石 神 井 川 (しゃくじいがわ) 探 訪            

 武蔵野台地から湧き出て東へ、練馬区、板橋区を横断し、北区で隅田川と合流する典型的都市河川
第1日目(2013年1月12日)
    隅田川合流地点(東京都北区豊島)〜 豊島園駅
(東京都練馬区練馬)

 石神井と書いて「しゃくじい」と読むが、東京以外の人には読みにくい地名かもしれない。石神井川は武蔵野台地からの湧水を集めて、東に向かって都内を流れているが、実は成り立ちがそっくりな川がある。すでに紹介した、神田川善福寺川だ。井の頭池、善福寺池にあたるのが、三宝寺池で、湧水による池を源流としていることも共通している。
 都市部にあるので、コンクリート護岸が続くことは覚悟しなければならないが、読者のリクエストもあり、知名度や流域人口の多さからみても外せない川である。


 京浜東北線の王子駅からアプローチする。石神井川は隅田川の支流なので、まず合流地点を目指すことにしよう。駅から歩き始めてすぐに、店頭にコロッケや唐揚げを並べている店があり、あまりにも美味しそうなので唐揚げを買ってしまった。300円だが、ボリュームがある。行儀が悪いが、歩きながら食べ、お腹いっぱいになった上に手は油でベトベトである。そんな行動も違和感がないほど下町というか、要するに庶民的な街だ。

  1 王子駅                    
  2 河川清掃用はしけ?
   



 清掃の船が見えたが、写真3の堀船清掃作業所に向かうのだろうか。「北区内から収集した不燃ごみを輸送船舶(はしけ)に積み替え、東京湾の中央防波堤内側埋立地内にある不燃ごみ処理センターに運搬する中継作業を行っています。」とのことなので、船は直接埋立地に行くのかもしれない。
 作業所の横、写真4が石神井川の終点、隅田川との合流地点である。道がないので、これ以上近づけない。

  3 堀船清掃作業所                   4  隅田川合流地点
   

 ここから引き返して、上流に向かって歩こう。道が入り組んでいて、雰囲気が古くからの下町の工場地帯といった感じだ。錆びた橋がよく似合う。

  5 豊石橋から上流を望む               6 新柳橋

   

  7 あすか緑地から見る石神井川            8 あすか緑地から上流を望む

   

 船が入れるのはこの緑地までだろう。しかし、緑地といってもタイルばかりで全然緑がない。かといって、親水施設というには水が汚い。

  9 庚申塔                     10 溝田橋から上流を望む
   

 この溝田橋は、大工事の最中であった。なんと、石神井川を掘り直すらしい。土地がないので、工事が面倒になり、お金がかかるようだ。

 11 溝田橋関係工事行程図


 12 完成イメージ


 13 工事航空写真




  14 首都高中央環状線                15 王子駅西の右岸から下流を望む
   

 水質改善実験をやっていたが、下水道が普及しているのになぜ水がこんなに汚れるのだろう。湧水が枯渇して流量が減ったためだろうか。

 16 水質改善試験説明板



  17 水質改善実験装置                
18 東北新幹線と東北本線
   

 やがて、石神井川はトンネルで王子駅の下に潜ってしまった。これは自然の流路ではありえないと思い、横を見ると水の枯れた水路があった。これが、旧流路だろう。

  19 地下トンネル出口と右からの支流         
20 王子駅北側に残る旧流路?
   

 21 現在地案内板


 旧流路らしき水路は王子駅を回りこんで路面電車とともに駅の反対側に続いていた。王子駅前のガードを過ぎると右手の土地が低くなっている。

  22 旧流路と都電荒川線王子駅前駅          23 音無親水公園入口
   

 階段を下りていくと、音無親水公園という文字が彫られている。その水路は王子駅の真下に潜っていた。

  24 音無親水公園 その1              25 王子駅親水公園口
 
  

 ここが石神井川の旧流路であることは地形から間違いなさそうである。何と、王子駅は石神井川の上に無理やり作られたのだ。

  26 音無親水公園 その2              27 音無親水公園 その3
   

  28 音無親水公園 その4              29 音無親水公園 その5
   

 それにしても、よくここまでふんだんに石を使ったものだ。湯水のようにお金をつぎ込んで作られたのがよく分かる。この黒ずんだ親水公園にはほとんど水が流れていないので、なんだか、SF的な、ハリウッド映画の悪の帝国のアジトのような独特の雰囲気である。

 30 音無親水公園と音無橋


 
31 石神井川自然観察路解説地図


  32 音無橋                     33 親水公園への導水路
   

 親水公園の水は写真33から供給されている。石神井川からの分水のようだ。

 34 音無親水公園解説板


 解説板でこの親水公園が作られたのが昭和六十三年という記載を見て納得した。バブルの絶頂期である。お金がかけられるはずだ。昔は豊富な水が流れる、さぞ美しい渓谷だったのだろう。石神井川のトンネルの上にある飛鳥山とともに江戸の名所だったのだ。
 さて、先ほど悪のアジトだと書いたが、悪夢が現実になった。中年男性がカメラで何かを盛んに撮影しており、その後ろに女の人が見張りで立っている。その被写体を見て、青ざめた。大きな鳥の死骸か人の赤ちゃんの死体のようだ。

  
35 怪しい撮影                   36 撮影していたもの
   

 しかし、何かがおかしい。遠目では、顔は人間だが、足がなく代わりにタツノオトシゴのような骨ばった尻尾がついているのだ。殺人事件?死体遺棄?警察に通報すべきかまよって、さらによく見ようと近づく。そこで、女性が気がついて「人形です。撮影なんです。」と言った。しかし、いい年をした大人が、なんであんな怪奇死体人形を撮影するのだろう。世の中には、いろいろなマニア向け雑誌があるのだろうか。気味の悪い後味を残して反対側に渡る。

  37 飛鳥山ずい道入口                38 音無橋から上流を望む
   

 王子駅と飛鳥山の地下を貫通する石神井川のトンネルは、その銘版から飛鳥山ずい道という名称であることがわかった。武蔵野台地を流れた石神井川は、飛鳥山にぶつかって左に折れて深い音無峡谷を刻んでいた。そのため水害が頻発して飛鳥山ずい道が掘られたわけである。しかし、室町時代には、何と石神井川は、もっと南の流路をとり、不忍池から直接東京湾に流れ込んでいたという。にわかには信じがたい話だが、下の地図を見ると、確かに飛鳥山にぶつかった石神井川が南に向かって不忍池方面に流れた跡がはっきりと残っている。


      
この図は、国土地理院ホームページ掲載のデジタル標高地形図画像データ(東京都区部)を使用した。

  39 滝野川2丁目付近の河畔遊歩道          40 自然観察路案内
   



 音無橋より上流、右岸には遊歩道が整備されていた。

  41 遊歩道と石神井川                42 松橋から上流を望む
   

 音無さくら緑地の標識が。形から見ても明らかに蛇行していた旧河川跡地である。

  43 音無さくら緑地案内板              44 音無さくら緑地 その1
 
 

  45 音無さくら緑地 その2             46 音無さくら緑地 その3

   

  47 音無さくら緑地 その4             48 音無さくら緑地自然露頭

   

  49 音無さくら緑地の自然露頭解説板
   

 23区内では、ただの崖の路頭やシダでさえも貴重なものになってしまった。

  50 アスカイノデ                  51 音無さくら緑地 その5
 
  



  52 紅葉橋から上流を望む              53 音無もみじ緑地
   

 もみじ緑地も石神井川の蛇行の跡だ。

 54 松橋弁財天洞窟跡解説板


 岩屋や滝があったとは信じがたい変わり様である。江戸時代の人がタイムスリップしてきても、絶対に同じ場所だとは信じないだろう。今、ここで子供に水浴びをさせたら、その親は精神科への受診を勧められるだろう。

 55 王子七滝解説板


 珍しく、河床の岩が残っていた。両側にある河畔緑道が快適だ。

  56 河床の岩盤                   57 滝野川橋・観音橋間の緑道
   

  58 観音橋から上流を望む              59 遊歩道と谷津大観音
   

 中途半端に大きな観音様の横を通りすぎる。

  60 谷津橋から上流を望む              61 音無くぬぎ緑地
   

 音無くぬぎ緑地も蛇行の跡だろう。

  62 埼京線                     63 金沢橋から上流を望む
   

 埼京線を過ぎると北区から板橋区に入る。多分、板橋区を歩くのは初めてかもしれない。神奈川県民にとって、埼玉県に近い北側の23区は馴染みが薄い。新宿より北に来る理由はあまりないからである。東北、長野、新潟方面に行くときは単なる通過点に過ぎない。



  64 加賀公園
     

 加賀藩屋敷跡だ。住所も加賀である。

  65 加賀公園(前田家下屋敷跡)解説
  

 66 石神井川解説板


 石神井川の名前の由来や水源が記されていた。

  67 加賀橋から上流を望む               68 加賀1丁目付近の緑地から上流を望む

   

  69 帝京大学前                   70 番場橋から上流を望む
   



 木製(に見せかけた)橋が架かっている。板橋である。なるほど板で作られているようにみえる。いままで板橋区の語源など考えたこともなかったが、この銘板を見てすぐに解った。

  71 板橋                      72 板橋銘版
   

 解説板の記載も予想どおりである。この生活道路のような道が旧中仙道である。それにしてもここ板橋が宿場町だったとは、恥ずかしながら初めて知った。日本橋から10km程度だから、当時の健脚な人ならもう少し先まで行っただろう。でも、川の畔の茶店で休憩したに違いない。

  73 板橋解説板
  

  74 板橋から                    75 日本橋からの距離標
   


 板橋の下流右岸側に、旧石神井川流路があった。石神井川緑道である。つまり、江戸時代は実はこちらが本当の石神井川と板橋だったことになる。

  76 石神井川緑道 その1              77 石神井川緑道 その2
   

  78 石神井川緑道から板橋を望む           79 昔の板橋部分
   

  80 板橋から中山道下り方面を望む          81 河畔の生活道路
   

  82 新板橋                     83 新板橋から上流を望む
   

 こちらは新中山道、国道17号線だ。江戸時代の中山道とは違い、高架を車が行き交う味気ない橋である。



 国道17号を過ぎるとすぐに旧河川を利用したつり堀公園があった。魚の持ち帰りは禁止であるが、お年寄りで結構賑わっている。

  84 つり堀公園 その1               85 つり堀公園 その2
   

  86 つり堀公園 その3               87 つり堀公園 その4
   

  88 堰の上橋から上流を望む             89 根村橋から上流を望む
   

  90 緑道                      91東武東上線
   

 東武東上線を過ぎる。

  92 上板橋一中付近                 93 下頭橋六蔵祀
   

 現代の川越街道とも言える東武東上線を過ぎたということは、昔の川越街道もあるわけだ。

  94 下頭橋解説板
    

  95 下頭橋                     96 上の根橋(環状7号線)
   



 環状7号線を横切る石神井川は、角度が浅い。

  97 上の根橋から上流を望む             98 桜橋から上流を望む
   

 99 茂呂遺跡解説板


 この解説板を読むと、当時の発見者である滝澤少年の興奮が手に取るように想像できる。その後の経歴をみても、この遺跡の発見が少年の一生を方向付けたのだろう。そして、旧石器時代の人たちにとっても、この石神井川は命の水だったに違いない。

  100 茂呂遺跡                   101 城北中央公園 その1
   

 広い場所に出た。城北中央公園だ。ここから、練馬区に入る。

  102 城北中央公園 その2             103 関進橋上流付近
   

  104 正久保橋から上流を望む            105 四の宮宿橋上流付近
   

  106 隅田川からの距離標
  隅田川から10kmを過ぎた。 

 107 自然観察道石神井川コース


  108 高稲荷神社                  109 大橋上流付近
   



 住宅地に囲まれて桜並木が続く、河畔の道は中之橋で終わる。石神井川沿いの道の行く手を阻むのはあの有名な豊島園である。

  110 謎の河床                   111 中之橋から下流を望む
   

  112 中之橋から上流を望む             113 豊島園駐車場横の橋
   

 写真113の橋が一般人が入れる最後の橋である。ここから石神井川は豊島園の中に入ってしまう。

  114 113の橋から下流を望む           115 113の橋から上流を望む
   

 豊島園には、西武線が乗り入れている。交通の便が良いので今日はここまでにしよう。

  116 豊島園                    117 豊島園駅
   

  118 池袋駅行き電車
       

 豊島園駅は都内にあるものの、終着駅と夕方の遊園地の悲哀が漂うような不思議な雰囲気だった。きらびやかな駅よりもこんな駅のほうがなんとなく安心するのは、私だけだろうか。

 GPSによる本日の歩行経路(時間:4h41m 距離:21.3km 累積標高:+757m -729m)


 東京23区の北部、埼玉県よりに住んでいる人にとってはおなじみの石神井川を訪れる機会がようやく出来た。しかし、神奈川県に住む私にとっては、ばしめて知ることばかりである。川は、深く掘り下げられ、コンクリートでまかれて直線化され、河畔道がよく整備されている典型的都市河川である。王子駅付近の旧河川ルートの探索や思いがけない峡谷跡の発見など、都会の川ならではの面白さもあった。音無渓谷や数々の滝をはじめとする江戸有数の行楽地として多くの人々で賑わった江戸時代が、石神井川の一番輝いた時代だったのかもしれない。史跡やわずかに残る自然河川時代の痕跡を探しながら歩いてみるのも楽しい。
 次回はさらに西に進んで、いよいよ石神井川の水源に迫ろう。

(本日の歩数:29357歩)                        

 
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 関連サイト 
隅田川 ◆第1日目 (2010年2月6日) 岩渕水門〜南千住駅
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