 53 頂上へ その2


 頂上の祠らしきものが見えた。もうすぐそこであるが、酸素が不足してなかなか足が出ない。

 54 頂上へ その3




 8時52分、黒戸尾根との合流地点に到着した。林道ができて北沢峠から登るようになる前は、登山者はこの恐ろしく長くて急な尾根を登っていたのだからすごい。現在利用するのは、限られたエキスパートだけである。

 55 黒戸尾根登山道合流点


 56 甲斐駒ケ岳頂上 その1


 8時56分、標高2967mの甲斐駒ケ岳頂上に到着である。

 57 甲斐駒ケ岳頂上 その2


 まだガスが出る前に到着できたので、この絶景を心ゆくまで楽しむことにする。仙丈ヶ岳からの景色と違うのは、北側には八ヶ岳の手前に甲府盆地と甲斐・信濃国境の高原が広がっており、人里を見下ろせることである。

 58 頂上から八ヶ岳連峰を望む


 南西には、北沢峠を挟んで仙丈ヶ岳が女王様として君臨している。

 59 頂上から仙丈ヶ岳を望む


 南側は北岳が尖っている。

 60 頂上から北岳を望む


 鳳凰三山と富士山は見事に重なって、東側の絶景を形作っていた。

 61 頂上から富士山と鳳凰三山を望む


 西側は鋸岳と北アルプス方面の遠景である。

 62 頂上から鋸岳・北アルプス方面を望む




 9時25分に下山を開始する。ちょうど30分間、頂上での至福の時間を過ごしたことになる。

 63 八ヶ岳を見ながら下山開始


 下山途中で早くもガスが出始めて空が暗くなったが、そのおかげで六方石付近で雷鳥を見ることができた。駒津峰への登りは疲れた体には結構堪える。
 駒津峰からは、双児山を経て北沢峠に直接降りるルートをとることにした。

 64 駒津峰双児山間のハイマツ


 なだらかな斜面にもみごとなハイマツの群落が広がっている。

 65 双児山へ




 12時20分、双児山に到着した。標高は2643mで、4合目ということになっている。北沢峠と甲斐駒ケ岳の標高差は約950mなので、まだ半分も下っていない。

 66 双児山 その1


 67 双児山 その2


 高度計を見ながら、休み休み長く急な下山道を歩いて、14時17分、北沢峠に到着した。

 68 北沢峠へ帰着


 甲斐駒ケ岳は、標高こそ3000mを切るが、仙丈ヶ岳より格段に厳しい登山だった。甲府盆地から見える威厳のある姿に恥じない、登りがいのある山だ。北沢峠からアプローチできないと、とても登れない山に登れたことに感謝したい。
 白い花崗岩と砂礫の山、古くからその姿が崇められ名峰と言われる甲斐駒ケ岳であった。

関連サイト◆仙丈ヶ岳

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