神奈川県一周
最後の山岳地帯である箱根外輪山を降りて湯河原で久しぶりの海に再会する
◆第33日目(2011年12月10日)
箱根峠
〜
湯河原海浜公園
三島駅で降りる。小田原駅からのバスは、箱根止まりなので、箱根峠へ行くのは三島駅経由のほうが便利なのである。
バスを待つ間、三島駅南口の公衆トイレ(大きな個室で誰でも使えるタイプ)に入っていると、いきなり大きな自動ドアが開いた。目の前は駅前ロータリーである。こちらも驚いたが、開けた男性はもっと驚いたようで、なんだか分けのわからない言い訳をしながら後ずさりすると、そのまま逃げていった。パニックになってしまったようだ。開けられたことは仕方がないが、謝るのならせめてドアをすぐに閉めてほしい。三島駅前の公衆の面前にこんな姿を晒されたこっちの身にもなってほしいものである。
ドアが開けっ放しなので、仕方なく、ケガをしたダチョウのような動きで前方に移動して、「閉」と書いてある大きなボタンを押す。ドアはじれったいほどゆっくりと、音を立てながらやっと閉まった。駅前でのとんでもないショーにもかかわらず、自分でも驚くほど落ち着いた行動がとれたことに心から満足した。これなら、山でクマにあっても落ち着いて行動できるような気がする。
のっけから下ネタで申し訳ないが、
そんな訳で、
三島駅前のトイレの自動ロックは壊れているので、皆さんもぜひ注意していただきたい。
さて、8時15分発のバスが来たので、何ごともなかったようにすかして乗り込む。旅の恥は何とかである。
左手に雄大な富士山を見ながら、バスは箱根外輪山を登っていく。
1 三島市街から富士山を望む 2 箱根峠から箱根中央火口丘を望む
箱根峠に着いた。まだ雪がうっすらと残っている。かなり気温が低そうであるが、風が強くないので辛くはない。
3 箱根峠道路標識 4 道端に残る雪
さて、肝心の県境であるが、標高846mの箱根峠から、くらかけゴルフ場の中を通り、標高1004.3mの鞍掛山に延びているので、残念ながら忠実にたどることはできない。
5 箱根くらかけゴルフ場方面の県境を望む 6 ゴルフ場作業道
ゴルフ場の作業道らしきものがあったので、行ってみようとしたが、人がいるので断念し、県道をそのまま進む。ここから西方向の眺めは素晴らしい。
7 静岡県道20号熱海箱根峠線から沼津市街と駿河湾を望む
8 鞍掛山の麓から富士山を望む 9 鞍掛山
県境の鞍掛山を左に見ながら歩く。地形図では、鞍掛山に登る破線があるので、まずそこに向かったが、写真10のように道はあるものの、フェンスで完全に閉ざされている。ドアには鍵までかかっており、ここから入らせないぞ、という強い意志を感じたので諦めた。
10 閉鎖された登山道 11 富士箱根ランド入口
しばらく歩くと、富士箱根ランド入り口に着いた。ここからの眺めも素晴らしく、車で来た観光客も写真を撮っている。富士山の左に見えるのは南アルプスだが、山名はわからない。雪を被っているので、3000mはありそうな感じだ。
12 富士箱根ランド入口から富士山を望む
13 富士箱根ランド入口から函南原生林と伊豆半島を望む
14 富士箱根ランド入口から県境の尾根を望む 15 トーヨータイヤターンパイク入口
車道を歩いて、そのまま湯河原峠に到着した。ここは、ターンパイクと湯河原パークウェイが県道に合流している。ターンパイクは大観山が終点かと思っていたが、ここまで延びているようだ。
16 トーヨータイヤターンパイク料金所 17 ターンパイクに降りてくる県境
箱根峠から鞍掛山を経て尾根沿いに続いている県境はここで車道と合流する。峠なので、今日はじめての相模湾側の景色も広がっている。県境一周の旅で海が見えたのは久しぶりだと思ったが、よく考えたら前回の箱根外輪山から海は見えていたのだった。
18 湯河原峠から相模湾を望む 19 湯河原パークウェイ入口
時刻はまだ9時55分だ。ここまで、車道を歩いてきたので順調である。ドライブインに入って休憩することにした。
20 ドライブイン 湯河原峠 21 ドライブイン 湯河原峠から富士山を望む
カップ麺であるが、富士宮やきそばが売っていたので、お店の人にお湯をもらえるか聞いたところ、OKなので買って食べる。味は、B1グランプリと銘打っている割には特別旨いわけでもなく、普通のカップ焼きそばのほうがマシなレベルである。いくら観光地とは言え、これで300円は高い。まあ、話の種にはなるが、二度と食べることはないだろう。
大きなガラス窓越しに富士山を見ながらゆっくり休憩したので、出発する。
22 富士宮やきそば 23 気温表示版
気温は2℃と表示されていた。手袋が必要な寒さである。
地形図によると、湯河原峠を南に進み、870mのピークを過ぎると県境は県道を左にそれるが、その県境沿いに斜めに破線が続いている。その入口が、写真24である。行けそうな感じだったが、すぐに写真25のような笹の藪になり、断念する。登山地図の赤い線は確実に歩ける道があるが、地形図の破線はあてにならないことが多い。というよりも、登山地図に載っていないので、ハイカーは歩かないし、山仕事をする人もいないので、歩く人がおらず、結局あっという間に藪になってしまうというパターンが多い気がする。
写真25も行けないことはないのかもしれないが、恐ろしく時間がかかるであろうことは、想像に難くない。
24 県境の登山道入口 25 写真24の奥
という訳で、素直に県道に戻り、県境を左に感じながら南に進む。
26 県境の尾根を望む 27 鞍掛山を振り返る
28 県道の脇を歩く 29 右手に見える富士山
30 函南原生林入口バス停
函南原生林入り口に着いた。
31 函南原生林解説板
残念ながら、今日はこの貴重な原生林を探索する時間が無い。またの機会にしよう。
32 函南原生林入口 33 県境の尾根を見上げる
地図で気になっていた、池に向かう。入口はすぐにわかった。途中笹がうるさいが、池までは行けた。
34 イモリが池入口 35 イモリが池への道
36 イモリが池 その1
山の中の誰もいない神秘的な池だ。
37 イモリが池 その2
後で池の名前を調べてみると、イモリが池というらしい。灌漑用の人工的なため池にしては、標高が高すぎる気がするが、自然の池とも言い切れない雰囲気である。調べてみると、
国土地理院が作成したこの資料
の9ページに記載があった。断層の凹地に水が溜まったものだそうだ。ただし、北西側は道路建設によって改変されたのだろう。周囲の土地利用を見ても、灌漑用ではないようだ。
県境と地形図の破線の道は池の北側を通っている。写真37の池の向こう、左の山が県境である。残念ながら池を周回する道は見当たらないので、県道に戻る。
38 駿河湾を望む 39 県境の尾根と登山道
県道の西側に芝の広場があった。ここからの景色もなかなかいい。県境の山を見ると、道が続いているのが見えた。あそこから県境に登れるかもしれないと思って行ってみると、写真40のように見事に針金で封鎖されていた。ここにも、「無断立入を禁じます。箱根山禁伐林組合」という看板が立っていて、あくまで県境に人を近づけないという決意が読み取れる。しかし、尾根付近に人影が見えたので、関係者が入っているのかもしれない。
40 進入禁止の登山道 41 県境の尾根
仕方なく、また県道を歩き出す。正面に805mのピークが見えるが、あそこまで行くと山を降りていく県境を通りすぎてしまう。次のアプローチ地点は、写真43の場所である。
42 805mピークを望む 43 登山道入口
ここからは道が入り組んでいるので、地形図を拡大することにしよう。
まず、県道から写真43で左に入り、北上して逆方向から県境にアプローチしてみよう。幸い、写真44のように、
笹薮の中を切り開いて、
りっぱな登山道がつけられている。
44 県境へ向かって北へ その1 45 県境へ向かって北へ その2
ここからは、ついに真鶴半島が見えた。
46 函南、熱海境界から相模湾と真鶴半島を望む
県境に向かって道が続いている。
この稜線は静岡県の函南町と熱海市の境界にもなっている。
47 県境へ向かって北へ その3 48 県境へ向かう防火帯
県境まで続いているかと思ったら、防火帯の笹の刈りこみ跡だけが直進しており、写真48の所で登山道は右に曲っている。右には送電線と鉄塔がありそちらに向かうようだ。登山地図にも載っていないこの道がこんなに立派な登山道になっているのは、東京電力のおかげなのだろう。
どちらにしても、立入禁止の山域なのでここまでにして引き返すことにした。
805mピークにも鉄塔があるので、道はそちらに続いているが、その手前、県道との合流地点で、左折して真北へ向かう破線が地図に記されている。この道は、北上して県境を通り越した後、東へ向かって県境沿いに降りて湯河原方面へ続いている。計画では、県境に最も忠実なこの道を降りるつもりであるが、例によって地形図の破線なので、難しいことになると予想していた。その第一候補の下山道入口が、写真50である。整備されているとは言いがたいが、笹が刈られて踏み跡はあるので行けるかもしれない。
49 805mピーク方面へ戻る 50 県境へ向かう登山道入口
その楽観的な予想もだんだんと怪しくなり、ついに写真52の地点で竹により突破不可能になった。入口の写真50の地点から約250m入ったところである。
51 県境へ向かう登山道 その1 52 県境へ向かう登山道行き止り地点
写真52の手前に右に降りる道があったので、入ってみる。うまくすれば沢沿いに湯河原におりられるかもしれない。
53 沢へ下る道 その1 54 沢へ下る道 その2
この道は急斜面で竹が濡れているために、非常に滑りやすい。ところが、地面は尖った竹の切り口が乱立しており、転んだら大ケガをすることは間違いない。慎重に歩く。幸い、靴のビブラムソールを突き抜けることはなく、この時ばかりはトレッキングシューズの有り難さを実感した。
55 沢へ下る道行き止り地点
しかし、残念ながらこの道も写真55のように突破不可能であった。
56 送電線沿いの道へ
第一候補の下山路を諦めたので、805mピークを過ぎて再度左折する第二候補の写真56の道にチャレンジする。すぐに右折する写真57の道、これは、第三候補の下山道であるがごらんのようにダメである。しかし、直進する第二候補の道はよく整備されていて、行けそうな雰囲気である。計画では、もしこの道がだめなら、第四候補の十国峠まで迂回しようと思っていたが、その必要はなさそうである。
57 送電線沿いの道から南へ入る道 58 送電線沿いに湯河原へ その1
この破線の道は県境の南を尾根沿いに下りていく道であるが、なぜ大丈夫かと判断したかというと、送電線と鉄塔が見えたからである。東電の巡視路は、下手な登山道よりもしっかり整備されていることが多い。
いよいよ、箱根の山を降りる時が来たようだ。
59 湯河原と真鶴を望む 60 送電線沿いに湯河原へ その2
61 送電線沿いに湯河原へ その3 62 送電線沿いに湯河原へ その4
道には標識はないが、東電が設置した赤いリボンがたくさんあるので迷うことはない。それにしても、東電の巡視路にしておくのはもったいないような、歩きやすい道である。
63 送電線沿いに湯河原へ その5 64 送電線沿いに湯河原へ その6
鉄塔の周囲は木が切り払われており、湯河原の温泉街がよく見える。箱根の山を海に向かって着実に下っていることを実感する。
65 湯河原と真鶴を望む その2 66 林道へ
林道を横断してさらに下る。
67 林道からふただび送電線沿いに湯河原へ 68 送電線沿いに湯河原へ その7
湯河原の町がさらに近づいてきた。
69 湯河原と真鶴を望む その3
沢水利用施設を過ぎると、ついに人家が見えた。
70 簡易水道施設 71 集落へ降りる
72 民家の横を降りる 73 湯河原の町へ
74 急な階段 75 舗装路へ出る
地形図にない舗装道路が出てきたので戸惑うが、静岡県の標識があるので北へ向かう。
76 静岡県の標識
77 城山を望む
78 湯河原の山林 79 湯河原市街地
舗装路を降りていると、一人の老人がいたので、湯河原観光会館へ降りる道はこれで良いか聞いてみた。30分ほど下りて右折するといわれたので、驚いてしまった。30分も北に行ったら奥湯河原に出てしまう。しかし、ここはまだ静岡県ではなかったか。
迷ったが大事をとって、戻って泉地区の水道施設の前に出た。しかし、結局この道も同じ所に出るようだ。
階段を降りて、独歩の湯に行く橋を渡る。千歳川、すなわち県境である。
80 千歳川を渡る 81 県境の千歳川の上流を望む
82 千歳川の下流を望む 83 独歩の湯
足湯がある。万葉の公園はまだ紅葉が残っていた。久々の平地のメジャーな観光地である。
84 万葉公園 その1
85 万葉公園 その2 86 万葉公園 その3
87 万葉公園 その4 88 万葉公園から見る千歳川 その1
89 万葉公園から見る千歳川 その2 90 湯河原観光会館
藤木川と合流した千歳川は、湯河原温泉街の真ん中を海に向かって下っていく。ここは、以前
千歳川探訪
で紹介したので、詳細はそちらを見ていただくとして、ついに県境も山岳地帯から平地に、そして海に近づいていることをひしひしと感じる。
91 千歳川の紅葉 92 東海道新幹線
93 千歳川を下る 94 海抜標識
ついに海抜10mを切った。標高846mの箱根峠から、はるばる下ってきたのだ。
海岸の県境の千歳橋に着いた。
95 川端公園 96 千歳橋
そして、15時47分、ついに千歳川河口に着いた。2008年1月2日に川崎市浮島で東京湾に別れを告げて以来の海である。考えてみれば、無事によくここまで辿り着いたものである。
97 千歳川河口 98 河口から真鶴半島を望む
日が短いので、すでに海はオレンジ色に染まりつつあるが、それが海にたどり着いたこの感慨をさらに盛り上げている。
99 河口から熱海方面を望む
100 湯河原海浜公園 101 湯河原駅
湯河原駅から帰路に着いた。
GPSによる今日の歩行経路 (Google earth 3D) (時間:7h9m 距離:28.0km)
GPSによる今日の高度記録
GPSログは、箱根峠で電波がうまく受信できずに、最初の高度が正確に出ていない。
今日は県境を忠実に辿ることが出来ないところも多かったが、これは、箱根峠から十国峠までの区間に登山道が全く整備されていないことも原因の1つである。地権者も行政も全く興味がないらしいが、藪になっている道も含めて、既存の県境の尾根道を繋げば、素晴らしいハイキングコースになると思う。雄大な景色や、一面の笹原、イモリが池、函南原生林など見どころも多い。潜在的なポテンシャルはあるのだから、ぜひ十国峠から海ノ平まで登山道を整備して欲しいものだ。そうすれば、富士箱根トレイルと繋がり、富士山から熱海までの長大な素晴らしいトレイル、つまり、富士箱根熱海トレイルになるはずである。熱海市と函南町の観光担当者には是非検討をお願いしたいものだ。
さて、県境の旅もついに箱根の山を下りて、第8部も終了である。丹沢では苦労したが、箱根の山は、たった3日で踏破することが出来た。これは、交通機関が発達していた事、アプローチ地点の高度が稼げたこと、それほど険しい山ではなかったこと、丹沢踏破で体力がついたことなど複数の要因があるが、とにかく無事に海までたどり着いたことは素直に嬉しい。しかし、一方で、もうこの旅で山を歩くことがないと思うと一抹の寂しさを感じる。実に楽しく、エキサイティングな山の旅であった。
ここからは、海岸を東に向かってゴールを目指すわけであるが、
とりあえず、次回は真鶴半島を周ることになる。
(本日の歩数:34775歩)
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