神奈川県一周 エピローグ    −ようするにまとめである−        

 2011年12月29日、神奈川県一周の旅を終えた。ここで、県境を歩き続けた記憶と記録をたどりながら振り返ってみよう。


 県境の地形


 県境は、昔の国境が元になっていることが多い。土木工事が未発達な昔は、自然の地形が村々の境界になっていたことから、現在の県境も、地形による境界が基本になっている。海岸線は当然として、それ以外の要素は、尾根(山)と川である。では、ここで実際に歩いてこの目で見た県境の地形を確認してみよう。
      

 地図の青い部分、湯河原海岸から三浦半島の東京湾側、横須賀市走水までは、原則として自然海岸である。岩礁と砂浜に大別されるが、真鶴半島から小田原市早川までは岩礁、早川から鎌倉市稲村ヶ崎までは、大磯町照ヶ崎や江ノ島を除いて砂浜である。三浦半島は、砂浜と岩礁が交互に現れるといった感じだ。しかし、かなりの漁港が無秩序に造られ、湯河原、逗子、横須賀の相模湾側、三浦市等では、残念ながら埋立地が造成されてしまっている。さらに、相模湾や三浦海岸では侵食による砂浜の消失とコンクリート護岸化が進行しており、残り少ない神奈川の自然海岸の将来も楽観視できない状況だ。
 一方で、首都圏に近く、江戸時代から観光地、リゾートとして発展してきており、湘南に代表される海岸文化が花開いている。実際に歩いてみても、雄大な自然と明るい太陽、そして、その華やかさから、我が国で最も注目される海岸であることは間違いない。多くの映画、ドラマのロケ地として、また、音楽の素材として使われていることがそれを物語っている。




      

 地図の赤い部分、東京湾の横須賀市馬堀海岸から多摩川河口までは、野島を除いて、完全に人工海岸になってしまっている。とくに横浜、川崎両市では、京浜工業地帯が形成され、市民が海と直接触れ合える場所は限られる。歩くルートも制限が多く、自然海岸とは別の緊張感がある。工業地帯や倉庫地帯を歩いていると、虚無感というか寂寥感というか、そういうものを感じて、別の意味で面白い。刑事ドラマで埋立地や港の倉庫が使われるあの感じである。
 ベタだが横浜や横須賀は港町としてエキゾチックであることは、言うまでもない。湘南海岸とは逆の、もう少し影のある都会の海のイメージである。海とふれあえる場所はリゾートや観光地になっている所も多い。また、みなとみらいに代表されるウォーターフロントの発展を感じることが出来るところでもある。



      

 地図の緑の部分、川が県境になっているところは、多摩川と境川である。一部、鶴見川等の小河川も県境となっているが、その距離は短い。多摩川は、川幅も広い堂々とした大河で、神奈川県と東京都の境として誰も異論はないだろう。境川は、小さな川であるが、昔は現在よりも水量も多く、相模国と武蔵国の境界として丁度良かったのだろう。



      

 地図の黄色の部分、南東に向かって流れる多摩川と境川の県境を結ぶのが、多摩丘陵の尾根である。ここは、県境が非常に複雑に入り組んでおり、たどるのに苦労した区間である。踏破に5日間も要したのは意外だった。基本的には、丘陵の尾根を結んでいるのだが、乱開発が進んだ結果、尾根道が破壊されている所も多く、余計にわかりにくくなっている。しかし、尾根や谷戸が残っているところもあり、昔の田舎の里山の暮しを想像しながらのんびり歩くと、なかなか良いところだ。



   

 地図の茶色の部分、西側の県境はほぼ山岳地帯になっている。ここはさらに、境川源流から相模川までの奥高尾、相模川から道志川までの道志、道志川から酒匂川までの西丹沢、酒匂川から金時山までの足柄、金時山から湯河原までの箱根の5つの山域に分けられる。奥高尾と箱根の一部は観光地のハイキングコースであり比較的人が多い。西丹沢は大室山を中心として非常に険しく山深いところであった。それぞれ特徴のある山域であったが、尾根を何処までも歩くのは体力的に厳しいことも事実である。しかし、その分素晴らしい景色と自然が楽しめた。月夜野から山伏峠までの区間の県境の山は、それなりの装備と経験が必要で、地図が読めない、あるいは登山の経験がまったくない人が単独で入るのは危険だと思われる。







 県境の東西南北地点

 県境の東西南北の端をみてみよう。とても同じ県境とは思えない程の違いがある。
         

最南端 城ヶ島      最東端 浮島 


最北端 生藤山東のピーク     最西端 三国峠 



 県境の最高最低地点


 県境の標高最高地点は、標高1588mの大室山である。では最低地点はどこだろうか。歩いた中で最も低いのは、川崎港海底トンネルで海面下である。

最高地点 大室山   最低地点 川崎港海底トンネル



 県境へのアプローチ

 ここでは、日帰りで踏破し、次回は同じ地点に行ってそこから再スタートする形式をとっているため、中継地点となるアプローチポイントがある。それを整理してみた。
               
スタート及びゴール 湘南ひらつかビーチパーク 東海道線平塚駅より徒歩15分
1 江ノ島 小田急江ノ島線江ノ島駅より徒歩5分
2 渚橋 横須賀線逗子駅より徒歩15分
3 林ロータリー 横須賀線逗子駅よりバス林下車
4 油壺 京浜急行久里浜線 三崎口駅からバス油壺下車
5 毘沙門 京浜急行久里浜線 三崎口駅から徒歩1時間10分
6 京急長沢駅 京浜急行久里浜線
7 堀之内駅 京浜急行本線
8 金沢八景駅 京浜急行本線
9 新杉田駅 根岸線
10 日本大通り駅 みなとみらい線
11 小島新田駅 京浜急行大師線
12 丸子橋 東急東横線多摩川駅から徒歩5分
13 矢野口駅 南武線
14 はるひ野駅 小田急多摩線
15 柿生駅 小田急小田原線
16, 17 こどもの国駅 東急こどもの国線

               
18 南町田駅 東急田園都市線
19 寿橋 横浜線・相模線橋本駅から徒歩15分
20 境川源流 横浜線・相模線橋本駅からバス青少年センター入口下車徒歩10分
21 小仏峠 中央線高尾駅からバス小仏下車徒歩50分
22 和田峠 中央線高尾駅からバス陣馬高原下下車徒歩1時間 または 中央線藤野駅からタクシー3050円
23 上野原駅 中央線
24 奥牧野 中央線藤野駅からバス奥牧野下車
25 月夜野 横浜線・相模線橋本駅からバス月夜野下車(三ケ木乗り換え運行日注意)
26 白石峠 御殿場線谷峨駅からバス西丹沢自然教室下車徒歩2時間 または 和出村から徒歩2時間
27 ブナ沢乗越 道の駅どうしから徒歩2時間
28 山伏峠 御殿場線御殿場駅からバス山伏峠下車徒歩10分(旭日丘乗り換え注意)
29 明神峠 御殿場線駿河小山駅からバス明神峠下車(バス運行日注意)
30 駿河小山駅 御殿場線
31 乙女峠 御殿場線御殿場駅からバス乙女峠入口下車徒歩30分
32 箱根峠 東海道線三島駅からバス箱根峠下車
33 湯河原海浜公園 東海道線湯河原駅から徒歩20分
34 真鶴駅 東海道線
35 酒匂川河口 東海道線国府津駅からバス酒匂中学下車徒歩5分




 県境の行政区域     
赤は神奈川県側青は他の都県又は海

平塚市/相模湾−茅ヶ崎市/相模湾−藤沢市/相模湾−鎌倉市/相模湾−逗子市/相模湾−葉山町/相模湾−
横須賀市/相模湾−三浦市/相模湾−三浦市/東京湾−横須賀市/東京湾−横浜市金沢区/東京湾−
横浜市磯子区/東京湾−横浜市中区/東京湾−横浜市西区/東京湾−横浜市神奈川区/東京湾−
横浜市鶴見区/東京湾−川崎市川崎区/東京湾−川崎市川崎区/東京都大田区−川崎市幸区/東京都大田区−
川崎市中原区/東京都大田区−川崎市中原区/東京都世田谷区−川崎市高津区/東京都世田谷区−
川崎市多摩区/東京都世田谷区−川崎市多摩区/東京都狛江市−川崎市多摩区/東京都調布市−
川崎市多摩区/東京都稲城市−川崎市麻生区/東京都稲城市−川崎市麻生区/東京都多摩市−
川崎市麻生区/東京都町田市−
横浜市青葉区/東京都町田市−川崎市麻生区/東京都町田市−
横浜市青葉区/東京都町田市−横浜市緑区/東京都町田市−横浜市瀬谷区/東京都町田市−
大和市/東京都町田市−相模原市南区/東京都町田市−相模原市中央区/東京都町田市−
相模原市緑区/東京都町田市−相模原市緑区/東京都八王子市−相模原市緑区/東京都檜原村−
相模原市緑区/山梨県上野原市−相模原市緑区/山梨県道志村−山北町/山梨県道志村−
山北町/山梨県山中湖村−山北町/静岡県小山町−南足柄市/静岡県小山町−箱根町/静岡県小山町−
箱根町/静岡県御殿場市−箱根町/静岡県裾野市−根町/静岡県三島市−箱根町/静岡県函南町−
湯河原町/静岡県函南町−湯河原町/静岡県熱海市−湯河原町/相模湾−真鶴町/相模湾−小田原市/相模湾−
二宮町/相模湾−大磯町/相模湾−平塚市/相模湾

 神奈川県側の県境の長さは、相模原市がダントツである。津久井3町との合併の結果である。町田駅前から大室山山頂まで、同じ相模原市の県境とは思えないほどの差がある。山北町と川崎市も県境が長いが、前者は全て山、後者の大部分は多摩川である。町田市と県境を接する部分が多いが、これは町田市が細長い形をしており、その周りがほとんど神奈川県だからである。



 県境の多様性

 高層ビル、高級住宅地、新興住宅地、古都、リゾート、工業地帯、畑、田圃、農村、漁村、砂浜、岩礁、漁港、国際貿易港、軍港、マリーナ、空港、ゴルフ場、山、谷、川、丘、谷戸、島、温泉、湖、池、城跡、神社仏閣、全部ありの県境であった。改めて、日本の縮図、神奈川県の多様性を実感した。



 県境の距離

 ところで、神奈川県境の距離はいったいどれくらいあるのだろうか。調べたがどうしてもわからなかった。一日平均15km歩いたとして、36日で540kmになる。もし、公式統計をご存じの方がいたら、教えていただきたいものだ。



 謝辞

 自分の住む神奈川県の端の移り変わる景色と季節を感じながら歩き、新たな発見をするのは楽しかったのですが、途中で他のことに手を出したりして、なかなか先に進めない日もありました。そんななかで、バカバカしく、何の得にもならないこの企画の目的を達することが出来たのは、望外に多くの方に読んでいただいたおかげです。さらに、感想をいただいたり、励ましていただいた方にはどれだけ勇気づけられたことでしょう。それがなければ、この孤独な旅は貫徹出来なかったと思います。ここに改めてお礼を申し上げます。
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