葛葉川 (くずはがわ) 探訪
丹沢山地から流れ出し、秦野盆地に扇状地を造り、市街地に貴重な深い峡谷を刻む金目川の支流
◆
2011年8月28日 金目川合流地点 〜 源流(秦野市菩提)
真夏はシーズンオフであるが、今日は以前から温めていた計画を実行することにした。葛葉川だ。この川は、丹沢の三ノ塔という山の斜面から流れでて、秦野盆地内を横切って金目川に合流する支流である。
秦野市内の国道246号線を通るとカインズホーム、東田原交差点の西側に深い緑の峡谷を見ることができる。これが葛葉川である。昔から興味があったのだが、この川に近づこうとしても、地形が険しすぎて川に並行した道はない。そこで、今日はこの峡谷に直接アプローチして、道ではなく、川の中を遡行してみようというわけである。したがって、夏のほうが、いや夏でないと難しい企画ということになる。
天気予報では関東地方は晴れ時々曇り、最高気温は30℃以下という絶好のコンディションで、家を出るときは夏の青空が広がっていたのだが、秦野盆地に着くと、丹沢の影響なのか、残念ながら曇っていた。
秦野駅から歩いて金目川の合流地点をめざす。
1 葛葉川起点標識 2 金目川合流地点
写真2の合流地点はわかりにくいが、中洲を挟んで手前が葛葉川、向こう側が金目川本流である。
合流地点から上流側に少し歩くと、九沢橋だ。写真4でもわかるように右岸上流には、もう崖ができている。
3 九沢橋
4
九沢橋から上流を望む
九沢橋から、まず、国道246号線の新九沢橋に登ってみることにした。
5 新九沢橋から下流を望む 6 新九沢橋から上流を望む
左岸の下流側を除いて緑の崖が形成されており、すでに渓谷の様相を呈している。
高いところにある国道246号線からのアプローチはやはり困難であることがわかったので、再度川まで降りていき、新九沢橋よりやや下流の左岸から直接川にアプローチすることにした。写真5からみえる川の左側で、ここ以外は崖である。
住宅街の中を怪しまれないように歩き、川岸に着く。
今日用意した秘密兵器は、写真7の靴だ。真夏の濡れ場で使う...いや、そういうヘンな意味ではなくて、濡れても大丈夫なスニーカーである。これで川の中を直接遡行しようというのが、今回の企画のポイントである。
7 葛葉川遡行の秘密兵器
8 アプローチ地点
川の中に入る。思ったより水量が多いのは、このところ雨が多かったせいだろうか。河床を歩くのは、想像以上に困難だった。水量が多いため、抵抗が強くなかなか足を前に進めることができない。石は不安定で、苔が生えているため滑りやすい。転んで頭を打ったらそのまま流されて、水死体となり太平洋に浮かぶだろうな、などと考えながら上流に向かって無理やり進んでいく。
さて、この渓谷あるいは峡谷といったほうがいいかもしれないが、名前については混乱があるようだ。
秦野市観光協会
では「くずは渓谷」、行政的には「葛葉緑地」、「葛葉川ふるさと峡谷」などの呼び方もあるようだ。ここでは、とりあえず「くずは渓谷」とよぶことにする。
9 くずは渓谷 その1 10 くずは渓谷 その2
11 新九沢橋(国道246号線)を見上げる 12 くずは渓谷 その3
国道246号線の下を過ぎ、まるで人の手が加わっていないような原始の川の姿に感動しながら、ゆっくりと進んでいく。崖の上は住宅地が広がっているはずだが、川からは全く見えず、本当にここが秦野市街地の真ん中だとは信じられない思いである。
13 くずは渓谷 その4
14 くずは渓谷 その5
くずは渓谷の範囲は、概ね上の拡大地形図の範囲、すなわち、写真4の地点、九沢橋から写真62の地点、葛葉大橋までである。深い谷が蛇行している。航空写真で見ると、蛇行する葛葉川にそってかろうじて緑地が残っている事がわかる。谷が深かったため、開発が難しかったのが幸いしたのだろう。現在は、トラストにより緑地が一応保全されているらしい。
15 くずは渓谷 その6
16 くずは渓谷 その7
水はやや青みかがった緑で、透明度もまあまあだが、なんといっても周囲の環境が水の流れを引き立たせている。激しく蛇行する川筋は、今も少しづつ崖を削っているのだろうか。
魚影は見当たらない。
崖の穴からは、写真17のように湧水が流れ込んでいる。
17 崖からの湧水 18 くずは渓谷 その8
川がカーブしたところで、突然醜いコンクリート護岸と堰が現れ、崖を破壊して造られた住宅地がそびえ立っていた。緑地が保全されているはずの渓谷の途中がこんな無残な形になっているのは残念だ。看板に偽りありである。
19 くずは渓谷 その9
20 くずは渓谷 その10
堰堤を越えることが出来なかったので、一旦、川沿いの道路に上がる。この道がどこかに抜けられるようにならないことを祈るばかりである。
21 堰堤 22 くずは渓谷 その11
右カーブで住宅地が終り、階段を降りてまた川に入る。深みがあって心配したが、腰まで浸かることはなかった。
23 くずは渓谷 その12 24 くずは渓谷 その13
気を取り直して、水圧に逆らってまた歩き始める。
25 くずは渓谷 その14 26 くずは渓谷 その15
人の気配はなく、あるのは孤独と静寂と野生動物の足跡だけである。果たして何の足跡だろうか。鹿なら良いが、猪だとシャレにならない。
27 謎の足跡 28 くずは渓谷 その16
29 くずは渓谷 その17 30 くずは渓谷 その18
淵を避けて、浅瀬を何度も横断しながら進んでいく。
31 くずは渓谷 その19 32 くずは渓谷 その20
33 くずは渓谷 その21 34 くずは渓谷 その22
35 標識のある地層
地層にはなぜかプレートが....
36 くずは渓谷その23
ワイルドな渓谷が続く。
37 くずは渓谷 その24 38 くずは渓谷 その25
頭上に橋が見えた。「くずはのつり橋」である。この橋が見えたということは、渓谷も後半に入ったということだ。
39 くずは渓谷 その26 40 くずは渓谷 その27
41 くずは渓谷 その28 42 くずは渓谷 その29
43 くずは渓谷 その30 44 くずは渓谷 その31
ここは、足跡が多い。野生動物の楽園だ。
45 謎の足跡 その2
46 堰堤
47 ほたるの里 48 くずは渓谷 その32
49 くずは渓谷 その33
50 杖兼護身具
あの足跡がもし猪だとすると、襲われた時のためにやはり武器が必要だ。それに川の中を歩くときに、杖による3点支持のほうが、転びにくいだろうと考えて、傍らの太い棒を拾う。
51 くずは渓谷 その34 52 くずは渓谷 その35
途中から流れこむ小川もある。秘境探検もなかなか楽しい。
53 くずは渓谷 その36
54
くずは渓谷 その37
55 くずは渓谷 その37
56 くずは渓谷 その38
57 捨てられた自転車 58 くずは渓谷 その39
59 くずは渓谷 その40 60 河床からの湧水
ついに葛葉大橋が頭上に姿を現した。くずは渓谷の終点である。もちろんここまで誰にも会うことはなかった。川から上がって靴を換える。
61 葛葉大橋 62 葛葉大橋から下流を望む
葛葉大橋は、峡谷の上の台地上、高い場所に架かっている。
63 葛葉大橋から上流を望む 64 秦野市西田原付近
ここからは葛葉川も河川改修された平凡な川に変わり、河畔の道が続くようになる。
65 葛葉橋から上流を望む 66 河畔のひまわり
それでも、通常の都市河川とは少し
雰囲気が
違うのは、見ただけでわかる、かなりの急勾配と、その向こうにみえる緑の丹沢山地のおかげだろう
67 アオサギ 68 扇沢橋遠景
69 扇沢橋から上流を望む
70 花壇
71 中村橋から上流を望む 72 小羽根橋から上流を望む
秦野盆地が確実に斜面になっていることがよくわかる。葛葉川によって形成された扇状地である。
73
秦野市羽根付近 その1 74 丹沢山麓の風景 その1
75 栗の木
76 秦野市羽根付近 その2
葛葉川は市街地を抜けて、周りの景色はすっかり丹沢山麓の山里のそれになってきた。
77 丹沢山麓の風景 その2 78 羽根人道橋から上流を望む
79 橋の袂の信仰 80 上葛葉橋から下流を望む
残念ながらコンクリートで固められてしまった葛葉川であるが、昔はこのあたりも「くずは渓谷」のように美しい流れだったのだろうか。
81 上葛葉橋から上流を望む 82 落花生畑
落花生は秦野市の名産品である。
83 向山橋から上流を望む
流れはだいぶ細くなってきたが、まだ水量は豊富だ。丹沢山地が目の前に迫ってきた。
84 秦野市菩提付近 85 木橋
小さな木の橋が架かっていた。
もちろん渡ってみる。
その脇には滝のように湧水が流れ込んでいる。
86 木橋から下流を望む 87 木橋から上流を望む
88 四山橋 89 四山橋から下流を望む
四山橋に着いた。
ここから川沿いの道は途切れるので、右岸側に渡って、少し戻る。
90 四山橋から上流を望む 91 商店
昔からありそうな、田舎の食料品店が懐かしい感じ。
92 茶加工場 93 道端の湧水
茶の加工場があった。茶畑があるのだろうか。
94 無名の橋から上流を望む 95 茶畑
茶畑やゴルフ場の脇をさらに上流目指して道を上がっていく。
96 豊富な湧水の利用 97 大秦野カントリークラブ
桜沢橋に着いた。最後の集落である。ここから上は山、道も林道となる。
98 土石流の注意喚起 99 桜沢橋
土石流注意の看板があった。が、よく考えると当たり前のことである。隆起した丹沢山地は、長い年月をかけて侵食によって現在のような険しい姿になった。侵食された土砂は、当然河川によって下流へ運ばれ、秦野盆地や相模平野を造った。その土砂を運ぶのに大きな役割をはたすのは、大雨で発生する土石流だろう。今まで歩いてきた扇状地は、この土石流によって造られた。そういう意味では、当たり前の自然現象であるが、人間の生活に被害を及ぼすので、災害としてまるで異常現象のように扱われてしまうのも、人間の都合である。
ここは、山岳地帯から平地への出口、ちょうど扇状地の扇の要に当たるところだ。
100 桜沢橋から下流を望む 101 桜沢橋から上流を望む
102 表丹沢活動センター
103 桜沢林道記念碑
林道を登って行くと道の上を川が流れていた。葛葉川本流よりも1本東側にある沢である。
104 林道を横切る支流 105 林道終点
駐車場があり、中年登山グループがいた。ザイルを持っているので、たぶん沢登りだろう。此処から先は一般車両は通行禁止である。そして、ここが葛葉の泉であった。
106 沢登り?グループ 107 葛葉の泉
湧水には、大量のタンクやペットボトル、ホースまで持ったオジサンとオバサンが、他の人には一滴もやるものか、といった風情で真剣に水を汲んでいる。車のナンバーを見ると横浜だったので、かなり遠くからわざわざ来ているようだ。真剣になるのも仕方が無いだろう。
108 葛葉の泉看板 109 祠
110 葛葉の泉広場に架かる橋
111 葛葉の泉広場 112 110の橋を渡る
広場の橋で、右岸に渡る。
川に親しめる場所であるが。残念ながらコンクリートでガッチリと固められている。
113 110の橋から下流を望む 114 110の橋から上流を望む
上流へ向かう登山道は、写真115で川に通じていた。
115 橋からさらに上流へ 116 源流入口
そこは、葛葉川の源流の清冽な水しぶきが爽快な場所だが、道は川の中に消えていた。
川で行き止まりになる道の割には、よく踏まれている。
117 葛葉川源流 その1 118 葛葉川源流 その2
気温は24℃、涼しいはずである。
一般道としては、ここが葛葉川の最上流といえるだろう。
119 葛葉川源流 その3 120 気温
121 葛葉川源流 その4
まだ、水量はたっぷりあるが、この上流は、沢登りの範疇になる。駐車場にいたグループはおそらくこの沢を登るのであろう。
葛葉川というキーワードで検索
してみると面白いことがわかる。そのほとんどが沢登りの記録なのである。ここは、丹沢でも有名な沢登りの入門コースらしい。したがって、この上流がどうなっているのかはそれらのサイトを見ていただくとたくさん紹介されている。例えば
ココ
である。
この登山道が川の中に入って消えてしまうのは、沢登りのためのアプローチの道だからだろう。
122 案山子
源流を見届けた後、長い林道を下り、菩提の山里に降りると、案山子が出迎えてくれた。傍らの稲穂は実りつつあり、2011年の夏の終わりを告げていた。
今回は、渓谷の川の中を直接歩く、という初めての企画だったが、成功したと言ってよいだろう。子供の頃に帰ったような楽しく、不思議な、しかし少し不安な経験だった。この奇跡的に残された渓谷が、開発や河川改修によりこれ以上破壊されないよう祈るばかりである。
中流から上流にかけては、典型的な扇状地形と丹沢の麓の山里の風景を見ることが出来た。源流は丹沢らしい清冽な沢である。
最後に
一応書いておくが、子供同士ではゼッタイに「くずは渓谷」の中に入ってはいけない。大人は自己責任だが、できるだけ複数で行くことと、天気予報をよく確認する必要がある。急に増水しても両岸が崖なので逃げ場がないからである。
今回から、GPSロガーを使用したので、成果を載せておこう。下図は、ログすなわち移動の軌跡であるが、誤って行き止まりの道に入ってしまったのも含めて、非常に正確にトレースしていた。誤差は数メートル以内である。渓谷内でとった写真の撮影場所も特定できるので便利である。
次は、源流の地形図である。到達点が確認でき、さらに三ノ塔まで谷が続いているのがわかる。
GPSは高度も測定できるが、測定原理からその精度は高くないと言われている。地図の等高線から、出発点は標高100m弱、最終到達点は標高約480mだとわかるが、下の高度記録を見ると、出発点の高度はほぼ正確である。最後はGPSでは約410mと記録されており、実際よりも70m低く測定されている。特にくずは渓谷を歩いている時は、グラフが凸凹で誤差が多いようだ。
最後は、速度記録である。距離1.5kmから6kmまで間の速度が3km/h以下と遅いのは、川の中を歩いているからである。それ以外にも、所要時間、距離、走行時間、累積標高などが記録されており、小さいが非常に優れた記録装置であることがわかった。今後は、手放せなくなりそうである。
(本日の歩数:21453歩)
関連サイト 金目川
◆
水源地・上流編(2007年3月24日)水源(秦野市蓑毛)〜金目川橋(秦野市東田原)
◆
中・下流編(2007年4月1日) 金目川橋〜金目川河口へ
ご意見・ご感想はこちらまで