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明神ヶ岳 標高1169m
自分の足で登らない山シリーズ第35弾 箱根外輪山の中で金時山の次に有名な雄大な展望の山 |
◆ 2020年1月19日
1月18日、神奈川県南部の平野には雨が降った。今年は暖冬ということで、スキー場は雪が少なくて困っているらしい。
しかし、いちおう厳冬期である。いくら暖かいと言っても、さすがにこの雨は標高の高いところでは雪になる可能性がある。明日の日曜日、天気予報を見ると関東地方はまあまあの天候である。
これは、年に数日のチャンスだ。なんのチャンスかというと、地元の山々に雪が積もる、休日である、晴れている、という3条件を満たす貴重な日ということである。
ということで、18日の夜のうちに準備をして寝た。朝起きると、快晴である。そして、丹沢の山を見ると上半分が白くなっている。地元の山の場合は、こうして天気と積雪を確認してからでも間に合うので好都合だ。
今回登る山は丹沢ではなく、箱根の明神ヶ岳にした。言わずと知れた箱根外輪山であるが、山頂付近は草原になっており、見晴らしがいい。つまり広々とした雪景色が見られる可能性が高く、さらに運が良ければ、白一色の向こうに箱根火山と富士山が見えるかも知れないというわけだ。
実は、明神ヶ岳はすでに箱根外輪山を一周するという企画で紹介しているので、雪のない時期の素晴らしい景色はそちらを見ていただくことにして、早速出発である。
◆箱根外輪山2(2012年12月16日)
8時10分発の小田原駅発桃源台行き箱根登山バスに乗る。若い登山客、おそらく高校生だと思うが、たくさん乗りこんでバスは満員である。途中から乗ってきた一般客がまるで登山バスと化した車内に驚いていたが、このバス会社の名前は箱根登山バスなので、これが当たり前なのである。登山バスなのに、登山じゃなくて買い物に使うのがそもそも間違いである。などとくだらないことをいうと、日常の利用者の小田原市民を敵に回すことになるので公言はしない。
さて、この多くの登山客がどこまで行くのか興味があったが、なんと宮城野で降りたのは自分ひとりであった。ということは、多くの人はやはりこの雪の中を金時山に登るのだろう。知名度から言えば、金時山と比べても比較にならないが、私から言わせれば、雪道を楽しむには、断然明神ヶ岳である。
1 箱根登山バス宮城野営業所
8時49分、宮城野営業所バス停を出発する。
天気が良いが、まだ朝なので雪が融け出してはいない。とはいっても、おそらく気温は氷点下ではない感じなので、寒くもなく風もなく、快適で気持ちの良い宮城野である。ここで標高は450mくらいだ。
2 宮城野から箱根中央火口丘を望む
3 宮城野から登山口へ
積雪量は少なく、歩くのに問題はない。
4 宮城野登山口
5 別荘地の中を登る
登山道に入ると、問題が生じた。太陽の高度が増すにしたがって、木に積もった雪がドサドサと落ちてくるのである。大きな塊が直撃すると結構な衝撃があり、しかも服や体についた雪の塊が溶けてビショビショになってしまう。
6 別荘地内道路北端
9時31分に、宮城の別荘地の最上部、最北端についた。普段ならここまでは車が入るところだ。標高は約670mである。
休憩である。雪が深くなったので、ここで防水グロープと軽アイゼンとストックとゲイターを装備して、エネルギー源のおにぎりを食べておく。
7 雪山の準備
いよいよここから本格的な登山道だ。
8 外輪山へ
ちなみに、雪のないときはこんな感じ(2012年12月16日)
標高が上がるにつれて、気温が低下し、植林された杉の木が少なくなって頭上の危険は軽減していく。
9 雪道を登る
10 頭上を見上げる
11 雪の枝越しに見る箱根中央火口丘
トレースを見ると、今朝ここを登ったのは一人だけのようだ。
12 一人だけの先人 13 外輪山鞍部
10時39分、外輪山の鞍部、すなわち尾根に出た。標高は913m、宮城野から約460mほど登ってきたことになる。随分時間がかかったが、雪のせいにしておこう。休憩していると、今日はじめての登山者に会った。明神ヶ岳方面から来たので山頂の雪はどうか聞いてみるが、あまり積もってないとのことなので、もしかして白一色ではなく、茶色が混じっているかも知れない。
14 鞍部から明星ヶ岳方面
さて、外輪山の尾根から南の明星ヶ岳方面登山道を見ると、写真14のように道が雪の重みで垂れ下がった笹で塞がれている。トレースはあるが、歩いた人はかなり苦労したことだろう。
15 鞍部から明神ヶ岳方面
反対側なら大丈夫だろうという予想は甘かった。中腰で進まなければならない笹のトンネルができており、背中のザックが引っかかって往生する。きついが、幸い数十メートルで終わった。
16 雪の重みでできた笹のトンネル
17 外輪山から箱根中央火口丘を望む
18 林間を登る
フカフカの道が続く開けた場所を歩くと来てよかったとしみじみ感じる。輝く白と空の深いブルーのコントラストがサングラス越しにも眩しい。両手のスノーバスケットのついたストックをグルグル回したくなる気分である。
19 雪原
11時29分、芝刈り路分岐を通過する。頂上も近い。
20 二宮金次郎芝刈り路分岐
21 雪の回廊
白いアーチのような林の中に続く一直線の光の道が素晴らしい。こんな道なら何時間歩いてもいいと思う。
22 最乗寺方面分岐
23 明神ヶ岳直下の茅場
左前方にラクダのコブのような金時山が見えたが、西側の空には雲が湧いており、今日は富士山の姿を見るのは厳しいかも知れない。
24 仙石原方面を望む
低木が綿帽子をかぶっている。
25 雪原になった崩落地
赤茶けた崩落地も今日ばかりは白い雪原になっていた。ちなみに、雪のないときはこんな感じである。
(2012年12月16日)
平坦な山頂にカラフルなウェアを着た人が集まっているのが見えた。
26 明神ヶ岳山頂へ
11時50分、標高1169mの明神ヶ岳山頂に到着した。外国人が混じったトレランの集団が大勢いて、ベンチの空きがない。仕方がないので、雪の上にクッションを敷いて座ってカレーパンを食べていると、外国人の女性にどこから登ってきたのかと聞かれた。宮城野からだと答えると、道の状況を知りたがっている。これから明星ヶ岳方面に行くらしいが、雪の積もった笹で通れなくなっていると聞いて心配しているらしい。
「這って進めば大丈夫だ」とちょっと話を盛っておいたが、不安そうな顔をしている。外国人のトレラン集団が大勢で長い足を持て余しながら笹のトンネルを這って進むのを想像すると笑いがこみ上げそうになるが、ここはそんなことはおくびにも出さずに「気をつけて!!」と励ましておいた。こういう場合は足の短い日本人のほうが有利である。
27 明神ヶ岳山頂から箱根中央火口丘を望む
28 明神ヶ岳山頂から金時山を望む
山頂はさすがに風が強く、汗が冷えて寒い。が、ダウンを着こむほどではない。ここはいつも強風が吹いていることが多く、高い木がないのもそのせいらしい。
29 明神ヶ岳山頂の解説板
30 明神ヶ岳から富士山方面を望む
残念ながら富士山は雲に隠れているが、そこまで望むのは贅沢というものである。青空の下で白い世界を楽しむことができただけでありがたいものだ。
それでもどうしても富士山が見たいという人は、こちらである。
31 西に続く外輪山
12時10分、山頂を出発して下山する。下りは、南足柄市の最乗寺方面に降りることにする。明神ヶ岳は最乗寺から登る人が多い。それは今朝、宮城野から登る人がほとんどいなかったことからも明らかである。最乗寺から登って宮城野に降りるコースは、標高差では不利だが、帰りに温泉に入るという楽しみがある。
32 山頂を後にする
33 最乗寺方面分岐
写真33の分岐を左折して降りる。
34 分岐直下の雪道
白い柔らかな道を下っていく。下りは楽なので、純粋に雪道を楽しめる。箱根外輪山の外側を降りているわけだ。宮城野側に比べて雪が深い気がする。昨夜は、雨が強い北風とともに吹き付けていたので、外輪山の北東側に当たるこちら側のほうが積雪が多かったのだろう。
35 木漏れ日の快適な登山道
36 林の中に続く白い道
37 積雪時の風向きがわかる林
38 林の中を降りていく
39 防火帯から大山を望む
写真39の場所では白い道の正面に雪化粧したピラミッド型の端正な大山がドンとみえた。素晴らしい景色だ。
このあたりは標高940m前後だが、まだ積雪はたっぷりある。この広い空間は、おそらく植林地の延焼を防ぐ防火帯だろう。
40 雪をかぶった萱
41 リフト支柱のような設備
リフトの支柱のようなこの設備は、たぶん木材の搬出に使われたものだろう。
と適当なことを書いたが、後日Web上で調べてみると、衝撃の事実が判明した。と言っても、全て二次資料なのでリフトだったりロープウェイだったりと、かなり情報にブレがあるが、その中でもここに最も詳しい記述があったので紹介しておこう。例によって、リンク先が消える可能性があるので、以下に抜粋しておく。
昭和40年(1965年)ころ、箱根小涌園などを経営する藤田観光が出資した「東箱根観光開発」なる会社が明神ヶ岳の中腹に温泉を掘りそこに展望温泉施設を建設し山麓の南足柄と「ロープウェイ」で繋げるという計画を持っていました。その「ロープウェイ」を架設するのには多量の資材を必要としたため、それを運搬する「資材索道」が設置されたーーーその残骸が登山道で目にするリフトの塔です。実際に山中には運搬されたとみられる川砂利やそれをいれた鉄製のカゴなども見つかっています。
当時は高度成長の終わりの時期にあたり、日本中のあちらこちらで観光開発が行われていました。南足柄(当時は市ではなく町)の東箱根観光開発会社も町の応援を得て具体化を進めていましたが、何らかの理由から事業化にこぎつけることができませんでした。試掘して出た温泉の成分が充分でなかったか、湧出場所が遠く温泉の運搬にコストがかかったか、オイルショックなど外部環境の変化が影響を与えたか、などが原因として推定されています。建設途中だった「資材索道」は残念ながら打ち捨てられる運命となり、それがいまでも残っているわけです。
となると、この中腹に広がる広い見晴らしの良い空間は、てっきり防火帯だと思っていたが、実はその開発工事の夢の跡なのかもしれない。もしこの開発が行われていたなら、静かに雪に覆われている今日の明神ヶ岳も、全く違った山になっていたことだろう。 (2020年5月3日加筆)
写真42の標高735m付近で雪がほとんどなくなり、芝が見えてきたので、アイゼンを外す。ただし、泥だらけなので引き続きゲイターは装着したままにするが、アイゼンの爪で破ってしまったので、買い替えになりそうだ。
42 標高735m付近 43 見晴らし小屋
13時43分、見晴らし小屋に到着した。ここの標高は698mであるが、名前とは違って見晴らしはない。植林した木が育ってしまい、暗くて誰も休憩したいとは思わないただの廃墟になってしまった。
44 見晴らし小屋前 45 足柄林道を横断する
46 大日陰林道を横断する 47 参道の階段
どんどん下って、2本の林道を横断すると、鐘の音が近くなる。最乗寺だ。14時41分、石の階段が現れた。最乗寺の境内に入ったらしい。
14時49分、最乗寺のバス停に到着したが、バスが出てしまったばかりらしく、しばらく休憩しながら、ストックやゲイターをしまって、缶コーヒーを飲みながらバスを待つ。乗客は観光客ばかりで登山客は誰もいない。
48 大雄山最乗寺バス停 49 大雄山駅
15時32分、バスは無事大雄山駅に到着した。電車に乗り換えて小田原駅に向かおう。
50 大雄山駅ホーム
今日は、楽しかったの一言である。箱根外輪山は、雪がなくても雄大な景色が望めるが、今日は白い草原を歩くスノートレッキングのロングトレイルを心ゆくまで楽しめた。県内で気軽にこんなアクティビティが楽しめるとは、本当にありがたい環境である。
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