落合川 (おちあいがわ) 探訪
武蔵野台地の一角から湧き出た豊富な湧水が東久留米市街地を流れ、黒目川に注ぐ首都圏有数の清流
◆
2011年4月15日
黒目川合流地点
〜 源流(
東京都東久留米市
)
今日の午前中は、新河岸川合流地点から
黒目川
を遡り、落合川との合流地点である神宝大橋まで来た。いよいよ、これから首都圏最大級の湧水と清流であると言われる落合川に入っていくことにしよう。
写真1の黒目川合流地点から2つの川を眺めると、水量は、本流よりも支流の落合川の方が豊かであるようにみえる。
それを裏付けるように、落合川に入るとすぐに写真2のような水草の繁茂する清流になる。
行政的には、ちょうど埼玉県から東京都東久留米市に入ったところだ。
1 黒目川合流地点 2
豊富な水量と水草
東久留米スポーツセンターの地下に併設された遊水池の取水口を過ぎると、新落合橋、そして落合橋である。
3 黒目橋調整池
4
新落合橋から上流を望む
落合橋から、
川幅いっぱいに音もなく静かに流れる落合川を見て、ある川を思い出した。日本有数の清流、
柿田川
である。圧倒的に
豊富な水量と豊かな水草は、ちょうど首都圏版のミニ柿田川といった印象で、まさに感動ものだ。都内にこれほどの川が奇跡的に残っていることに、驚きを禁じ得ない。
5 落合橋から下流を望む 6 落合橋から上流を望む
残念ながら、河川流路そのものは、直線的なコンクリート護岸であり、いかにも人工的だが、それを補って余りある水量に圧倒される。繁茂している水草はナガエミクリだろうか。クレソンらしき植物も生育しているようだ。
7 東久留米市 新川町2丁目付近
橋のすぐ下を何気無く見ると、写真8のように川底から水が湧いているのが見えた。おそらくこのような湧水口が多数あるのだろう。
8 川底からの湧水口 9 不動橋から下流を望む
不動橋のすぐ上流側には、写真10のとおり旧河川流路と思われる窪地があったが、水は流れてないようだ。
10 不動橋広場付近の旧河川流路 11 立野橋から下流を望む
川の両側には道路が整備されており、そのまま遡っていくと西武線のガード下を潜る。
12 西武池袋線下流の橋から下流を望む 13 西武池袋線
西武線の上流、右岸側には再び旧流路と思われる川が見えた。ここはかなり水がながれている。上流に湧水があるのだろうか。現在はコンクリートで固められた落合川であるが、それ以前の自然河川だった頃の様子を知ることが出来る貴重な場所である。いかにも、多様な生態系がありそうな緑の一筋だ。
14 東久留米市 本町1丁目付近の旧流路 15
14の旧流路の流れ その1
16
14の旧流路の流れ その2
17
立野一の橋から上流を望む
立野の住宅地を流れる落合川には番号が着いた橋がいくつも架かっている。果たしてこんなに多くの橋が必要なのだろうかと思えるほど次から次へと橋が現れるのだ。おそらく、河川改修で流路を付け替える時に、既存の道路を全て橋にしたのだろう。住民の要求があったのかもしれない。こういう事も公共事業に多額の費用がかかる原因の一つだ。
あまりの橋の多さに、いちいち名前を考えることができず、苦し紛れに番号を付けてしまったのかと想像すると一寸可笑しい。
18 立野二の橋から上流を望む 19 獲物を狙うサギ
20 美鳥橋から下流を望む
美鳥橋に着いた。人工的だが美しい川だ。
21 美鳥橋から上流を望む
圧倒的な水量と植物には自然のもつ逞しさと美しさを感じるが、直線的に整備された人工流路の風景とのマッチングがアンバランスで、独特の景観を創り出している。下水道が普及した都市河川は水量が乏しくなりがちで、貧相にみえることが多い。河川における流量の重要性を改めて実感した。
22 老松橋から上流を望む
23 親水施設 24 河畔の白い彩り
25 いこいの水辺 その1 26 いこいの水辺 その2
右岸を歩いていると、対岸に芝生の広がる親水公園が見えた。いこいの水辺である。のんびりと釣り糸を垂れる人、読書をする人、語らう人など、それぞれ落合川に親しんでいる姿は、この川の持つ魅力を象徴する光景である。
しかし、これは人工的な河川改修によって創りだされた光景であることも確かだ。良い意味でも悪い意味でも、河川改修という公共事業を考えさせられる水辺である。このような、美しい川と人間生活との調和は、降雨によって流量が激変する都市河川に於いてはなかなか難しい課題だろう。降雨の影響を受けやすい上流域が狭く、安定的な湧水によって年間を通じて豊かな水量が確保できるという理想的な条件があってこそ実現できるのではないだろうか。そういう意味でもこの落合川は貴重な都市河川といえるだろう。
27 いこいの水辺 その3
28 いこいの水辺 その4
29 いこいの水辺 その5 30 いこいの水辺 その6
31 毘沙門橋遠景 32 毘沙門橋から下流を望む
毘沙門橋に着いた。橋の名前のとおり、お寺が近くにあるらしい。そのすぐ上流側は写真33のように大きくひらけた河川敷が広がっている。その右岸には橋の下に水路が合流していた。南沢湧水群からの水流である。かなり水量が多く、落合川の主要な水源となっているようだ。ここで寄り道をして、南沢湧水群に行ってみる。
33 毘沙門橋から上流を望む 34 南沢湧水群からの流れ
35 南沢湧水群合流地点から毘沙門橋を望む 36 氷川神社
南沢水辺公園を抜けて、神社を過ぎると宮前橋に着いた。清流が確認できる。南沢湧水群である。宮前橋で湧水が合流しているが、さらに写真37のように上流から豊富な湧水が流れてくるので、さらに遡る。
37 宮前橋から上流を望む 38 南沢湧水群 その1
写真38で源流は2つに分かれている。直進すると写真39で、その突き当りは写真40になり、その奥はフェンスで囲まれて入れない。
東京都水道局南沢浄水所
である。元々は東久留米市の前身である久留米町の町営水道だったようだ。地下水を汲み上げているが、その背景にはこの豊富な湧水があったからだろう。フェンス越しに中を見ると作業服を着た職員らしき人が数人歩いていた。
写真40では、水面が白く泡立っているように見えるが、これは洗剤ではなく桜の花びらである。
39 南沢湧水群 その2 40 南沢湧水群 その3
41 南沢湧水群 その4
写真38の地点からもうひとつの湧水をたどる。
42 南沢湧水群 その5
こちらはフェンスに遮られること無く、森の中へ続いている。しかし、最後の湧水部分は立ち入り禁止になっていた。写真43の奥、写真44の左下の崖から水が湧いているようだ。
しかし、素晴らしい水質と水量である。湧水というよりもすでに立派な川だ。
43 南沢湧水群 その6 44 南沢湧水群 その7
45 南沢湧水群解説板
浄水所の正門側に出て、上から湧水を見たのが写真46である。
46 南沢湧水群 その8 47 南沢浄水所
48 南沢浄水所の池
浄水所の敷地内には池があるようだ。それが写真48であるがフェンスと木々に遮られて良く見えない。この池から写真40の水門へ繋がっているのだろう。
浄水所の玄関に戻ると、ちょうど先程場内を歩いていた職員達が車に分乗して出ていくところだった。若いので、おそらくこの4月に東京都か東久留米市に入った新人の研修だろう。
この豊富な水量を誇る素晴らしい南沢湧水群であるが、
空から見てみる
と緑地はここ以外殆ど残っておらず、周囲の畑も少なくなっているようだ。このまま宅地開発が続けば湧水の減少は免れないだろう。
鮮烈な印象を残した南沢湧水群を後にして、毘沙門橋から落合川の本流に戻り源流を目指す。
49 宮下橋から下流毘沙門橋を望む
51 宮下橋の釣り人
橋の袂の清流に釣り糸を垂れる老人がいた。ラジオの音がうるさいのはまあ許せるが、許せないのは、弁当に入っていた果物を食べずにそのまま川に捨てたことである。川を汚すばかりか、弁当を作ってくれたおばあさんにも申し訳ない。しかし、直接注意をするほどの勇気を持ち合わせていないので、心のなかで、そうつぶやいただけである。
50 宮下橋から上流を望む
毘沙門橋からこぶし橋にかけての短い区間は、唯一の自然河川が残った場所らしく、豊かな緑に囲まれた本来の落合川である。ちょうど氷川神社の裏側にあたっているため、住宅開発の波から守られたのだろう。
52 氷川神社裏の落合川
53 こぶし橋から下流を望む
野鳥もバカではない。ここだけはちゃんと自然の川であることがわかるのだろう。カワセミがいた。もちろん、それを狙うカメラマンもいる。
54
こぶし橋のカメラマン達
55 こぶし橋から上流を望む
56
落合川水生公園 その1
57 落合川水生公園 その2
58 生物解説板
魚と鳥の写真入りの解説板があった。立てたのは環境部局ではなく、東京都北多摩北部建設事務所である。しかし、考えてみれば、魚や鳥たちの生息する環境を徹底的に破壊した当事者がこんな看板を立てるのもおかしなものである。もちろん行政には、治水対策とか住民からの要望とか、それなりの論理がある。都市化で蛇行している小河川が危険になってしまったことは事実である。しかし、なぜか年々ハードルが上がる治水対策、例えば100年に一度の洪水で被害なしという無茶な目的を達成するためには日本中のすべての川をコンクリートの溝にしても無理だろう。いくら高い堤防を作っても500年に一度の津波には無力なのと同じある。これは目標設定が間違っているということだ。そもそも、目標など後付で、予算さえあれば永遠に工事が続くのである。
結局のところ、土地の保水性が無くなった主な原因は開発による都市化である。公共工事の是非も、結局は選挙で首長や議員を選ぶ住民の行動によるものであり、なかなか難しい問題である。
洪水が起こると自分が土地を買うときの判断を棚にあげて行政の責任追求をする国民も多い。
自然保護を叫ぶ地元住民も、ここに家を建てて住んでいる時点で自然破壊の当事者でもある。
話がそれたが、この解説板には大きな誤りがある。魚類にコイが入っていないのだ。
落合川の素晴らしさはすでに述べたとおりだが、大きな
違和感を感じることがあった。
それは、コイと鴨が異常に多いということである。至る所に大きなコイが群れで泳いでおり、中には赤や白の緋鯉までいる。明らかに本来の生態系とかけ離れた異様な姿だ。本来、コイは清流ではなく、下流域や富栄養化が進む湖沼の魚である。
59 東久留米市中央町1丁目付近 60 旧河川流路との合流点
さらに上流、南神明橋まで来ると、川が2つに分かれていた。
61 南神明橋Vから下流を望む 62 南神明橋Vから上流を望む
写真62は新河川流路で、直線化され面白みのない川であるが、旧河川流路は写真63〜68のとおり、本来の落合川の豊かさを残しているようなのでそちらを歩いてみる。
旧流路を残し、ちゃんと水を流しているということは、河川改修にあたって、この川の稀少性を考慮し、環境保護にもそれなりに気を使ったということだろう。
63 中央2丁目付近の旧流路 その1 64 中央2丁目付近の旧河川流路 その2
65 中央2丁目付近の旧流路 その3 66 中央2丁目付近の旧流路 その4
昔はもっと水量が多かったことだろう。川の上に張り出している桜を見ながら、宅地化される前の落合川の流れを想像してみる。
67 中央2丁目付近の旧流路 その3
68 中央2丁目付近の旧流路 その4 69
新流路との分岐点
新旧の落合川は写真70の地点で流れを2分している。
70 旧河川流路との分水点
71 神明橋から上流を望む
石橋供養塔の先にあるのが地蔵橋だ。
72 石橋供養塔と庚申塔 73 解説板
地蔵橋の下流に流れ込んでいるのが、写真74の水路である。老人が話をしながらコイにパンを投げている。ここだけでなく、あちこちで住民がコイにエサをやっているのを見かけた。本来コイの住む環境ではない落合川にコイが大量に生息しているのは、このように人によるエサやりが原因である。エサが大量に供給されるので、川の生物学的バランスが崩れてコイだけが増えてしまっている。当然他の在来種の魚をはじめとする生態系に悪影響が出ているはずである。
川が身近にあるだけに、余計にこのような行為が多いのだろう。本人たちはむしろ良いことをしているつもりなので、なかなか難しい問題ではあるが、自然保護活動も盛んなようなので、行政と共にまず啓蒙教育活動から始めないと問題は解決しないと思う。生態系への影響だけではない。一人ひとりは食パン1枚でも、結果として多くの住民によって投げ込まれるエサは大量の有機物となって、せっかくの清流を汚染しているのである。鴨についても同様のことが言えるだろう。
74 旧河川流路? 75 湧出口
地蔵橋の橋脚部分はコンクリートで覆われているが、その横から写真75のように湧水が湧き出ていた。
地蔵橋より上流はかなり水量が少なくなってくるが、まだかろうじて流れは維持しているようだ。写真76の左手に旧河川流路があったらしいが、埋め立てられて芝の斜面になっている。この工事については、ホトケドジョウ等の生育環境を破壊すると地元住民が裁判を起こしたようだ。
76 地蔵橋から上流を望む 77 御成橋工事による通行止め
緑地や畑も、写真78のように住宅開発が進んでいる。
78 中央6丁目付近の住宅開発 79 御成橋から上流を望む
水量が少ないため、かえって河川敷の植物が目立つ。
80 中央6丁目付近の流れ 81 弁天橋
82 弁天橋の地下水路? 83 弁天橋から下流を望む
弁天橋に着いた。写真83と84を見比べていただくとわかるように、ここが水流が確認できる落合川の最上流地点、すなわち源流であった。その水源となっているのは2箇所である。1箇所は橋のすぐ下にある写真85のパイプだ。
84 弁天橋から上流を望む 85 弁天橋付近の湧水
もう1箇所は、写真86の左岸側に鋭角に合流する石で固められた水路で、写真87で合流している。ここが源流といえるだろう。
86 弁天橋左岸側の湧水路 87 86の湧水路合流点
弁天橋上流側は水は流れていないものの、湿った一筋があり、時季によっては水流があるようだ。今は、ちょうど渇水期なのだろう。
88 弁天橋上流 89 上流から弁天橋を望む
90 枯れた湧水路 91 枯れた湧水地
雨季であれば、もうすこし上流でも湧水が見られたようだ。機会があれば、梅雨時にでも再訪してみようかと思う。
92 写真91の上流側 93 枯れた源流
枯れた源流の上を歩くというのも奇妙な感覚だ。やがて、落合川は道路に阻まれ、青い標識が見えた。上流端と書いてある。
94 上流端を望む 95 上流端の標識とさらに続く源流
標識のさらに上流、道路の先にもまだ細流の跡が続いている。
96 源流最奥部へ 97 源流最奥部
最後は、住宅と資材置き場の裏のような所から出る土管で終りになっていた。雨が降れば、ここが上流端になるのだろう。豊かな清流を誇る落合川の源流も、干からびて
最後は
意外な終末を迎えていた。周囲の都市化が進んでいる現状から仕方のないことかもしれない。むしろ、下水道の普及により源流に生活排水が流れ込んでいないことを喜ぶべきだろう。最終的に、現在の源流の状況をあまねく確認できたことは大きな収穫であった。
98 北側の源流端 99 西側の源流端
再び落合川を下り、途中から左折して東久留米駅をめざす。
100 庚申塔 101 庚申塔解説板
庚申塔を横目に見ながら歩いて東久留米駅に着いた。
102 東久留米駅
新河岸川の支流の黒目川のさらに支流である落合川は、噂どおりの豊かな湧水を誇る素晴らしい川であった。首都圏の都市部では最大級の清流といっても良いだろう。河川整備も進み歩きやすい川である。見所も多いが、その中でも、いこいの水辺周辺の住宅地と川の調和、そして南沢湧水群は素晴らしい光景であった。わざわざ訪れるだけの価値が十分にあると思う。
人間とは贅沢なもので、落合川が素晴らしいばかりに、つい問題点も目についてしまう。
まず、湧水量の維持が最大の課題だろう。小規模な住宅開発の規制、既存の家にも雨水浸透桝の設置を義務付ける、舗装材やタイル等を浸透性にする等の対策とともに、緑地の保全をする必要がある。耕作放棄されている畑を行政が安く強制的に買いあげて積極的に緑地を確保するような仕組みができないものだろうか。
もうひとつは、コイや鴨等への無秩序なエサやりに代表される、人為的な生態系の撹乱が問題であることはすでに述べた。
最後に河川環境であるが、一部人工的な親水施設があるものの、そのほとんどは過剰なコンクリートによる河川改修が行われ、もはや見るべきものはほとんど残っていない。土建国家日本の典型的風景である。
落合川のほとりを歩きながら、せめて、この美しい清流がいつまでも残れば...と強く思った。
(本日の歩数:36597歩)
関連サイト 黒目川
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第1日目(2011年4月15日)新河岸川合流点 〜 神宝大橋
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第2日目(2011年4月16日)神宝大橋 〜 源流
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