酒 匂 川 探 訪
富士御殿場からの湧水を集め、丹沢山中に谷を刻み、足柄平野を潤し、相模湾に注ぐ
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第4日目 2009年3月21日 御殿場プレミアムアウトレット〜源流
前回の体調不良から1週間、まだ、たまに頭痛はするが、天気がよいので、酒匂川の4日目にチャレンジする。今日はいよいよ源流を詰めたい。
御殿場駅からアウトレットまで、シャトルバスに乗る。朝、開店したばかりだというのに、すでにかなりの人がいる。
酒匂川の源流がある富士山も間近に見える。
1 御殿場プレミアムアウトレットバスターミナル 2 御殿場プレミアムアウトレット
3 狩渡戸橋から下流を望む 4 狩渡戸橋から上流を望む
このあたりではだいぶ流れも細くなるが、山中ではないため、大きな川の源流という雰囲気はなく、むしろ、郊外の都市河川といった趣である。ただし、富士山がやたらと大きいのが普通と違うところだ。
5 篭田川橋付近からみる富士山 6 御殿場市新橋付近の護岸工事
護岸工事をしていた。それにしても、周囲は農地であり、山でもないのに災害の危険性がどれほどあるのだろうか。このような徹底的なコンクリート護岸工事の必要性の検討や費用対効果、自然景観や環境に対する影響評価が適切に行われているのだろうか。この工事で数十億円、いや酒匂川水系全体で過去からの累積で投じられてきた費用は数千億円だろうが、それほどまでして何をしたかったのか、疑問である。
7 工事の看板 8 漁業権を示す看板
こんな、コンクリートだらけで水もきれいとはいえない川で漁業権を設定しているのもおかしな話だ。もちろんこのあたりには釣り人は一人もいない。
9 和田橋から下流を望む 10 和田橋から上流を望む
11 小山川合流地点 12 畑の中を流れる
写真11で小山川と合流する。右側が鮎沢川である。
13 コンクリート段差 14 名もない橋
川は、あまりまじめに耕作されているとは思えない農地の中を蛇行している。山ではないので、河沿いに歩くことができるのは幸いだ。水質はだんだん悪くなってくるような気がする。一部では写真15のように、泡立っているほどだ。
15 名もない橋から下流を望む 16 耕作放棄地を流れる鮎沢川
鉄板の橋が架かっていたいたが、写真18の様に錆びている。踏み抜かないように端をおそるおそるわたる。
17 名もない橋2 18 錆びた橋の鉄板
正面には富士山を望み、まことに気持ちがよい天気だが、川の方は、写真20の様に最悪である。どうすれば、これほどの色になるのか。
この水を、神奈川県民や世田谷区民が飲んでいると思うと、正直いい気持ちはしないだろう。それにしても、これほど大きな川で、上流に行くほど水質が悪化していく川というのも珍しい。
御殿場市の下水道普及率を調べてみると、なんと、たった26.6%であった。つまり、4人に3人の割合で生活排水が垂れ流しと言うことである。御殿場市の人口が8万9千人だから6万5千人以上が垂れ流しで、おそらくその半分程度、3万人以上の汚水が酒匂川水系に流れ込んでいる計算になる。汚いのも当たり前である。
ちなみに、地図をみると、残りは狩野川水系を経て、駿河湾に流れ込んでいる。つまり、御殿場市は、相模湾と駿河湾の分水嶺地点でもあるということになる。
19 正面に富士を望む 20 汚染源のひとつ
21 耕作放棄地から住宅地へ 22 竹澤橋
このあたりでは、住宅地の中を流れている。
23 住宅地内を流れる 24 御殿場線鞠子川橋りょう
御殿場線を過ぎると、川は籠坂峠へ向かう道と平行するようになる。
25 東大路橋から下流を望む 26 東大路橋から上流を望む
水は相変わらず汚い。
27 御殿場市二枚橋付近 28 親水施設
写真30をみるとこの街道は非常に古い道だということがわかる。右側の仏像は文正年間なので、1466年頃、左の馬頭観音碑は文政年間の銘があるので、1818年から1829年までの間に建立されたことがわかる。1466年と言えば室町時代、あの銀閣寺を建てたことで有名な足利義政の時代であるから相当古い。
29 親水施設からみる川面 30 路傍の仏様
31 二枚橋から上流を望む 32 仲好橋から下流を望む
仲好橋は学校の前にあり、その名のとおり子供たちが仲良く釣りをしていた。この子たちは、この川が長い旅の後、大河となってあの相模湾に注ぎ込んでいることを想像したことがあるだろうか。
33 仲好橋から上流を望む 34 御殿場市萩原付近
川は国道138号線をつかず離れず、流れていく。
35 北久原橋から下流を望む 36 北久原橋から上流を望む
37 前川橋から下流を望む 38 前川橋から見る富士山
このあたりから川の名前が前川と呼ばれるようになるらしい。
ここで不思議な光景に出会う。写真37で、左にカーブしているのは鮎沢川であるが、そのまま直進する川も見える。普通川は下流に行くにしたがって支流を合流するので、このように分岐するのは珍しいことである。
現在地は
ここ
である。この二つの川は、再度
この地点
つまり、写真11の地点で合流する。御殿場市役所その他のこの細長い地域は中州ということになるらしい。このような標高の高いところで中州が作られるのも非常に珍しい例である。
なだらかな傾斜はあるものの深い谷を刻んでいない地形が、このような河川の流れを許しているのであろう。また、農業用水として人工的に流れを変えた可能性もある。
39 大橋 40 大橋から下流を望む
41 大橋から上流を望む 42 いっぽん橋解説板
43 御玉橋から下流を望む 44 大橋から上流を望む
周りの景色は、完全に農村地帯というより、むしろ原野に近い感じである。
45 玉穂火防隊第4分隊 46 中畑付近の名称不詳の橋から下流を望む
47 名称不詳の橋から上流を望む 48 御殿場市中畑付近
このあたりで川は深い谷を流れるようになるため、写真49のような原野の中の道を歩く。ここはすぐ右手に抜川、左手に写真50の様に前川が流れている。つまり、この道が分水嶺ということになる。
49 馬頭塚付近の分水嶺 50 分水嶺からみた前川
池のところで、広い道に出る。川は原野の中を流れるが、コンクリートで固められ、源流としての趣はない。この上流にはもうあまり人家はないはずであるが、なぜか水はそれほどきれいではない。
51 鍋有沢調整池 52 玉穂橋から上流を望む
さらに奥へ道を遡る。途中に不思議な車両が見える。
53 富士へ続く道 54 不思議な車
55 雪上車? 56 御殿場市馬術スポーツセンター
先ほどの不思議な車の謎が解けた。右手に、馬術競技や練習を行うための本格的な施設が現れる。ちょうど競技の最中で、真ん中のブースで審査員が採点していた。馬は、息を切らせながら重そうな体で障害物を飛び越えている。乗っている人間よりも、大きな体で懸命に駆け回る馬のほうが大変である。
57 スポーツセンター内 58 馬術競技 その1
59 馬術競技 その2 60 東富士演習場入り口の看板
馬術場を過ぎると、ついに恐れていた事態に遭遇する。写真60の看板である。このまま突入すると自衛隊の戦車に踏みつぶされるか、スパイとして逮捕されるか、どちらにせよ、あまりよい結果は出ないだろう。
高塚道という看板や道標があったので、それらしき道を川に向かう。
61 一木塚と演習場の奥へ向かう道 62 高塚道道標
その最後の写真が、63と64である。64をみるとまだまだ上流がありそうだが、残念ながらここから上流は自衛隊の演習地。あきらめることにした。
63 高塚道?の橋から下流を望む 64 63の橋から上流を望む
64の地点が標高約670mの最終到達地点ということになるが、地図ではまだまだ上流に川が続いていることがわかる。下の地図では、前川の源流は標高約890mあたりまで遡れそうだ。
65 ライディングクラブアルカディア 66 アルカディアから東富士ダムへ向かう道
最終到達点からの帰り道に、乗馬クラブがあった。富士山麓を馬で駆け回っているらしく、道端には馬糞が墜ちている。もっとも人家はないので苦情は出ないのだろう。
67 東富士ダム直下の圧力調整池? 68 馬糞
地図上に、気になるダムが記載されていたので見に行くことにする。正面からは入れない。
横の高台から眺めると、ダムといっても四角い変な形をしている。要するに富士の斜面に四角い堤防を作り、灌漑用水をためているらしい。
69 東富士ダム 70 東富士ダム湖
バス停に出る手前に、写真71の謎の建物があった。新興宗教の施設だろうか。
建物の用途は、「富士フェニックス短大前」というバス停をみてわかった。しかし、看板も何もなく、何となく空虚な雰囲気が漂っていた。後で調べてみると、
この短大
は現在廃止されてしまったようだ。
71 謎の建物
神奈川県第2の河川、酒匂川を四日間にわたって歩いた。
雄大な相模湾と箱根の山々を望む河口、足柄平野の真ん中を悠々と流れる川は松並木が美しいが、二宮尊徳ゆかりの地であり、水害との戦いの歴史が現在も残る土地でもあった。
やがて川は、金太郎のふるさとである箱根と丹沢の境界の険しい谷を遡り、水源地である富士山の姿を仰ぎ見ることが出来るようになる。その上流地帯は、御殿場市街の真ん中であり、生活排水が流れ込む汚れた川であった。そして、源流は雄大な富士の裾野の自衛隊の演習地の中に消えていた。
逆に言えば、コンクリートで固められた町中の汚れた川が、途中から山間の湧水や沢水を集めて美しい川になって海に注ぐという、通常と逆パターンの、変わった川と言うことが出来る。
とはいっても、今までごらんいただいたように、河口から上流まで、地形的にも風景としても、変化に富んでおり、見所は多い。個人的には足柄平野を流れる酒匂川の松並木が一番好きだ。松は長い時間の中で人工的に植えられたものではあるが、神奈川県という首都圏にあってこれだけ歴史を感じることが出来る川もあまりないだろう。
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