神奈川県一周
第12日目(2008年1月2日) その1 小島新田駅大師橋

   

 ずっと海岸線をたどってきた「2007年神奈川県一周の旅」も、多摩川に近い小島新田駅までたどり着いた。

 下の航空写真を見ていただくとわかるとおり、川崎臨海部は埋め立てで出来た工業地帯で、海岸沿いを歩くことが難しい。 そこで、内陸部から埋め立て地の島に個別にアプローチすることになる。今日は、海を渡って、写真の一番下にある川崎港・東扇島まで行ってみようと思う。
 人一人住んでいない、日本経済を引っ張ってきた大企業の支配する島に、はたして単独徒歩で潜入できるのだろうか。かすかな不安が胸をよぎる。

     
                                 google map より転載

 

 2008年早々、初詣客で混み合う京浜急行大師線に乗り、終点の小島新田で降りて、川崎の貨物ターミナルを跨線橋で越える。突き当たりの大きな通りには、巨大な工場が建ち並んでおり、右折して、横浜方面へ戻る。ここまで陸地に食い込んでいる運河を過ぎると、やがて、あっけないほど無防備な写真4の踏切を渡る。川崎臨海鉄道である。車と衝突する事はないのだろうか。左側は、写真5のとおり工業地帯へのびている。

 3 池上運河                   4 夜光付近の川崎臨海鉄道千鳥線踏切 
   

 このあたりは「夜光」という地名らしい。古い由来があるようだが、今では夜も光が絶えない、工業地帯を象徴するような地名である。日本経済の光と影を集約したようなこの場所であるが、現在は、公害もそれほどひどくなく、息が苦しくなるわけでもなければ、臭いがするわけでもない。踏切の先の交差点を左折して、橋を渡り、いよいよ千鳥町という島に入っていく。

 5 川崎臨海鉄道千鳥線              6 千鳥橋から東方向を望む
   

 橋から見る景色は、荒涼とした風景で、無機質な建物と煙突が並ぶ、SF近未来映画に出てきそうな感じである。夜の方がもっとインパクトが強いかもしれない。というより、夜景だと、むしろ美しく感じてしまうほどだ。橋からは、臨海消防署が見えるが、ここからでは、消防車は見あたらないようだ。代わりにあるのは、写真8のような消防船?である。石油プラントが爆発炎上して、夜空を真っ赤に染める中、この船が懸命消火にあたる....という映画のような不謹慎な光景を思い浮かべるのは、私だけではないはずである。

 7 千鳥橋から西方向を望む            8 臨港消防署千鳥町出張所
   

 写真9には、灯台を象った川崎港のシンボルが立っているが、横浜港と比べて何とも地味で素っ気ない。というより、ここが国際貿易港だとはイメージできない荒涼とした風景である。とはいっても、写真10のように、港としての機能は備えているようだ。

 9 川崎港のシンボルマーク            10 川崎港の諸施設案内
   

 工場地帯を抜けると、公園がある。木々の中につづく道を行く。傍らには、地底に吸い込まれようとしている、海底トンネルの車道が口を開けている。なんと、このトンネルは歩行者も通れるらしいのだ。海底を歩く気分はどんなものか、期待に胸がふくらむ。

 11 ちどり公園                 12 川崎港海底トンネル入口
   

 トンネルの歩行者用の入口は、いかにも寂れた、怪しい雰囲気である。ここには、後ほど来るとして、とりあえず公園の南端まで行ってみる。公園の広場に人はいないが、代わりにたくさんの猫がいた。キャットフードがたくさんあり、飢える心配がないらしく、のんびりとひなたぼっこしている。人家がないので、苦情にもならず、まさに猫のパラダイスである。

 13 海底トンネル歩行者通路入口         14 ちどり公園のベンチ(猫の楽園)
   

 15 ちどり公園芝生広場             16 川崎港埠頭
   

 南端は、川崎港の埠頭である。とは言ってもこのあたりの岸壁は、みんな川崎港であり、区切りがあるわけでもなく、なんとなく漠然としている。埠頭にはなぜかたくさんの車が並んでいるが、車種はバラバラで、ガラスに年式、日付やローマ字で船の名前が書いてある。これは、外国に輸出される中古車らしい。まだまだ走れる日本の中古車は、外国では、高級車だろう。その向こうには、鉄道の気動車が並んでいる。これも中古だ。タイあたりの鉄路を走るのだろうか。

 17 埠頭の中古車置き場             18 埠頭の列車置き場
   



 いよいよ。海底トンネルに入る。ここでは、臨場感あふれる動画を用意したので、皆さんも是非、下をクリックして一緒に体験していただきたい。

     動画1  動画2  動画3  動画4  動画5

 自動ドアを通って階段を下りる。トンネルには誰もいない。海底を歩くのは珍しい体験だが、大地震が来ればこの狭いトンネルで水死するのかと思うと、逃げ場のない長い閉鎖された空間にむしろ恐怖感を覚える。ところどころ、水がしみ出しているのが不気味だ。。
 歩いていると、突然女性の声が響く。これではホラー映画である。少なくとも、こんなところを一人で通る女性はいないと断言しよう。こんな歩道が日本にあったとは、驚きである。安全は保証しないが、スリルが欲しい人は一人で通ってみるのも良いだろう。
 途中には、カメラとドアがあり、ドアの向こうは車道らしい。 

 19 海底トンネル歩行者通路入口ドア        20 海底トンネル出口
   

 10数分間の海底散歩を終えて地上に出ると、日の光が眩しい。東扇島である。

 21 東扇島から対岸の千鳥町を望む         22 出口付近の公園
   

 ここは、かつて、良い漁場であったらしく、碑が建っている。正月だということもあって、人のいない広大な埋め立て地は寂寥感が漂っている。

 23 漁場の碑                   24 東扇島の倉庫群
   

 誰もいない工業地帯をとぼとぼ歩くと、やがて、川崎マリエンという公共施設に着く。写真26のとおり、異様な建物だ。展望台もあるらしいが閉まっていた。地上からは海は見えない。

 25 東扇島オイルターミナル           26 川崎マリエン
   



 ここから、あのトンネルを抜けて荒涼とした工業地帯をひたすら歩いて戻るのだけの気力は無い。今度は、海底トンネルをバスに乗って通ることにした。マリエンの前からバスに乗って海底トンネルを走る。 ここでも、貴重な動画を見ていただきたい。   動画6

 塩浜でバスを乗り換えて、今度は多摩川右岸の先端、浮島を目指す。もちろん、このサイトのコンセプトは、徒歩なので、帰りは自分の足で歩くつもりである。徒歩で、一筆書きが出来れば良しとしよう。

 27 塩浜交差点                 28 浮島公園入口
   

 浮島公園に到着する。ここは、住宅地からは遠く離れた埋め立て地の先端の公園である。浮島といえば、まず思い浮かぶのは浮島ジャンクション、東京湾アクアラインの神奈川県側の玄関である。写真30のガラスのピラミッドは浮島換気所である。この浮島公園には、もう一つ、ある目的をもって望遠レンズや双眼鏡を持って人が集まっていた。対岸は羽田空港であり、飛行機の離着陸が間近に見られるのである。そういう意味では、マニアの間で有名な場所らしい。ちゃんと動画も撮っておいたのでご覧いただこう。動画7

 29 浮島公園から対岸の羽田を望む        30 浮島公園から浮島ジャンクション方面
   

 そして、ここは一般人が入ることのできる事実上の神奈川県の東端である。2008年1月2日 12:32に到達した。

 31 羽田空港に着陸する飛行機          32 首都高速川崎線
   

 ここからは、また徒歩で、工業地帯を川崎駅方面に向かって西に向かう。ここにも、臨海鉄道の線路が続いているが、列車が通るのを、まだ一度も見ていない。

 33 浮島町の化学?コンビナート         34 神奈川臨海鉄道と首都高
   

 35 臨海鉄道浮島町駅              36 ロケットの噴射口?
   

 臨海鉄道の駅は、標識がなければ駅だとは判らないようなところだ。写真36のような、いかにもという、工場の建物がある。ヒーローもののドラマのバックにはちょうど良い風景だ。

 37 臨海鉄道末広町駅              38 東芝浜川崎工場
   

 39 花王川崎工場                40 浮島橋
   



 浮島橋で多摩運河を渡り本土?に入る。本当は多摩川沿いを歩きたいのだが、工場の敷地になっており、立ち入ることは出来ない。浮島公園まで、ジョギングやサイクリングをするための、人と自転車が通れる道を造ったら喜ばれるのではないだろうか。
 写真42は、非常に迫力のある工場だったが、写真にすると全くインパクトが無くなってしまった。間近で見ると圧倒される建物だ。

 41 浮島橋から西を望む             42 迫力のある工場
   

 徒歩の一筆書きが途切れるので、小島新田駅による。ここからは、多摩川に向かって、北方向に歩く。

 43 ヨドバシカメラ倉庫             44 小島新田駅
   

 写真45、46地下には、川崎貨物駅からの貨物路線が東京方面に通っている。将来的には、この路線を旅客用にして湾岸方面と結ぶ計画があるようだ。

 45 東海道貨物支線(地下線)の地上部      46 殿町第3公園
   

 やがて、多摩川に着いた。浮島公園以来の再会である。芦原が広がる広々とした風景が望める。その先には、美しい吊り橋が見える。最近架け替えられた、大師橋である。

 47 多摩川右岸から対岸の東京都を望む      48 大師橋を望む
   

 49 大師橋
  

 大師橋に到着した。このまま、神奈川県一周を続けるにはそのまま多摩川を遡上していけばよい。
 しかし、橋を目の前にした私は、ここで突然に「橋を渡って対岸に行きたい」という衝動を覚えた。向こう側は、日本の首都、大東京である。旅人なら、100人中99人は同じ思いを抱くと思う。(本当かよ?)

 そこで、ここに、私は別の大プロジェクトを立ち上げることを決断した。
 それは、徒歩による「本州一周」である。このまま、海岸線をたどっていけば、日本は無理かもしれないが、少なくとも本州は一周できるはずである。つまり、平成の伊能忠敬である。
 彼が、地図を作るために測量を始めたのは、1800年、56歳の時である。幸い、現在の私は彼よりも若く、当時より平均寿命は長い。伊能忠敬は、測量をしながら歩いたが、私は、デジカメで写真を撮りながら歩けばよい。現代の日本には、当時はなかった正確な地図も、整備された道も、優れた防寒着も、自動販売機もある。伊能忠敬よりも時間は無いというハンディも、これらの文明の利器で補うことが出来る。
 ここに、人生の目標を見つけたのだ。ついに、長い老後になすべきことを見つけたのである。一周して、また、湘南海岸に戻るのは何年後になるのだろうか。私の予想では、あと15年後である。

 この日は、このまま神奈川県一周を続けるが、記念すべき本州一周プロジェクトとの分岐点であるので、一旦、ここでページを区切ろうと思う。言うなれば、プロジェクトジャンクションである。

  

 神奈川県一周プロジェクトの続きへ ◆第12日目その2(2008年1月2日)大師橋〜丸子橋

                  本州一周プロジェクト「海岸線をどこまでも」へ

                  多摩川探訪へ戻る

               PREV ◆第11日目(2007年12月31日)日本大通駅〜小島新田駅

        
ご意見・感想はこちらまで