東京都一周
いよいよ東京都の最高峰で最西端(島嶼部を除く)である雲取山へ
◆第5日目(2012年5月11日)
鴨沢
〜
雲取山
冬から早春にかけて、笹尾根、三頭山を越えて、雪の中を奥多摩湖まで到達した。やっと雪が消え、ここから都県境はいよいよ雲取山を目指すことになる。改めて説明する必要もないが、標高2000mを超える東京都最高所であり、島を除けば最西端である。距離も長く、標高差で1500mも登らなくてはならない。さらに往復では意味が無いので、雲取山の向こうに足跡を伸ばさなければならないのである。したがって、日帰りは無理である。
救いは、雲取山が奥多摩、奥秩父の人気の山であり、情報も豊富なことである。調べてみると、雲取山登山は、上で一泊するのが普通らしく、その中でも雲取山荘という大きな山小屋が有名なようだ。
計画では、まず鴨沢をできるだけ早い時間に出発して、雲取山を経て雲取山荘に宿泊し、翌日はその先に続く長沢背稜を行くことにする。アクシデントに備えて、予備日が欲しい事と山小屋は平日の方が空いているだろうという理由で、
天候を見計らって実行に移したのは、5月11日、金曜日である。
雲取山までの長いアプローチを考えると、奥多摩駅7時発のバスに乗りたいが、自宅からでは始発に乗ってもその時間には間に合わないため、10日の木曜日に仕事が終わってから福生のホテルに前泊することにした。
山では風呂に入れないので、当日の朝にシャワーを浴びてから早朝の青梅線奥多摩行きに乗る。
1 奥多摩駅前 2 鴨沢
金曜日にもかかわらず、奥多摩駅7時発のバスは座席がほぼ埋まるほどの混み具合である。しかし、鴨沢で降りたのはたった3人であった。缶コーヒーを飲みながらGPSが衛星を補足するのを待って、7時50分に鴨沢を出発する。
3 登山口
鴨沢集落を抜けて、わかりやすい道を登っていく。
4 登山口地図
写真5で、熊注意の看板とともに左折し、道が細くなる。
5 登山道入口 6 奥多摩湖を見下ろす
7 登山道 8 小袖駐車場
しばらく登山道を歩くと、車道に出た。駐車場もある。雲取山をピストンで登る人はここに車を停めるのだろう。
9 小袖乗越登山口 10 堂所へ その1
写真9から車道をそれて本格的な登山道になる。
11 廃屋 12 堂所へ その2
廃屋を過ぎて登っていく。道は険しくなく、まだ体力も十分である。植生は人工林ばかりではなく、気持ちの良い木立が続いている。
13 小袖川の谷を望む 14 堂所へ その3
さて、肝心の都県境は、下の地図のとおり小袖川沿いに北上しているが、川沿いに道はない。どうしても辿りたければ沢登りをする必要があるので、今回は山梨県側を平行する登山道で許していただくことにする。
15 猟銃の薬莢 16 水場
17 標識 18 堂所へ その4
それほど急勾配だとは思えない歩きやすい登山道を登ってきたが、テントが張れそうな広場に写真17の標識があった。標高が1150mもある。一瞬、もう半分以上登ったと喜んだが、よく考えたら鴨沢の標高が500m以上あるので、まだ半分も登っていない。ついでに高度計を補正する。
このあたりから、ところどころに巨石がみられ、山に来たという雰囲気になってきた。
19 堂所へ その5 20 堂所
9時57分に堂所に着いた。「どうどころ」と読むのだろうか。丹波山からの道があり、古くからの峠道という感じである。ここは昔、賭博場があったということだが、なぜこんな山の中でやっていたのだろうか。まあ、山奥のいろいろな部落から来るのには峠のほうが便利だし、お上の取締りを逃れる必要があったのかもしれない。
21 七ツ石小屋へ その1 22 七ツ石小屋へ その2
写真22のつづら折りは、直進する道があるが、さすがにメジャーな登山道だけあって、立派な通行止め標識が立っていた。これでは間違い様がない。
23 通行止標識 24七ツ石小屋への分岐
道が分岐している。右の道は七ツ石小屋経由の近道だと書いてあるが、どうも小屋の集客看板に見えないこともない。しかし、どうせ登るのだからと右の急勾配の道に入る。ここは、キツかった。ここまででかなりの距離を歩いてきて、ここで体力が尽きたという感じである。休み休み登ると、七ツ石小屋はすぐ上にあった。
25 七ツ石小屋へ その3 26 七ツ石小屋
11時4分、七ツ石小屋に到着である。奥に休憩出来る広場があり、自由に利用して良いと書いてあるのでおじゃまする。
27 七ツ石小屋から南を望む 28 七ツ石小屋の飲み物とおみやげ
南側の眺めが良い。
30代くらいのファッショナブルな格好の男女が休んでいたが、彼女の真剣な視線が突き刺さるように痛い。上から下まで、どんなブランドの服やギアを身に着けているか、ベテランか初心者か、一瞬で値踏みされている。カテゴリーが明らかに違うこんなおじさんと比べてもしかたがないと思うが。
その奥には、同じバスの単独の男性がいたが、装備からみてテント泊のようだ。彼は、他人に興味がない様子で、彼女とは対照的である。
ここは、トイレは100円だが、誰でも水がもらえるようで、なかなか太っ腹である。ただで休憩させてもらうのが申し訳なく思ったので、メニューを見ると、ラーメン500円という文字に目が止まった。昼食用に持ってきた菓子パンを非常食に回せると思い、注文する。若い兄ちゃんが小さな鍋に水を汲んでいる。ラーメンはもちろんインスタントで、具は少しのワカメとゴマであるが、贅沢は敵である。ありがたくいただいた。生卵を持ってきて落とすと最高だと思った。
29 七ツ石小屋休憩所 30 ラーメン
30分以上ダラダラと休憩して七ツ石小屋を出発する。すぐに水場のある写真31の分岐につく。パイプがあり、小屋の水はこの沢から引いているようだ。標識は、右が鷹ノ巣山、左が雲取山とかいてあったので、迷わず左の道を選ぶ。
が、これは後で失敗であることがわかる。後で写真31を見直すと、右は「七ツ石山・鷹ノ巣山」と書いてあったのである。前半部分を見落としていた。小屋を出発する時に、地図を見なおしておくべきであった。
31 七ツ石山への分岐 32 ブナ坂へのまき道
さて、そんなことも知らずに巻き道に入ってしまったことは、行けども行けども道が平坦で回り道していることで気がついたが、もう遅い。
ブナ坂に着いてしまったので、写真34の道から七ツ石山に登り返すことにした。都県境にあるこの山は外せないだろう。
33 ブナ坂 34 ブナ坂から七ツ石山へ
七ツ石小屋にいた人たちとすれ違いながら、己の愚かさを噛み締めて急坂を登る。12時13分、標高1757.3mの七ツ石山に到着した。眺めはなかなか良いが、やや曇りがちなのが残念である。
35七ツ石山山頂 36 七ツ石山から南を望む
37 ダブルストック 38 七ツ石山から飛龍山を望む
途中で木の枝を拾ってダブルストックにしていたのが少し役立った。さて、気を取り直し、引き返して雲取山へ向かう。ここから先は、この尾根が正真正銘の都県境である。向かって右が東京都側だ。山頂付近に岩場があったので、これが七ツ石の由来かと思ったが、後で調べてみると七ツ石は別にあるようだ。
39 七ツ石?
正面に雲取山のピラミダルな山容が見える。
40 雲取山を望む 41 ブナ坂
ブナ坂に戻ってきた。ここまでの巻き道は、七ツ石山に寄らないで真っ直ぐ雲取山を目指す人にとっては楽でよいかもしれない。
ブナ坂から先は、防火帯の広々とした登山道が続いていた。雲取山の紹介でよく使われる象徴的な景色だが、確かに爽快な道で、疲れも吹き飛ぶ感じである。
42 小雲取山へ その1 43 小雲取山へ その2
44 小雲取山へ その3 45 尖った岩
46 雲取山(五十人平)ヘリポート 47 水場への分岐
立派なヘリポートを過ぎると、水場への分岐があり、奥多摩小屋に到着した。13時ちょうどである。
48 奥多摩小屋前 49 奥多摩小屋
いかにも山小屋という古い建物であるが、奥多摩町営らしい。中に入ると薄暗い中に人がいて、ちょっとびっくりする。若そうな管理人さんらしいが、逆光でよく見えない。いろいろ話しかけるが、反応がいまいちなので、すぐに小屋を出た。
50 まき道分岐 51 まき道
幾つかの分岐があるが、今度はしっかり地図を確認する。
52 富田新道分岐 53 小雲取山へ その4
54 小雲取山 55 小雲取山からヘリポート方面
13時30分、標高1937mの小雲取山に到着。南側の眺めが良い。大寺山の仏舎利塔とその向こうにどっしりとそびえる三頭山がはっきり見える。あそこからここまでの都県境を頭の中で引いてみる。
56 小雲取山から三頭山を望む 57 雲取山へ その1
左手には、雲取山から西の尾根伝い、標高2077mの飛龍山が見える。もちろん登ったことはないが、名前がかっこいいではないか。
58 登山道から飛龍山を望む 59 雲取山荘へのまき道分岐
広い草原が帯状に広がるこの開放感あふれる尾根は、雲取山人気の大きな要因となっているようだ。たしかに、天気さえ良ければこの気分は思わずビールを飲みたくなったり、疲れていても歌を歌いたくなるような、まあ、これは実行するわけではなく、あくまで比喩であるが、とにかく気持ちが良いことだけは確かである。雲取山を紹介する幾多のガイドブックもここの写真を必ず載せていることがその証拠である。
60 雲取山へ その2 61 岩場
62 雲取山へ その3 63 ケルン?
前方に赤い屋根が見える。雲取山山頂の避難小屋だろう。遠くても目標が見えると登りも辛くないのは不思議である。
64 雲取山へ その4 65 雲取山へ その5
雲取山山頂は標高2017mなので、途中で2000mを超える場所があるはずである。その瞬間を体験するために、高度計を見ながらゆっくりと登る。それは、避難小屋直下の写真66、67地点であった。
66 高度2000m超 67 雲取山直下2000m超地点
68 雲取山避難小屋 69 雲取山避難小屋内部
平成24年5月11日14時5分、ついに雲取山山頂避難小屋に到着した。休憩を入れて、6時間15分かかっているが、明日もあるのでちょうど良いペースである。
避難小屋は写真のとおりログハウス風の立派なもので、どう考えても奥多摩小屋より綺麗でよさそうである。しかも無料だ。
70 高度計 71 避難小屋の温度計
避難小屋前の温度計によると、気温はなんと9℃しかないが、日向にいれば全く寒くない。今日は、モンベルのライトシェルジャケットというのを着ているが、軽くて防風、保温機能があり、なかなか良い。しかも、6800円と安い。登りでは、これを着たり脱いだりといった感じである。稜線では、汗をかいた体に、時々冷たい風が吹きつけるので注意が必要だ。
72 雲取山から登山道を見下ろす
言葉も出ないほど素晴らしい景色である。まさしく東京のてっぺんから下界を見下ろしているわけで、気分は爽快としか言いようが無い。
73
雲取山から長沢背稜を望む
74 雲取山避難小屋の案内図
岩の上で座って景色を見ている年配の男性がいたので、シャッターを押して貰う。話してみると、同じバスだったようだ。今日は避難小屋に泊まるのだが暇だな、と言いながらも、実に満足そうな顔をしていた。雲取山荘は高いし、と言っていたが、夜の気温は5℃以下になるのでは、と言ったら驚いて、シュラフだけで大丈夫かなと心配していた。二人で話をしながら絶景を楽しんでいると、一人の女性が登ってきた。奥多摩駅8時42分発のバスだという。この時間に着いたということは、雪がなく、健脚の山慣れた人ならそのバスでも大丈夫らしい。年配の男性の関心が女性に移ったようなので、北側にある本当の山頂に移る。
75 記念写真 76 鹿の糞
77 雲取山山頂 その1
こちらが、2017mの山頂であるが、避難小屋のほうが景色は良い。しかし、ここが、東京都最高峰、最西端の雲取山山頂である。三国山を出発してから通算5日目、よくここまで辿り着いたものである。
そして、ここは、東京都、山梨県、埼玉県の都県境でもあり、左側の斜面は、山梨県丹波山村から埼玉県秩父市に変わる。三国山から続いた長大な尾根の山梨県境ともお別れである。
78 雲取山山頂 その2 79 雲取山から東を望む
80 雲取山から西の飛龍山を望む
15時近くなったので、そろそろ今日の目的地である雲取山荘に向かって下山する。雲取山荘まで、なだらかな明るい尾根道を想像していたら、予想に反して暗くて深い森の急斜面である。やはり北斜面だからか。
81 雲取山荘へ その1 82 不気味な倒木
途中にあった倒木が、外国の絵本に出てくるモンスターのような恐ろしい枝ぶりなので思わず写真を撮った。
さて、先ほど雲取山が東京都最西端といったが、地形図を見ると雲取山より少し北側のこのあたりが最西端のように見える。そこで、GPSのログを確認すると、山頂は東経138度56分38秒、写真82付近は東経138度56分35秒であり、このあたりが本当の最西端のようである。
83 美しい苔 84 雲取山荘へ その2
美しい苔を見ながら降りていくと、赤い屋根が見えた。
85 田部重治レリーフ 86 雲取山荘上
アイゼンの爪で削られた階段を降りると、2000m近い場所にあるとは思えないほど立派な雲取山荘に到着である。15時20分、ちょうど良い時間だ。
87 雲取山荘への最後の階段 88 雲取山荘
おばさんに7500円を払って説明を聞く。奥多摩駅で登山計画書を出し忘れたので、山荘に出そうとしたら、受け取ってくれなかった。何処に行くのかと聞かれて長沢背稜だといったら、面倒くさそうに、まあ大丈夫でしょ、そちら方面に行く人がいるから話をしたら、と言われる。ほとんど人が行かない尾根なので計画書を出したかったのだが、意外と冷淡である。もし遭難して死んだら、山荘に化けて出てやろうと決めた。
雲取山荘は、平日で空いていると思ったら、結構人がいた。残念ながら3人の相部屋らしい。しかし、部屋には10組以上の寝具があったので、贅沢を言ってはいけないだろう。
部屋に入り、先客に挨拶と自己紹介をする。一人は名古屋から、もう一人は京都から来たというので驚いた。アルプスならともかく、奥多摩の山にわざわざそんな遠くから登りに来るとは。
二人共、三峰神社から登ってきたそうだ。埼玉側登山口のほうが、標高は高いかもしれないが、景色は鴨沢側のほうがよさそうである。わざわざ雲取山に来るのは、百名山を制覇するということらしい。関東は山があっていいですねというが、関西の山に行ったことがないので意味がよくわからなかった。どうも、関東には百名山が多いと言いたいらしい。たしかに北関東も含めれば有名な山はたくさんある。お決まりの、有名な何処其処の百名山に行ったという話が始まったので、曖昧にうなづきながらコタツに入って夕食を待つ。自分で決めて好きな山に登れば良いのに、なぜ深田久弥に決めてもらわなければならないのだろう。
携帯電話の話題になった。自分のauを見てみると圏外である。ここでは、ドコモは通じるらしいので、やはり山ではドコモだという結論になった。
部屋を見回すと、天井の蛍光灯ひとつで、コンセントはない。電気は自家発電だろう。するとコタツは練炭だろうか。一酸化炭素中毒にならないか心配である。
ハンバーグの夕食後、500円のビールをロビーで1缶飲んだ。冷えている。同室の人は、もうすでに5本目だという。ある山小屋で10本飲んだら、宿泊代よりも高くなった、と笑っていた。
それにしても、この山小屋はなかなか立派で、儲かっている印象である。人気の山で、しかも普通の体力では日帰りできないので、利用者が多いのだろう。値段や接客態度は評判が悪いが、競争相手がいないので、改善は期待できそうにない。
89 雲取山荘室内
8時に消灯するが、寝付けない。空気が薄いからか。
GPSによる今日の歩行経路
GPSによる今日の高度記録
(本日の歩数:24476歩)
今日は、ついに当面の目標であった雲取山まで到達した。明日は、雲取山荘からさらに東へ都県境を進む予定であるが、その長沢背稜は、今日のコースとはうって変わってマイナーなルートである。はたして大丈夫だろうか。
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