多 摩 川 探 訪
山梨県と埼玉県の県境、奥秩父の山中から流れ出て、奥多摩湖を経て、多摩地区を流れ、神奈川県と東京都の境界を下り、羽田と川崎の埋め立て地で東京湾に注ぐ大河
◆第3+4日目 (2009年10月9日) 鳩ノ巣駅〜小河内ダム
本日の踏破区
(赤線)
鳩ノ巣駅は、写真1のとおり素朴な駅である。土産物屋があるだけの駅前から坂道で川に降りていく。木々の間から小さなつり橋が見えてきて、今日も多摩川がその美しい姿をみせてくれることを予感する。
1 鳩ノ巣駅 2 鳩ノ巣小橋
昨日は大型の台風18号が通り過ぎたが、雨はそれほどでもなかったようだ、しかし、山道は小枝や木の葉が散乱しており、少しだけ台風の爪跡を感じさせる。今日は深い谷をひたすら遡上することになりそうだ。
本日の天気図 (日本気象協会 tenki.jp)
川は、台風の影響で少し濁っているものの、それほど増水していないようだ。これなら、河畔の道も通行には問題なさそうである。鳩ノ巣小橋から見る多摩川は、写真のとおり、いきなりの絶景だ。両岸に険しい山肌がそそり立ち、まさに渓谷美というものを具現化している。
3 鳩ノ巣小橋から下流を望む
4 鳩ノ巣小橋から上流を望む
対岸に渡り、遊歩道を歩く。この道は、なかなかワイルドで、岩肌の上を歩いたり、鉄の階段や石段を上ったり、アップダウンも激しい。ハイヒールで気軽に来るところではなさそうだ。平日なので、歩いている人は自分だけである。
5 右岸遊歩道 6 鳩ノ巣渓谷 その1
7 鳩ノ巣渓谷から鳩ノ巣小橋を望む 8 鳩ノ巣渓谷 その2
すばらしい渓谷美に目を奪われていると、足下がおろそかになるので、気をつけなければならない道だ。川に落ちたら、岩に頭をぶつけて人生が終わりになるにちがいない。
9 鳩ノ巣渓谷 その3 10 白丸ダム
やがて、木々の中からダムが姿を見せる。ここも東京都交通局の発電用ダムらしい。地下鉄の動力になっているのだろうか。だとすれば、やはり地球にやさしい乗り物だなどと、どうでもよいことを考える。
11 白丸ダム橋から下流と魚道を望む
12 白丸ダム解説板
このダムは、魚道が売り物らしいが、残念ながら、今日は見学できないようだ。
13 上流から見た白丸ダム 14 白丸湖 その1
ダム湖の水の色は、ちょうどトルコ石のような感じだ。台風が来なければ、もう少し透き通っていたのかもしれない。林の中に、カラフルなカヌーが置いてある。このダム湖で練習するのだろうか。今日は静かなダム湖で寂しいほどだ。
森は、残念ながら薄暗い陰気な杉の人工林である。遊歩道はダム湖の順回路を兼ねているため、手すりがあり、しっかりと整備されている。このあたりで、蛇に出会ってちょっと驚くが、模様からみてマムシではなさそうだ。向こうはもっと驚いたらしく、さそそくさと湖のほうに消えた。
15 右岸遊歩道 16 林の中のカヌー置き場
17 白丸湖 その2 18 数馬峡橋
見上げると橋が架かっている。橋の近くにわかりやすい案内板があったので、参考にあげておこう。
19 遊歩道案内板
この橋は数馬峡橋というらしい。ということは、この峡谷は、数馬峡ということになるのか。
20 数馬峡橋上 21 数馬峡橋から下流を望む
こんなところに、立派な飲食店があるとは、意外だ。
22 数馬峡橋から下流を望む 23 橋の隣の飲食店
落石注意の険しい道を登ったり降りたりすると、トンネルがあった。断崖に無理やり作ったような道である。トンネルを抜けると、人里に出てほっとする。海沢(うなざわ)の集落だ。奥多摩駅方面の標識に従って歩いていくと、正面に発電所が見えた。
24 海沢の集落 25 東電氷川発電所
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発電所の脇を上りきり、奥多摩駅方面の看板と逆方向に右折する、海沢大橋だ。河畔に公園があるようだ。
26 海沢大橋 27 海沢大橋から下流を望む
通常奥多摩駅方面へは、歩道のある右岸の道を行くのが普通らしいが、ここから、左岸に渡って、国道をしばらく歩く。
28 海沢大橋から上流を望む 29 青梅街道沿いの古い建物
トンネルの前で、旧道らしい川沿いの道に入る。早速馬頭観音が出迎えてくれたので、やはり旧道のようだ。多摩川沿いに険しい断崖のつづくこのあたりは、昔から交通の難所だったようだ。
30 日向の馬頭観音解説板 31 馬頭観音
もえぎの湯
に着いた。崖の途中にあるこの温泉はたぶん眺めが良いのだろうな、などと考えながらもいつものとおり素通りする。駐車場を抜けると、眼下につり橋が見えた。
32 もえぎの湯 33 もえぎ橋
34 もえぎ橋から下流を望む 35 もえぎ橋から上流を望む
短いトンネルを通り抜けると、滝があり、その下には水汲み場があった。正面には、赤い橋が見えて懐かしい気持ちになる。
36 滝下の水場 37 昭和橋を望む
奥多摩町の中心街に入る。奥多摩駅横でトイレを借りて駅前のベンチで缶コーヒーを飲む。駅舎は、一度見たら絶対忘れない、観光地らしい印象的な意匠である。ここをどれだけたくさんの観光客や登山客が利用したのだろう。ここは終着駅でもある。ここまで、川と一緒に伴走してきた鉄道とお別れをするのは、なんとも心細い気がする。ここからはバスしか通わない、本当の山奥だ。
38 奥多摩町中心街 39 奥多摩駅
駅からいくらも離れていない昭和橋を渡り、右岸を遡上する。町の中心地だが、川の風景はなんとも素朴で美しい。
写真41は、日原川との合流地点でもある。多摩川の水はすんだ深い緑色であるのに対して、日原川は濁った黄土色であり、対照的である。したがって、ここから下流の多摩川の色は、写真40のように濁った緑色になる。当たり前のようだが、なぜか不思議だ。台風の影響だろうが、川の色はこれほどまでに違うものなのか。
40 昭和橋から下流を望む 41 昭和橋から上流を望む
42 奥多摩の案内板
昭和橋をわたり、右岸側の遊歩道に入る。やや薄暗い感じの道だ。
43 右岸遊歩道入り口 44 遊歩道から見下ろす多摩川 その1
45 登計橋 46 登計橋から下流を望む
薄暗い道の先に、登計橋というつり橋があった。もうすっかり深山幽谷といった雰囲気である。
47 登計橋から上流を望む 48 遊歩道から見下ろす多摩川 その2
遊歩道から一般道に出て、少し戻ると南氷川橋である。ここからは、国道の青梅街道を歩く。
49 南氷川橋から下流を望む 50 南氷川橋から上流を望む
51 道端のスポーツカー 52 弁天橋から下流を望む
旅館の駐車場には奥多摩の風景には不釣合いな車がとまっていた。
これ
に似ているが、あまり詳しくないので、車種はよくわからない。
53 弁天橋下の滝 54 弁天橋から上流を望む
55 愛宕大橋から下流を望む 56 愛宕大橋から上流を望む
青梅街道は、深い谷となっている多摩川を橋で何度も渡る。それだけ、多摩川が激しく蛇行しているということだ。
57 笹平橋から下流を望む 58 笹平橋から上流を望む
59 バイクショップ 60 琴浦橋から下流を望む
61 琴浦橋から上流を望む 62 檜村橋から下流を望む
なぜかどの橋からの景色も似通っている。橋と橋の距離が短いこともあるのかもしれない。そして、檜村橋の手前を右折して、旧青梅街道に入る。この道は、
奥多摩むかし道
という名前で再整備されたようだ。
63 檜村橋から上流を望む 64 檜村橋手前から旧青梅街道へ
ハイキングコースということで、きれいな昔風のトイレが整備されている。道は普通の林道といったところである。多摩川は谷深く、水の流れは見えない。
65 旧青梅街道からみる檜村橋 66 旧青梅街道のトイレ
多摩川の支流の奥には、小さな滝があったりする。やがて、小さな集落に出る。境というところらしい。洗濯物が干してあったりして、なんとものんびりした旧街道である。
67 不動の上滝 68 境の集落
道端には、犬がつながれていたりして、公道と私有地の区別はかなりあいまいなようだ。犬にかまれる人はいないのだろうか。
69 旧奥多摩街道沿いの犬 70 消防分団の小屋
古びた消防小屋を過ぎると、頭上にはモノレールのような謎の軌道が走っている。
71 頭上を走るなぞの軌道 72 境林道開通記念碑
境の集落から、いったんむかし道をそれて下り、境橋に降りる。平地はまったくなく、深い谷が続いている。
73 境橋から下流を望む 74 境橋から上流を望む
山の斜面に点在する、山里の集落を後にすると、白髭神社の解説板が目に入る。
75 境の集落を振り返る 76 白髭神社参道階段
77 白髭神社と大岩解説板 78 白髭大岩解説板
早速階段を上がると、直線的な斜めの巨大な岩が、神社に覆いかぶさっていた。石灰岩らしい。しかも、断層面だというのだから貴重な光景だ。
79 白髭大岩
次は、弁慶の腕ぬき岩である。岩に筒状の空間ができており、思わず手を通してみる。
80 弁慶の腕ぬき岩解説板 81 弁慶の腕ぬき岩
次は、耳神様だ。この道は江戸時代の小物の史跡が残っていてなかなか楽しい道である。おそらく、この石は、100年以上前からここにあるのだろう。
82 耳神様解説板 83 耳神様
84 いろは楓解説板 85 いろは楓
紅葉にはまだ早いが、斜面に立つ民家は少し秋の装いである。
86 梅久保の民家の畑 87 納屋
この急斜面は昔から畑として利用されてきたのだろう。昔ながらの佇まいを見せる納屋は、薪が積んであり、なんともいえない山里の雰囲気を醸し出している。母屋は、玄関が開けっ放しで暖かい雰囲気だ。山からは清冽な水が湧いている。昔と変わらぬ山村の生活がここにはあるのだろう。不便かもしれないが、なぜかとてもうらやましく感じる暮らしである。
88 水場 89 母屋
90 惣岳の不動尊解説板 91 惣岳の不動尊
92 惣岳渓谷解説板 93 しだくら橋解説板
しだくら橋というつり橋が架かっていた。谷底の水は青い。
94 しだくら橋から下流を望む 95 しだくら橋から上流を望む
この道は、昔のデートコースだったのだろうか。
96 縁結びの地蔵尊解説板 97 縁結びの地蔵尊
98 馬の水のみ場解説板 99 馬の水のみ場
100 牛頭観音解説板 101 牛頭観音
102 むし歯地蔵尊解説板 103 むし歯地蔵尊
馬、牛、むし歯とさまざまな生き物が登場する楽しい道だ。山村の唯一の交通路であったため、何でも街道沿いにもってきたのだろうか。
104 道所の集落 105 川合玉堂の歌碑
川合玉堂
の歌碑があった。有名な画家らしい。前回に御岳を通ったときに、
この人の美術館
があったことを思い出した。
106 道所橋 107 道所橋から下流を望む
次も歩行者専用のつり橋である。しかし、どこまで険しい地形なのだろう。きつい斜面ばかりで平地というものがまったくない。川は手付かずの自然の姿でずっと続いている。
108 道所橋から上流を望む 109 旧青梅街道から見る多摩川
やっと、少し開けた場所に出る。とはいっても周りは相変わらず山ばかりである。小河内ダムが近くなってきた。
110 鳥の巣? 111 道所から上流に向かう旧青梅街道
ダムの敷地に突き当たり、直進する道は立ち入り禁止となった。旧青梅街道であるむかし道は、ここから山の上に登るようだが、ここは、いったん国道に出てダムを目指すことにする。
中山トンネルでは、悪い予感が的中する。歩道のない狭いトンネル内を歩かなければならない。と思ったら、工事中で片側交互通行になっていた。警備の人に徒歩で入っても良いかを尋ねたところ、パイロンの内側を通っても良いとのこと。おかげで歩行者専用レーンと化した工事用スペースを安全に通ることができた。
112 中山トンネル 113 余水吐から多摩川へ
ついにダムが姿を現す。意外と小さい。ダムの下は、コンクリートで固められ、その下に自然の川が続いている。多摩川は、奥多摩湖より下流の名称なので、写真113の流れが最初の多摩川ということになる。
114 下流側から余水吐水門を望む 115 ダムサイトの石碑群
ダムサイトに着いた。深い谷の旧街道から明るく広々とした奥多摩湖につくと、江戸時代から現代にタイムスリップした感じがする。
ダムサイトでは、湖底に沈んだ村から移設された石碑群が出迎えてくれた。
116 ダムサイト 117 水と緑のふれあい館
ついに奥多摩湖が眼前に姿を現した。湖畔の公園には、この人口湖を作ることになった経緯と工事の様子が詳しく紹介されていた。少し長くなるが、奥多摩湖を理解するためには欠かせない説明だと思うので、その全部を載せておこう。興味のある方は読んでいただきたい。
それにしても、昭和7年の計画決定から第2次世界大戦を挟んで、実に25年の時間をかけて作られたこのダム、世紀の大プロジェクトだったことだけは理解できる。
118 小河内ダム解説板 その1
119 小河内ダム解説板 その2
120 小河内ダム解説板 その3
121 小河内ダム解説板 その4
写真71をはじめ、何度か頭上に姿を見せたなぞの軌道の正体は、おそらくこの専用鉄道だったのだろう。青梅線とつなげればよいのにと、無責任なことを考える。
122 小河内ダム解説板 その5
123 小河内ダム解説板 その6
124 小河内ダム解説板 その7
125 小河内ダム解説板 その8
126 小河内ダム解説板 その9
127 小河内ダム解説板 その10
128 小河内ダム解説板 その11
ダムが、水の圧力や熱によって10センチ以上も動くというのは驚きだ。
129 余水吐水門 130 小河内貯水池管理事務所
先ほど見たダムは余水吐水門であった。ダム本体は写真131のほうでさすがに大きい。
残念ながら空は曇ってしまい、夕方ということも相まって、奥多摩湖も暗い雰囲気だ。平日で人が少ないせいもあるだろう。
131 ダム本体 132 奥多摩湖 その1
展望台に登る。ダム本体と一体になっており、ダム側から入る時はなんでもないのだが、反対側のあまりの高度感は圧倒的で、めまいがしそうだ。
はるか下に、発電所ともうひとつの多摩川の始まりの流れが見えた。
133 ダムから多摩川第一発電所を見下ろす
134 小河内ダム構造解説板
予定では、奥多摩湖の途中まで行くつもりだったが、いつものことで、ここで時間と体力と気力が枯渇してしまった。ダムサイトでは、すぐにバスが来たので、乗り込む。この便利な輸送手段は、先ほど苦労して歩いた谷をトンネルと橋で貫いて、疲れきった体を一気に奥多摩駅まで運んでくれた。それもたったの340円で。
135 夕方の奥多摩湖
今日も充実した多摩川遡上体験であった。今回のコースは、3つのポイントが楽しめる。
ひとつめは、鳩ノ巣渓谷である。河畔を歩ける遊歩道はややハードだが、すばらしい渓谷美をすぐ目の前で見ることができて、川との一体感がすばらしい。
ふたつめは、旧青梅街道、通称、奥多摩むかし道である。この区間は、地形が険しく、川に近づくことはできないが、眼下に見える谷底の川と江戸時代の街道の雰囲気を残した歴史の道、山村の風景がすばらしい。
最後は、小河内ダムと奥多摩湖である。
次回は奥多摩湖畔を遡ることになる。この山奥の湖との再会が楽しみだ。
本日の踏破区間
(赤線)
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