神奈川県一周   酒匂川から東へ海岸沿いに歩き、ゴールである平塚海岸へ 

◆第36日目(2011年12月29日)  酒匂川河口湘南ひらつかビーチパーク

 神奈川県一周の旅もいよいよ佳境に入ってきた。

 現在地は、足柄平野を作った酒匂川の河口である。ここから相模湾は弧を描いて江ノ島までのビーチを形成している。陸側は、国府津までの足柄平野、国府津から花水川までの大磯丘陵、花水川からは相模平野が広がっている。
 この美しい海岸も、川にダムや堰が建設され、山の侵食物がせき止められ、さらに洪水がなくなり流量が減少したことにより、海岸への土砂の供給が少なくなってしまったため、砂浜の消失の危機に瀕している。追いうちをかけるように、漁港や突堤の建設により、砂の堆積が不均衡になり、砂の移動も妨げられてしまった。
 この影響を直接受けているのが、海岸沿いの西湘バイパスである。2007年9月の台風9号により、崩落など壊滅的な打撃を受けてしまったのである。その結果がどうなっているのか、そもそも果たして海岸の踏破が可能なのだろうか。

  

 国府津駅から小田原駅行のバスに乗り、酒匂中学で降りる。マクドナルドがあったので、ついふらふらと入ってしまった。コーヒーを飲む。これも、平塚海岸まで直線距離で20kmを切り、いよいよゴールが射程距離に入ったという心の余裕だろうか。それにしても、マックのコーヒーも旨くなったものである。昔が不味すぎたというべきかもしれないが。
 西湘バイパス入口から右にそれて海岸に出る。

  1 マクドナルド 1号線酒匂店             2 海岸入口
   



 3 酒匂川河口から箱根を望む

 午前中の酒匂川の河口からは、順光の箱根がよく見える。

 4 酒匂川河口から東を望む


 河口から東をみると、テトラポッドが海岸にせり出しているのが見えた。かなり侵食が進んでいるようだが、果たして海岸づたいに歩けるだろうか。

  5 酒匂川東のテトラポッド              6 テトラポッドの内側を歩く
   

 河口から500mほど東に行った写真5の地点で、砂浜が消失してしまった。しかし、テトラポッドの内側は、荒れてはいるもののなんとか歩けそうである。

  7 朝の相模湾                    8 ビデオの不法投棄
   

 ビデオテープが捨ててあった。こんな時、大抵はわいせつビデオであるのが常であるが、なぜか、まじめな英会話のビデオでしかもちゃんと袋に入っているのがおかしい。



  9 流れこむ川                    10 テトラポッドに消える川
   

 流れ込んでいる小川は、テトラポッドの中に消えていく。しばらく歩くと、テトラポッドがなくなり、美しい砂浜が復活した。

  11 テトラポッド地帯を抜ける            12 国府津へ
   

  13 西を振り返る
   国府津のPAが見えてきた。 

 14 西湘パーキングエリアを望む


 パーキングエリアのこちら側には、鉄の橋が残っている。これはおそらく、海岸の復旧作業時に、テトラポッドやコンクリート工事の資材搬入路として使われたものがそのまま放置されているのではないだろうか。



  15 西湘パーキングエリア              16 パーキングエリア手前から内陸部へ
   

 パーキングエリアの先は森戸川河口であるが、残念ながら護岸はコンクリートの絶壁である。西湘バイパスを潜って、国道1号線に出て、親木橋を渡る。

  17 親木橋から国府津インターチェンジを望む     18 親木橋から森戸川下流を望む
   

 森戸川を渡り再び海岸にアプローチを試みる。国道事務所の先に、ドア付きの通路があった。

  19 国交省横浜国道事務所小田原出張所        20 国府津海岸へ
   

  21 国府津インターチェンジ付近           22 西を振り返る
   



 国府津を過ぎると、小田原市前川地区になる。

  23 前川海岸                    24 小河川
   



  25 漁船置き場                   26 橘インターチェンジを望む
   

  27 塔台川                     28 塔台川河口 その1
   

 橘インターチェンジの真ん中を横切っているのが、塔台川という小河川である。その川は、写真28で砂浜にせき止められているが、海に流れ出していない。不思議に思ってよく見ると、写真29のように、砂から染み出した水が海に流れ込んでいた。不思議な河口であるが、歩いて渡るのには都合が良い。

  29 塔台川河口 その2               30 西湘バイパス橘インターチェンジ
   



 橘インターチェンジを過ぎると二宮町に入る。トランペットの練習をしている学生がいた。高校生だろうか、写真ではわからないが、女の子だった。

  31 トランペットの練習               32 押切川
   

 押切川の河口に着いた。この川はかなり水量がある大きな川である。幅は約1.5m。濡れるのを覚悟で飛び越えることにした。助走をつけてジャンプ、無事対岸に着地したが、写真34のように、靴とズボンは濡れてしまった。

  33 押切川河口                   34 渡渉結果
   

  35 二宮町山西付近の海岸住宅            36 梅沢海岸を望む
   

 梅沢海岸が見えてきた。昔、地引網をしたことがある見覚えのある海岸だ。

 37 梅沢海岸



  38 梅沢海岸の漁船                 39 漁具倉庫
   

 地引網の漁船や古びた漁具倉庫がある。

  40 美浜橋                     41 梅沢海岸から西湘バイパスの北側へ
   

 梅沢海岸の先にはテトラポッドがあったので、西湘バイパスの北側の道を歩いてみることにした。しかし、途中で海岸に出る通路があったので、行ってみると写真43のとおり、海岸に出る。

  42 西湘バイパス北側の道 その1          43 袖ヶ浦海岸
   

 海岸を歩く時は、潮位を調べておくことが重要である。テトラポッドがある場合でも、干潮ならば歩ける場合があるからだ。今日は、満潮が朝8時頃、干潮が13時30分頃である。現在時刻は11時34分。しかし、前方にはテトラポッドが積み上がっており、まだクレーンがあるので、干潮でもこの先は踏破できないということだろう。再び西湘バイパスの北側を歩く。

  44 再び西湘バイパスの北側へ            45 西湘バイパス北側の道 その2
   

  46 海岸への通路                  47 立入禁止柵
   

 写真46で、海岸通路があったが、残念ながら写真47のとおり立入禁止であった。



  48 西湘バイパス北側の道 その3          49 西湘バイパス北側の道 その4
   

 このあたりは、袖ヶ浦海岸といい、二宮海水浴場があった美しい砂浜であった。しかし、現在では写真51のように砂は全くなくなってしまった。これは主に2007年9月の台風9号によるもので、この時は西湘バイパスが通行止めになり、その後も長期間にわたって通行制限を余儀なくされた。しかし、この被害の遠因は、波浪の緩衝材となっていた砂浜の衰退によるものと言われている。このままでは酒匂川から大磯にかけての広い範囲で砂浜が消失して、写真51のようにテトラポッドとコンクリート護岸の海岸になってしまう日が来るかもしれない。

  50 西湘バイパス北側の道 その5          51 袖ヶ浦海岸 その1
   

 二宮駅方面に戻って浜端橋という陸橋をわたる。

  52 西湘バイパス北側の道終点            53 浜端橋から北側を望む
   



  54 浜端橋から海岸を望む              55 二宮インターチェンジ その1
   

 二宮インターチェンジを越える。海岸線は立入禁止のため、内陸部を歩く。

  56 二宮インターチェンジ その2          57 二宮中学校北側
   

 中学の先に海岸に行く道があったので降りてみる。フェンスはあるが、ドアが付いており、鍵もかかっていないので入ってみると、通路は写真59のように荒廃している。

  58 海岸への通路                  59 通路内部
   

 海岸に出てみると、写真60のとおり、真新しい西湘バイパスのコンクリート擁壁と瓦礫で埋め尽くされた廃墟のような海岸が続いていた。とても歩ける状態ではない。それにしても、あの白砂青松の袖ヶ浦海岸がこのようになってしまったことに深く落胆する。今後、人類が滅びない限り、美しい砂浜が復活することはないだろう。

  60 袖ヶ浦海岸 その2               61 大磯ゴルフコース内の邸宅
   

 気を取り直して、もう一本東の道から再び海岸にアプローチする。大磯ゴルフコースの西側の道で、地図によるとここが二宮町と大磯町の境界になっているようだ。海に出る手前のゴルフ場の一角に大きな邸宅があった。門標は、過去に西武・国土グループの総帥で総資産額で世界一となったこともあるあの人物と同じだったが、単なる偶然だろうか。

  62 大磯ゴルフコース西側から海岸へ         63 二宮・大磯境界付近の海岸
   

 海岸に出ると、コンクリート擁壁とテトラポッドはあるものの、なんとか歩けそうなので、東に向かう。



  64 石袋の防災工事
   復旧工事の跡がまだ生々しい。 

 65 大磯プリンスホテル付近の海岸


 プリンスホテルの前の砂浜はまだ残っていた。昔、筆者が子供の頃はロングビーチから通路で海岸に出られたような気がするが勘違いだろうか。

  66 大磯プリンスホテル               67 大磯プリンスホテルから東へ
   

 このあたりの海岸の砂利は美しい。



  68 謎の石積み                   69 葛川
   

 葛川の河口に着いた。ここはかなり川幅が広く、一気に飛び越えるのは無理である。浅瀬の真ん中を着地ポイントにして、ホップステップジャンプで超えたが、かなり濡れてしまった。

  70 葛川河口                    71 血洗川
   

 その次にすぐ小さな川が現れるが、これは簡単に越えられる。後で調べてみると、この川は血洗川というそうだ。

  72 血洗川河口                   73 西小磯海岸の地層 その1
   

 地層がむき出しになっている海岸に出る。西小磯層という露頭である。ここには、化石があるのだ。写真74〜76の白く見えるのが、貝の化石である。約820〜600万年前の地層らしい。人類が生まれる前である。当時もここが海岸か浅い海だったのだろうか。

  74 西小磯海岸の地層 その2            75 西小磯海岸の地層 その3
   

 残念なことに、写真76のように化石を盗るため、明らかに地層を破壊している跡があった。法的にはマズイのではないだろうか。

  76 西小磯海岸の地層 その4            77 小淘綾ノ浜
   

 このあたりの海岸を小淘綾ノ浜(こゆるぎのはま)という。昔から風光明媚なところであるが、役場の前にテトラポッドが並ぶ様になってしまったのは残念である。
 ところで、熱帯魚や金魚を飼う時によく使われる荒くて丸い砂を大磯砂というが、その産地がここである。とはいっても現在はもちろん採取が禁止されており、代替品であるが、名前だけは残っているようだ。

  78 大磯町西小磯付近                79 大磯町役場
   



 大磯町役場の前で小さな川が流れ込んでいる。海に出る前に砂浜に沁み込んでしまうような細流であるが、これを遡ってみよう。

  80 鴫立沢河口                   81 鴫立沢
   

 水は汚れているが、一応、沢になっている。鴫立沢である。国道1号線にでると、湘南発祥の地があった。

  82 湘南発祥の地の碑                83 湘南発祥の地解説板
  

 その横にあるのが、鴫立庵である。

  84 鴫立庵                    85 鴫立庵解説板
  

 岩場が見えた。照ヶ崎である。ここは、子供の頃によく磯遊びに来た場所であるが、アオバトが海水を飲みに来る場所としても有名である。その向こうは残念ながら大磯漁港になっており、歌に詠まれた昔の地形は、想像するしかない。

  86 照ヶ崎を望む                
  87 照ヶ崎
   



  88 大磯町営プール              
   89 松本順謝恩碑
   

 漁港の横には松本順の碑がある。初代軍医総監で、大磯を有名にした人物であるらしい。

  90 海水浴場発祥地解説板              91 大磯港砂利取扱埠頭
  

 大磯港内にはたくさんの釣り人がいた。獲物を見せてもらったが、アジではなくキスのようだ。結構たくさん釣れている。

  92 大磯港の釣果                  93 大磯港内の釣り場
   

  94 大磯漁港                    95 魚市場のイセエビ
   

  96 魚市場と漁業協同組合              97 八大龍宮
   



 大磯海水浴場に到着。ここは、防波堤の影響で砂の堆積が進んでいる。なぜか、泳いでいるおじさんがいた。寒中水泳というやつである。

  98 大磯海水浴場                  99 季節はずれの海水浴客
   

  100 花水川河口へ                 101 パラグライダー
   

 花水川河口が見えてきた。いよいよ平塚市に入ったようだ。



  102 手持ち無沙汰のサーファー           103 花水川河口
   

 14時20分、花水川河口に到着した。ゴールまではあと数キロである。もう大丈夫だろう。途中、心臓麻痺で倒れたり、津波が来る確率もゼロではないが、ここまで来れば、県境一周に成功する確率は限りなく100%に近い。時間的にも余裕があるので、海岸沿いにあるガストに入って休憩することにした。

  104 花水川橋                   105 ガスト平塚海岸店
   

 窓際の席に座る。休憩と言うよりも、前祝いである。もう完全に気が緩んでいる。ビールを頼む時に、ウエイトレスさんが「お車ではありませんか。」と聞くので、胸を張って「歩きです!」と答える。「歩きとは言っても、近所からじゃないよ。県境をはるばる一周してきたんだぜ!!」と言いたかったが、おかしなことを言って神奈川県警特別テロ対策班や誇大妄想取締係の刑事さんを呼ばれても面倒なので、やめておく。ただでさえ、服装は汚いし、顔がニヤニヤしているだろうし。
 1時間ほどガストでダラダラと過ごした後、再出発して国道134号線の花水川橋を渡る。

  106 前祝い                    107 花水川橋から高麗山を望む
   



 ついに花水川を渡った。陽が傾いて、周囲がオレンジ色に染まっている。

  108 花水川河口から東へ              109 花水川河口夕景
   

 110 平塚海岸夕景


  111 東大平塚沖総合実験タワー           112 神奈川県一周記念硬貨
   

 砂浜で、赤く光る穴あき硬貨を拾った。砂で磨かれた5円玉である。神奈川県一周踏破記念硬貨として記念にとっておくことにしよう。
 波打ち際に謎の円筒形のコンクリート構造物がある。なんだろう。太平洋戦争で沖縄が占領され、陸軍が本土決戦を叫んでいた頃、米軍は東京を攻撃するために、ここ湘南海岸への上陸作戦を想定していたらしい。コロネット作戦という、要するにノルマンディー上陸作戦の日本版である。おそらくこの円筒コンクリートは、米軍上陸を想定して、本土防衛のために日本軍が作ったものではないかと想像するがどうなんだろう。誰かご存じの方がいれば教えていただきたい。
 原爆の投下により、結局湘南海岸上陸作戦は行われなかったわけであるが、代わりに犠牲になった広島、長崎の方たちに、神奈川県民は感謝しなければいけないのかもしれない。
 
後日、ここを見た地元の方から情報をいただきました。海水を利用したプールの取水口跡だとのこと。ありがとうございました。

  113 謎の円筒                   114 湘南ひらつかビーチパークを望む
   

 ゴールとなる、湘南ひらつかビーチパークの建物が見えてきた。夕陽で赤く輝いている。



 2011年12月29日16時5分、ついに神奈川県一周のゴールとなる、湘南ひらつかビーチパークに到着した。2006年3月25日にここから東に向かってスタートして以来、延36日間をかけて漸く辿り着いた海岸である。

  115 ビーチパーク内の測量 その1         116 ビーチパーク内の測量 その2
   

 なぜか、ここでは測量をしていた。海に入ってポールを持っている人が大変そうだ。潮に流されてしまう、と叫んでいる。ここは、海水浴場であるが、テトラポッドにより砂が堆積しているので、それを計測しているのだろうか。

  117 夕日に染まるビーチセンター          118 神奈川県一周達成記念写真
   

 記念写真を撮ってからも、ゴールの余韻に浸りたくてしばらくボードウォークに座って缶コーヒーを飲みながら海を見ていた。ここまで、事故にも遭わず、遭難もせず、ケガもせず、通勤中の交通事故による骨折も乗り越えて、よく歩き続けることができたものである。また、このサイトの中で初めて完結した記念すべき企画でもある。
 そうこうしているうちに日が暮れてきたので、夕日の写真を撮る。この神奈川県一周の最後の仕事である。

 119 夕暮れのビーチパーク

 あの山の向こうにある県境を駆け巡ったことは、そんなに昔のことではないが、もうぼんやりとした夢のような日々として記憶されている。

 120 落日


 121 日没後の富士〜箱根のシルエット


 最後を飾るのにふさわしく、冬の夕日は、妖しく、物悲しく、旅の終わりを惜しむように余韻を残しながら箱根の山に沈んでいった。



  122 夕暮れのサーフショップ            123 平塚駅
   

  GPSによる今日の歩行経路 (時間:7h11m 距離:24.9km)
  
  (本日の歩数:39029歩)

 神奈川県一周のまとめについては、別稿で書きたいと思っているので、今日はここで筆を置くことにしよう。

 最後まで、この旅の記録を読んでいただいた皆さんに感謝します。
ありがとうございました。

                    

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