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四阿山(あずまやさん) 標高2354m 登山開始地点標高2050m
自分の足で登らない山シリーズ第16弾 群馬県と長野県の県境に位置する隠れた名峰 |
◆ 2013年10月13日
四阿山を「あずまやさん」と正確に読める人は、登山に興味がある人か和風建築の専門家だけだろう。バカなのを開き直るわけではないが、東屋なら読めるだろうが、私には少なくとも「四阿」は読めない。だいたいIME入力だと変換候補にも出てこないのだ。
そんな漢字的にはマニアックな山に目をつけたのは、もちろん簡単に登れるからである。この山の東、つまり群馬県側にはパルコール嬬恋という大きなスキーリゾートがあり、そこから山頂に続く2000mを超える尾根にパルキャビンというゴンドラで登れるのである。ちなみにこのスキー場はWikiによると関東地方最大で、パルキャビンも3200mで関東地方最長だそうである。ただし、パルコール嬬恋が営業しているのは、冬と夏だけであり、しかも、バスなどの公共交通機関はない。車かタクシーだが、距離からみて、夜中に車で行って朝から登るのが一般的だろう。幸い、パルキャビンは、登山者向けに、夏だけでなく秋の連休も運行している。
しかし、寝不足で登るのはつらいので、前泊することにした。パルコール嬬恋は営業していないので、後はペンションくらいだがオッサン一人では事実上無理である。いろいろ調べてみると、麓のバラギ湖にキャンプ場があるではないか。秋のキャンプも悪くないかもしれない。
10月12日朝に車にテントを積み込んで家を出て、高尾山から圏央道に乗る。圏央道が茅ヶ崎までつながると速いのだが、まだ数年かかるようだ。関越道から上信越道に入り、軽井沢で高速を降りる。コンビニで食料を調達してバラギ高原キャンプ場についたのは15時をとっくに廻っていた。結構時間がかかってしまったようだ。それにやはり車は疲れる。年をとり、普段自分では運転しなくなったので、若いころのように何時間走っても疲れない、という訳にはいかないようだ。
1 夕暮れのバラギ高原キャンプ場
バラギ高原キャンプ場はバラギ湖畔にある、美しい場所であった。料金は1000円、道の向こう側の丘には、カンパーニャ嬬恋キャンプ場という別のオートキャンプ場がある。こちらは大人一人2100円と高級である。
2 夕暮れのバラギ湖 3 テントを張る
広い芝生の真ん中にテントを張る。このテントは、防災用に買っておいた物で、たしか4000円くらいの激安品だが、とりあえず寝るところだけは確保できた。明るいうちに風呂に行くことにしよう。ありがたいことに、車ですぐ、歩いても5分のところに、バラギ温泉・湖畔の湯がある。多分ふたつのキャンプ場の利用者は必ずここを利用するのだろう。結構お客さんがいた。露天風呂はないが、キャンプにしては贅沢な温泉である。料金は500円だが、キャンプ場で割引券をくれたので、400円だった。
風呂から戻って夕食を食べると後は何もすることがない。楽しそうにタープの下で焚き火をしている光景や、日が暮れる風景をテントからぼんやり眺めながら時間をつぶす。このテントは2mの正方形なのだが、身長が182cmの筆者の場合、対角線に寝ると荷物も置けて一人用としてはちょうど良いということになる。
夜になると気温がグングン下がってきた。標高が1300mあるのを忘れていた。しかも、風が強い。空と木が唸って不気味な音を発てている。安物テントの細い支柱が折れないか心配になる。念のため、風上側のロープとペグを2重にした。林のすぐ横にテントを張っている人が多い理由がやっとわかった。草原の真ん中にテントを張った私がバカであった。
4 今夜のベッド 5 夜中の温度計
マット2枚重ねに羽毛シュラフとインナーシーツで寝たが、寒くて夜中に目が覚める。温度計を見るとテント内は何と3℃だ。風は相変わらず強くて、テントが変形して揺れる。やはり、山岳用のテントじゃないと安心できない。
トイレから帰って、ふと空をみあげて驚いた。ものすごい星の数、全面星だらけである。銀河系、つまり天の川が信じられない星の密度で空を横切っている。こんな星空を見たのは、もちろん生まれて初めてで感動した。周囲の環境と標高、そして、快晴の空に強風が吹いているという最高の条件が揃ったのだろう。思わず写真に撮ろうと思ったが、マニュアルモードにしてシャッターを開放するやり方が分からなくて断念した。
6時前に目がさめたので、朝食を食べて、日の出を待つ。空がかなり明るくなってから初めて太陽が顔を出した。幸い強風も収まり、テントも何とか持ちこたえたようだ。
6 朝食 7 バラギ高原の日の出
8 朝焼けのバラギ湖
9 キャンプ場のトイレ 10 トイレ内部
キャンプ場のトイレは写真のとおり、ホテル並みのキレイさである。
11 バラギ高原キャンプ場の朝 その1
晴れ上がった高原のキャンプ場の朝は、思わず散歩したくなるような気持ちの良い光景だ。
12 バラギ高原キャンプ場の朝 その2
できれば、もう一晩泊まってこの湖畔のキャンプ場でマッタリとしたいところだが、そうもいかない。テントを撤収して、車でスキー場に向かう。
13 パルコール嬬恋リゾートホテル外観 14 ホテルロビー天井
パルコール嬬恋のホテルは、予想どおり大きくて立派である。ゴンドラが動き始めるのは8時からなので、ホテルの中で待つことにした。営業していないのでガランとしている。施設は巨大で大げさ、しかも、古びている。いかにもバブル時代のリゾートホテルという感じだが、調べてみると1989年開業ということなので、やはりバブルの絶頂期である。
15 パルコール嬬恋リゾートホテルロビー 16 パルキャビン乗り場
時間が来たので、隣のゴンドラ乗り場に向かう。待っている登山客は10人くらいいそうである。
17 山頂駅の気温 18 パルキャビン
山頂駅の気温は3℃と書いてある。しかも風が強いらしい。軽装では無理である。
19 パルキャビンから草津白根山方面を望む
景色は良いが、ゴンドラは強風で煽られてかなり揺れる。距離3200m、標高差570m、所要時間は15分。
20 パルキャビン山頂駅へ 21 パルキャビン山頂駅
22 パルキャビン山頂駅前
8時19分に標高2050mの山頂駅に到着した。いよいよ登山開始である。それにしても、歩かずに一気に2000mまで登れるところは、そう多くない。駒ケ岳ロープウェイには及ばないが、ゴンドラとしては日光白根山と双璧をなすかもしれない。
23 茨木山分岐へ その1
24 茨木山分岐へ その2
しばらくはスキー場内の広い道が続く。笹と樹木の調和が美しい。
25 愛妻の鐘 26 茨木山分岐へ その3
写真27からいよいよ登山道に入る。
27 茨木山分岐へ その4 28 手袋をつける
天気は良いのだが、気温が低く風が強いので寒さに耐え切れなくなって手袋をつけた。笹の葉には真っ白な霜が降りている。最初の2119mのピークは暗くて大きな石が多い歩きにくい道だったが、それを登ってから下り切ると写真30のような快適な道である。
29 笹の葉の霜 30 茨木山分岐へ その5
31 茨木山分岐へ その6
32 茨木山分岐へ その7
強風を除けば、天気が良くて気持ちの良い尾根歩きだ。
33 茨木山分岐へ その8 34 茨木山分岐へ その9
35 茨木山分岐へ その10
36 茨木山分岐へ その11 37 茨木山分岐へ その12
ぬかるみがひどいところにはちゃんと木道が整備されている。まず、茨木山への分岐点を目指そう。
38 茨木山分岐へ その13 39 茨木山分岐へ その14
40 茨木山分岐へ その15 41 茨木山分岐へ その16
草津白根山が手に取るように見える。
42 登山道から草津白根山を望む
写真43の標識には、四阿山2kmと書いてあったらしい、2kmのところはバッテンで消してあった。地図上の直線距離では500mくらいなので、上り下りを考慮しても2kmはないだろう。
43 茨木山分岐へ その17 44
茨木山分岐へ その18
9時37分、茨木山分岐に着いた。標高は2270m、ここで休憩である。展望がよく、山の名前をみんなで同定している。よく見る光景である。
45 茨木山分岐 46 茨木山分岐から浅間山を望む
ここからは、写真47のように階段になった。
47 四阿山へ その1 48 美しい苔
49 四阿山へ その2
高度を上げていくと、写真50で正面に岩山が見えた。あれが山頂だろうか。
50 四阿山へ その3
岩を登っていく。が、着いたその先は山頂ではなかった。四阿山の手前の標高2333mのピークらしい。
51 四阿山へ その4 52 四阿山へ その5
だんだん左右が急斜面の切り立った尾根になってきた。
53 四阿山へ その6
54 四阿山へ その7
ふと右側の枝を見ると白い。樹氷のようだ。雪もないのにこんなに見事な樹氷は初めてみる。
55 樹氷の向こうの草津白根山
56 樹氷の向こうの根子岳
57 樹氷 その1
痩せた尾根を行くと正面に三角形のピークが見えた。あそこが頂上だろう。しかし、写真58のとおり見事に長野県側だけが樹氷で白くなるっているのがよくわかる。
58 四阿山へ その8
59 四阿山へ その9
60 樹氷 その2
最後のピークの急斜面にとりかかる。
61 四阿山へ その10
たどり着いたところが標高2354mの四阿山山頂である。10時8分だ。1時間50分かかっている。
62 四阿山山頂 その1 63 四阿山山頂 その2
狭くて人が多い。悪いことにツアー客もいるようだ。集団でルートもおまかせ、地図も見ず引率の後について歩いて何が楽しいのか、と思うが、百名山らしいので仕方がない。
座る場所を探して、軽井沢で買ったオニギリを食べる。もっと風が強いと思ったがそれほどでもない。
64 四阿山山頂 その3 65 四阿山山頂 その4
66 山頂から浅間山、奥秩父、富士山、八ヶ岳を望む
頂上からの展望は素晴らしかった。写真66のように南に目を向けると、手前左が浅間山、奥には金峰山などの奥秩父の山の右に富士山が見える。さらにその右手には赤岳から蓼科山までの八ヶ岳連峰が見渡せる。
67 山頂から根子岳を望む
西側に目を向けると写真67のようにすぐ下には草原に覆われた根子岳がよく見え、長野盆地の向こうには北アルプスが雲に覆われていた。
いつまでも景色に見とれているわけにもいかない。今日中に神奈川県まで帰らなければならないのである。10時30分山頂を後にした。今度は左手に樹氷を見ながら下っていく。同じ道の往復だが、車なので仕方がない。本当は、根子岳から長野県側の菅平に降りたかったのだが。
68 樹氷 その3
69 樹氷 その4
70 樹氷 その5
71 樹氷と景色を楽しむ登山者
72 登山道からバラギ高原を見下ろす
写真72はバラギ高原を見下ろしたものだが、左端にバラギ湖、右の方に田代湖、その上に浅間山が見える。その間に広がる畑は高原キャベツの産地らしい。
73 下山路からみる樹氷と草津白根山
草津白根山は、国道の日本最高地点がある国道292号線が山腹を斜めに横切っていることで一目瞭然である。あそこを歩いたのは、2012年10月13日、偶然にも一年前の今日であった。
74 風で落ちた樹氷
75 日本庭園のような登山道
ここは、狭い尾根であるが、道端に紅葉したサツキのような生け垣があり、左手には樹氷、右手には松があって、なんだか日本庭園のような不思議な美しさを感じた。自然の妙である。
76 根子岳
77 下山路の風景 その1
78 樹皮の苔 79 滑る木道
景色や森を楽しみながら下る。こういう気楽な帰り道、気が緩んだ時に事故は起こる。泥で濡れた木道である。安易に足をついて、思い切り滑って尻餅をついてしまった。右手をついたが、幸い脱臼や骨折はしなかった。下は岩でなく木の板だったのでお尻も泥だらけになっただけで無事だった。ただ抜かしたばかりの子供連れのお父さんに目撃されてしまったのは恥ずかしい。
80 下山路の風景 その2
81 下山路の風景 その3
82 下山路の風景 その4
83 下山路の風景 その5
84 登山道入口
85 愛妻の鐘と草津白根山
86 山頂駅 87 汚れたズボン
11時56分、ゴンドラの山頂駅に到着である。下りは、1時間半だ。ゴンドラに乗ろうとすると、係の人に止められてしまった。風が強いので、4人で乗ってくれという。人が来るまで待つようにいわれたので、じゃあ呼んできますと言って行こうとしたら、係の人が近くにいる人達を呼びに行ってくれた。結局3人乗り込んで下るが、確かに朝よりも揺れが少ない。やはり軽いとダメなようである。
88 停まったゴンドラ
ゴンドラを降りると、強風のため、上りの改札口は閉鎖されていた。
時間に余裕があったので、バラギ湖に寄ってみた。
89 バラギ湖キャンプ場へ戻る
3連休で明日も休みなので、まだテントが張ってある。くつろいでいる人が多いが、せっかちな私には、キャンプサイトで何もせずに一日ノンビリするのは無理だろう。
90 バラギ湖 その1
91 バラギ湖畔の草原
WindowsXPの壁紙のような草原の風景があったので、写真を撮った。バラギ湖は釣りも楽しめるらしい。
92 バラギ湖 その2
楽をしたおかげで体力は余っているが、これから一人で運転して帰らなくてはなければならない。軽井沢が混むといけないので、帰りは渋川に出て、直接関越道に乗ることにして、車のアクセルを踏み込んだ。
GPSによる本日の歩行経路
GPSによる今日の高度記録
四阿山は、ゴンドラを使うと名目標高差はたった300m、尾根のアップダウンはあるが、上のGPSデータでも累積で500mで登れる山である。2354mも標高がある山としては、異例のお気楽ラクチンコースだ。感覚的には、金峰山や日光白根山に近いが、もっと楽な気もする。初心者や子供でも問題ない。
この山は車で来て菅平高原から登る人が多いようだ。ゴンドラの時間に縛られずに朝早くから登れるし、もう少し登り応えがあるのだろう。しかし、こちら側も、美しい森林と景色の良い整備された尾根道が快適な素晴らしいコースであった。特に美しい樹氷が見られたのはラッキーである。麓のバラギ高原も美しい。
ただ、時季のせいか樹叢のせいか分からないが、紅葉は殆ど見られなかった。
今回の放浪の旅は、ドライブとキャンプと登山が同時に楽しめた秋晴れの四阿山であった。
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